第5話 デートのお誘い?
あかりは、いつもニコニコしている。
千冬も、よく微笑んでいるけど。
どこか取り繕っている自分とは違って、心の底からのスマイル。
いわゆる、陽キャという奴だろうか。
いや、天真爛漫という言葉の方が可愛らしく、彼女にふさわしい。
「ママの作ってくれたお弁当、美味しいな~」
ニコニコ、モグモグ。
「……ねえ、あかり」
千冬は箸を置いて、彼女に声をかける。
「ほえ? なに、ちーちゃん?」
「えっと、その……川村くんのことが、好きって言ったけど……」
「うん。えへへ、改めて言われると、恥ずかしいね」
「ちなみに、どういった所が……」
「んっ? 川村くんって、さっぱりしているじゃん」
「そ、そうね」
さっぱりというか、あっさりだけど……
「だから、付き合っても嫌な空気にならなそうだし。もし、あたしが他の男子と楽しくしていても、変に粘着しないだろうし」
「粘着……」
そのワードが、正に嫌にねばっこく、千冬にまとわりつく。
それはいま、自分が彼に対してしていることだと思ってしまうから……
「ちーちゃん、どうしたの?」
いつの間にか、あかりが千冬の顔を覗き込んでいた。
くりっくりの、可愛らしいおめめで。
「な、何でもないわよ」
千冬は変にドキドキしながら、ぎこちなくもそう返す。
「ていうか、ちーちゃんって、間近で見ると本当に美人だね。お肌もスベスベだし」
「あかりこそ、とても可愛らしいじゃない。お肌もピチピチで」
「えへへ、またちーちゃんに褒められたぁ」
素直に照れるあかりは、お世辞抜きで本当に可愛いと思う。
それゆえに、胸の奥底で嫉妬心が湧き上がりそうになるのを、千冬は何とか堪えた。
「ところで、ちーちゃんって、普段は何を食べているの? ちょっと、お弁当を見せて」
「えっ? 別に普通よ?」
「いや、何を食べたら、そんなにお胸が育つのかなって」
「や、やめてよ、恥ずかしい」
「えへへ、ごめんね。セクハラしちゃった~」
また屈託なく微笑むあかりを目にして、顔を背けたのは、セクハラ発言をされた羞恥心よりも……いや、何でもない。
「よーし、あたしもがんばって、おっぱい育てるぞ~」
どこまでも明るく可愛いあかりを脇目に、千冬の心はずっしりと重く、沈んで行くようだった。
◇
放課後。
千冬にとって、事件が生じた。
それは、あの日、彼に告白された時ほどの衝撃ではないけど……
「ねーねー、川村くん。ラーメン、好きなんでしょ?」
「うん、そうだよ」
「実はね、あたしも好きなんだ~」
「へぇ~、須藤さんも?」
「そうだよ~。だからね、今度、一緒にラーメン食べたいなって」
「おお、良いよ。何なら、今から行く?……って、言いたい所だけど。さすがに、ここ数日ずっとラーメンだから、ちょっと胃袋を休めないと」
「うん、それは大事なことだね♪」
「じゃあ、今度の週末、美味いラーメン屋にでも行く?」
「え~、良いの~? お休みの日に、それって、デートみたい~!」
「ああ、ラーメンデートだね」
「わ~い!」
そんな風に仲睦まじく話す勇太とあかりを見て、千冬は愕然としてしまう。
「おい、勇太。お前、何を須藤さんにまでちょっかい出してんだよ~!」
勇太が友人に絡まれる。
「違うよ~。あたしの方から、声をかけたの~」
「ちくしょう、何でお前ばかり、可愛い子と仲良くなるんだよ~。森崎さんとかさ~」
「まあ、クラスメイトだから」
「ねえねえ、俺らも一緒に、そのラーメンデートに行っても良い?」
「え~……ごめんね、あたしって意外と、うるさいのが苦手だから」
「「「ガーン!」」」
勇太の友人たちは、速攻でノックダウンされた。
「あはは、悪いな、みんな」
「何だよ、勇太この野郎、その言い草は」
「勝ち組のつもりかよ」
「殺す!」
「怖いから怒るなって」
ゲラゲラと、賑やかな空気が漂う。
勇太とその友人の輪に、あかりは自然に溶け込んでいる。
それは、千冬には出来ないこと。
一歩後退ると、背中を向けて、その場から立ち去ろうとした。
「あ、森崎さん」
呼ばれて、ピタッと足を止める。
振り向くと、勇太がそばにやって来た。
「川村くん……」
「あのさ、今度の週末って、何か予定ある?」
「えっ?」
「今さ、須藤さんとラーメン食いに行くって約束したんだけど。良ければ、森崎さんも一緒にどう?」
「で、でも……デートなんだから、2人きりの方が……」
千冬は、遠慮がちな目を、勇太とそれからあかりに向けた。
あかりは一瞬だけ、キョトンとしながらも、すぐにニコッとしてくれた。
「うん、ちーちゃんなら、良いよ。大人で物静かだから」
「じゃあ、決まりだな」
「あ、あの、私……」
「んっ? ああ、ごめん、勝手に話を進めて。やっぱり、あまりラーメンは好きじゃないかな?」
「そ、そんなことはないけど……」
千冬はモジモジしながらも、
「……迷惑で邪魔にならないなら、私も一緒に」
「やった。ていうか、迷惑で邪魔とかないから。ねえ、須藤さん?」
「うん、そうだよ。まあ、ちーちゃんのおっぱいは、ちょっと邪魔だけど」
「須藤さん、いくら女子同士でも、そのセクハラはひどいよ」
「ごめんちゃい」
勇太に笑って注意され、あかりは可愛らしく舌を出した。
「そうだ、連絡先の交換をしようか」
「はーい。あ、ちーちゃんの分も、あたしから送ろうか?」
あかりがスマホを持ちながら、くるっと千冬に振り向いて言う。
「……い、いえ。自分でするわ」
千冬はスマホを取り出して、勇太にそっと近づく。
「じゃあ、交換しようぜ」
「え、ええ」
千冬は、同じくスマホを出し出す彼の笑顔を、直視できなかった。
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