第4話 高嶺の花だけど……

 午前中のラスト、4時間目の終わりごろになると、大半の生徒は昼休みのことで頭がいっぱいになるだろう。


 今日のお弁当、何だろうな?


 購買に行こうかな。それとも学食に行こうかな。


 みたいな感じで。


 ちなみに、俺は……


「ん~! さてと、学食でラーメンでも食うか~!」


 と、椅子に座りながら背伸びをして言う。


 すると……


「……また、ラーメンなの?」


「んっ? あ、森崎さん」


 また腕組みをして佇む彼女がいた。


「そんなにラーメンばかり食べていると、体に悪いわよ」


「まあ、そうだけど……美味いし、サッと食べられるから」


「食事はもっと、ゆっくり落ち着いて食べた方が、体に良いわよ」


「まあ、まだ若いんだし、大丈夫だよ。ていうか、森崎さんって、ラーメン嫌い?」


「嫌いってことはないけど……普段、あまり食べないから」


「へぇ~。じゃあ、今度一緒に食べに行く?」


「はぁ!? な、何で私があなたと何て……」


「まあ、そうだよね。女子の友達と行ってみると良いよ。最近は、ラーメン好きの女子って結構いるし」


「そ、そうね……機会があったら」


 森崎さんはぎこちなく頷く。


「お~い、勇太ぁ。メシ行くぞ~!」


「おう、いま行く」


 友人の呼びかけに答えてから、


「じゃあ、森崎さん。俺、行くから」


「え、ええ」


 俺は彼女に背を向けて教室を出た。




      ◇




 何なのよ、この気持ち……すごく、モヤモヤする。


 千冬は、すでに去っていなくなった彼の背中を追い求めるかのように、教室の出入り口を睨んでいた。


「ねえねえ、ちーちゃん」


「えっ?」


 呼ばれて振り向くと、ショートヘアの愛らしい女子がいた。


「あ、あかり……どうしたの?」


「ちーちゃんって、川村くんと仲良いの?」


「へっ? いえ、別にそんなことは……たまたま、話す機会があっただけって言うか……」


「そうなんだ、良かったぁ」


「えっ?」


「ここだけの話、あたし、川村くんのこと、ちょっと良いなって思っていたから」


「そ、そうなの?」


「うん。しかも、同じラーメン好きとか、もうこれ運命でしょ?」


「あ、あかりもラーメンが好きなの?」


「大好きだよ」


 屈託なく笑って言う彼女が眩しくて、千冬は直視ができない。


 須藤すどうあかりは、2年生になって同じクラスになったばかり。


 けど、誰とでも仲良くなれるフレンドリーな性格の彼女は、もう千冬のことを『ちーちゃん』とあだ名で呼んでいる。


 千冬は決して高飛車、あるいは高圧的な性格ではないけど、みんなが憧れるマドンナ、高嶺の花だから。


 同じ女子と言えども、普通は声をかけるのに緊張してしまうくらいだから。


「もし、ちーちゃんが、川村くんのこと好きって言ったら、どうしようかと思ったよ。だって、そうしたら、絶対に敵わないもん。ちーちゃん、美人でおっぱい大きいし。あたしなんて、小柄でちっぱいだからさ」


「そ、そんな……で、でも、あかりだって、すごく可愛いじゃない。友達も多いし」


「本当に? えへへ、ちーちゃんにそう言ってもらえると、あたし自信が持てるなぁ」


 ニコニコと笑うあかりは、純粋に可愛いと思った。


 千冬は、一瞬、勇太とあかりが2人並んで、笑顔で歩く姿を思い浮かべて、なぜか胸がチクリとした。


「あ、ちーちゃん。せっかくだし、一緒にお昼食べない?」


「……ええ、良いわよ」


「やったー」


 ピョンと跳ねるあかりはやはり可愛らしい。


 それなのに、千冬は少しだけ、胸の内でムカッとしてしまう。


 そして、そんな自分に嫌悪感を抱いた。




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