第20話 ファスナー上げてもらえるかな?


 三人で駅前の古着屋に出かける。

店内に入ると所狭しと服やバッグ、シューズが並んでいた。

奥の方にはギターやおもちゃ、家電製品などが見える。


「結構何でもあるんだな」

「そう、結構なんでもあるのこの店。しかも結構安いんだよ」


 白石さんの手にはさっき話していたショートパンツが何本か握られている。


「里緒菜、これはいてみて」

「こんな短いショートパンツはくの?」

「ベースはこれで、あとでリメイクするよ」

「そっか、さすがにこんな短いのは履いたことないから、ちょっと恥ずかしいかな……」


 白石さんから渡されたショートパンツを手に持ち、試着室に入っていく。

試着する時間、俺はちょっと暇だ。

何かいいものないかなと店内を物色する。


 靴下に弁当箱、熊の木彫り人形にこけし。

テレビにカメラのレンズ? おぉ、これはちょっとほしかったレンズじゃないか。

が、結構いい値段する。でも、ちょっと気になるな……。


「広瀬君いた。何してるの?」

「レンズ見てた」

「ふーん、なんかどれも同じに見えるね」


 違う! 全然違うよ白石さん!


「えっと、これがズームレンズで、こっちが単焦点。で、これが……」


 俺は白石さんに説明する。


「広瀬君も好きなことになると、たくさん話してくれるんだね」


 いかんいかん、熱が入ってしまった。


「ごめん、興味ないよね」

「そんなことないよ。私を撮ってくれるカメラだもん。広瀬君が好きなことは、私もきっと好きだよ」


 ショーケースを一緒に眺め、うっすらと鏡に反射する白石さんを鏡越しに見る。

そのまなざしはとてもやさしく、きっと本当に思ったことを言ってくれていると思う。


「そろそろ行ってみようか?」

「俺も行くの?」

「もちろん」


 試着室から出てきた槻木さんは、もともとはいていた制服のスカート姿からショートパンツ姿になっていた。

こ、これは太ももの付け根まで見えているじゃないですか。


「どう? きつくない?」

「うーん、太もも周りは平気なんだけど、ちょっとウエストが……」

「サイズはあっていたんだけど、古着だたらちぢんじゃったのかな? じゃぁ、もう一つの方は?」

「あっちはぶかぶか。サイズ表記はあってるのになんでだろ?」

「メーカーによってちょっとサイズが違うみたいなんだよね。じゃぁ、色もこれがあっているし、これにしようか?」

「お、お腹周りは?」

「イベントまでに頑張って」


 白石さんの微笑みがちょっと怖い。


 それから何点か服を選び、シューズや細かいものを調達していく。


「あ、これ可愛い」

「あおばに似合いそう。ついでに買っていく?」

「どうしようかな……。試着してみていい?」


 淡い青のワンピース。白石さんは気に入ったようで試着室に入っていく。


「んー、私も何か買おうかな。広瀬っち、ここは任せた。ちょっと服見てくるから」


 そう言うと槻木さんはお店の奥に消えていった。

え? 俺一人で待つの?


 数分後、試着室から声が聞こえる。


「里緒菜、ちょっとチャック上げてもらえる?」

「あー、槻木さんは服を探しにどこかに消えたよ」

「え? どうしよう……。ま、いいか。広瀬君ちょっとチャック上げてもらえないかな?」

「お、俺が?」

「そう。大丈夫、ちゃんと服着ているから。どうしても一番上まで上げられないの」


 俺は考える。どうする? ここで断るのか?


「わ、わかった。カーテンあけるよ」


 カーテンを開けると後姿の白石さんが立っている。

髪を左右に分け、肩から前に流している。

そして、チャックが少し開いたままで、背中が見えている。


「ここ、チャックの場所わかる?」

「これか?」


 俺は少しだけ震える手を抑えながら、白石さんが着ているワンピースのチャックを一番上まで上げた。


「んー、どうかな?」


 くるりとまわり、スカートが少しだけ宙に浮く。

その姿は初夏にはあっており、白石さんのイメージともぴったりだ。


「いいんじゃないか? 似合っているよ」

「よかった。でも、一人だと着にくいな……。でも五百円だし、買ってもいいかな」


 安い……。古着だけど一着五百円は安い。


「あおばそれ可愛いね。私も見つけたよ」

「あ、そのスカート可愛い!」

「でしょ。掘り出し物だよ」


 女子トークに華が咲く。

こうして予定時間を大幅にこえ、店から出ることになる。


「すっかり暗くなっちゃったね」

「なんでだろ? さっきまであんなに明るかったのに」


 二人が何着も服を変えては試着して、それに合わせたバッグとかも探して、何度も何度も……。

いや、考えるのはやめよう。二人は女の子だもんね。


「腹減ったな……」


 おやつは白石さんがくれたクッキーだけ。小腹がすく。


「じゃ、クレープでも食べに行こうか?」

「いいね。あおばはあそこのクレープ好きだもんね」

「クレープか……。夕食まではそれでもたせるか」

「じゃ、こっち。近道していこう」


 メインストリートではなく、一本裏の路地に入っていく白石さん。

きっと何度もここに通っているんだろうな。


「広瀬君はなんのクレープが好き? 私はストロベリー」

「俺か? 俺はブルベリーだな」


 クラスメイトとたわいのない話。

買い物に行ってクレープを食べる。

こんな時間は今じゃないとできない。


「里緒菜、早く行こうよっ」

「まってよ、急がなくてもなくならないからっ」


 二人は走って先に行くってしまう。

俺も二人を追いかけ、人ごみに消えていった。

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