第18話 side マロリー

 私、マロリー・フォロドワには優秀な従兄弟がいた。

 アンブルフ帝国第二皇子 アーティ・フォン・アンブルフ。

 弱冠5歳にして初代皇帝の神器に選ばれ、強大な闇の加護を持って生まれた皇室始まって以来の神童だ。

 彼の母、ベアトリス第二皇妃はフォロドワ侯爵家の長女で、現侯爵家当主の妹である。

 つまり、現皇帝の第2夫人…側妃は私の叔母に当たるのだ。

 そんな叔母が私の父親…ルイス・フォロドワに自分の息子に側近候補を送ってほしいと無茶振りを寄越した。

 今まで散々突っぱねていたのに、一体どんな心変わりをしたのか。

 従兄弟の第二皇子は身の回りの世話をする侍女二人しか側仕えを許さなかったのに。

 しかし、頼まれた以上、侯爵家としては誰か紹介しないといけない。

 そこで、

 

『マロリー。第二皇子殿下の側近候補としていってくれ』

 

『本気ですか?父上?』

 

『当然だ。ベアトリスからの頼み事だ。半端な者を送る訳にはいかん』

 

『それはそうでしょうが…突然どうして第二皇子は側近を欲しがり出したんですか?』

 

『さて、な。ベアトリスに似て合理的な甥っ子の事だ。何かしら理由はあるのだろうが…昔から第二皇子殿下のお考えが読めん』 

 

 父がそういう以上に私は従兄弟の第二皇子とはほぼ面識はなかった。彼の誕生日祝賀会の時に顔を合わせて挨拶する程度、それ以外縁戚なのに関係を持っていない。

 これは家からの干渉を避ける意図を持って叔母である第二皇妃がわざとそうしていたのらしいが、ここに来て息子から頼まれて手のひらを返されると私達親類側としては中々複雑な気持ちだ。

 

『とりあえず頼んだぞ?第二皇子とはいえ、気に入られれば相応に出世の道も開く』

 

『畏まりました』

 

 断れる立場でない。

 寧ろ私の立場からすれば、またとない機会でもある。

 爵位が長子継承であるのが法ならば、次男以降は継承予備として相応に教育は受けるが、爵位や仕事を得られない以上、己が才覚で手に入れなければならない。

 ということは、だ。

 相手が皇族の中で1番謎が多い第二皇子であろうと、その側近となれれば、相応の爵位は与えられ、仕事にもありつける。

 

 (またとない好機だと思ったが……早まったかもな)

 

 呼び出され、久し振りに従兄弟である第二皇子の姿を見たが、身が総毛立った。

 ただ座っていただけなのに、その辺りを漂う空気が尋常ではなかった。

 本当に同年代かと疑わしく思うほどの覇気を纏っていた。

 第二皇子は余り恒例行事には顔を出した事がなかったので気づかなかったが、現皇太子である第一皇子と比べると存在感が違いすぎる。

 そして、殿下から頼まれ事をされ、ますます皇子の事が良く分からなくなった。

 

 (エスペラント公爵令嬢へ手紙を渡すなんて…従者の使いみたいな事を…。しかも、渡した後の指示も意図がわからん)

 

 エスペラント公爵令嬢の反応次第なんて曖昧な。

 

 (だが…殿下は令嬢が手紙を読んで公爵に判断を仰ぐのを確信している口振りだった。つまり…それだけ自信が持てる何かしらの情報が手紙に書かれているということ)

 

 内容は想像もつかないが、使いを3人やる程の事だ。

 相応に重大な事のように感じる。

 手紙の内容を聞いて公爵がその場で手紙を書くほどの内容なら尚更だ。

 

 (ハイエルン嬢が同じく側近候補に居てくれたのは僥倖だった。エスペラント公爵令嬢と接点がないからな。もし居なければ面会を申し込むのも一苦労だ)

 

 フォロドワ侯爵家は側室とはいえ妃を輩出した家柄だ。

 相応に帝国内で影響力を持ってはいる。

 だが、建国から国を支え続ける四大公爵家とは比べるべくもない。

 

 (ハイエルン嬢が居るなら私達はお役御免のはずだが…わざわざ同行させたとなると、殿下に何かしら意図あるな)

 

 手紙を渡して返事を貰うだけで私やコールブライト子爵子息まで付き添わせる必要はない。

 そもそも、だ。

 

 (手紙を送るのもまたおかしい話だ。殿下が公爵本人に直接内容を話せばいいはず)

 

 しかし、そうしなかったということはだ。

 皇宮内で話す内容ではないのだろう。

 

 (エスペラント公爵家は皇太子の後ろ盾をしている。更に令嬢が婚約者として発表されてもいる。そんな彼らに第二皇子が一体どんな用事があるというんだ?)

 

 現状、第二皇子はどの派閥の影響も受けていない。

 皇族派のノーザンと縁は結んでいるとは思うが、影響された印象はない。

 ということは、これは派閥間の何かしらのやり取りではなく、あくまで個人的なやり取りと思われる。

 

 (まるで読めない…この時期に殿下はエスペラント公爵家とどんなやり取りをしようとしてるんだ?)

 

 殿下の考えを読もおうとすればするほど深みにはまる。

 考えている間に同乗させてもらったハイエルン公爵家の馬車はエスペラント公爵家のタウンハウスに到着した。

 これから何が起きるのか分からない。

 ただ今の状況はきっと何もかもが、あの得体の知れない第二皇子の掌中であると思うと、居心地が悪かった。

 

 

 

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乙女ゲームの婚約破棄クズ皇太子の弟は、実は異世界召喚された伝説の王の生まれ変わりだった件 嵩枦(タカハシ) 燐(リン) @rin20200813

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