第15話

 イヴァンと取引を成立させ、滞在の一週間が終わり。

 俺が皇都へと帰還する日が来た。

 イヴァンとリズ、そしてゾフィーから見送り受けていた。

 

「では、また1ヶ月後に今度はリズに任せず貴方が出迎えてくれる事を期待してます、ノーザン公」

 

「ふん!善処させて頂くよ、殿下」

 

 握手しながら別れの挨拶を交わし合う。 

 

「リズ。ゾフィーの事、頼んだよ。きっと君の力になる」

 

「はい。頼りにさせてもらいます」

 

 会話から分かる様にゾフィーはノーザン領に置いていくことにした。解雇した訳じゃないぞ?定期的にノーザン領へ来る為、イヴァンが城内に俺の専用部屋を用意してくれたので、その管理者として残ってもらうことにした。

 …というのは建前で。

 

 (ゾフィーは本来騎士志望だったからな。リズの護衛騎士にちょうどいい)

 

 本当は一時とはいえ、手放すには惜しい。

 俺がミーナに頼んだ結果、侍女兼騎士として働いてもらっていたゾフィーだが、俺自身が自己防衛出来てしまう為に騎士としての仕事がなかった。

 とはいえ、俺も皇族である以上、形式上は護衛騎士は配置する必要があった訳でゾフィーは異性でありながら適役でもあった。

 しかし、これでは本人も可哀想で、この前のリズの護衛はとても楽しそうであった為、彼女の護衛をしてもらうことにしたのだ。

 

「ゾフィーも役目頼んだよ」

 

「お任せ下さい殿下」

 

 俺の言葉に丁寧にお辞儀して了承する。

 そろそろ出立の時間なので、俺は挨拶もそこそこに馬車へと乗り込んだ。

 小窓から手を振ると彼らは頭を下げて見送ってくれた。

 彼らが見えなくなると小窓から顔を離し、反対側に座るミーナに声をかける。

 

「また当分、ミーナだけになるな」

 

「ご不満ですか?」

 

「いや。お前はどうなんだ?」

 

「そうですね。あの娘が居ないとその分、業務の穴が空く訳ですから、昔なら私1人でも回せましたが、やはり代わりの人を探し入れて頂きたいです」

 

 まぁ、確かに。

 幼少期ならまだしも今はやる事が色々増えたので、人手が必要なのは事実だ。

 だが、

 

「中々に難しいな」

 

「殿下は人を選び過ぎますから。でも信頼出来ぬ者を傍に置けないという考えは理解出来ますが」

 

 忠言するミーナの気持ちは理解している。

 確かに俺は人を…信頼できる人間しか傍に置こうと思わない。それは1000年前の乱世、鬼哭啾啾たる時代。

 人間の闇を見続けた為の警戒心故に他ならない。

 

「どうかご一考を。これから先を考えるなら人手は必要です」

 

「そうだな…」

 

 彼女の言う通り。

 一人で何を成すにも手が足りない。

 これから手を広げるには本当に人が必要だ。

 自分だけでは限界がある。

 

「陛下に相談するか」

 

「ベアトリス様ではなく?」

 

「無論、相談する。母上も実家からの圧力を押し込めて気疲れされているだろう。そちらから何人かは置かんと収まりもつかない」

 

 甚だ不本意だが、それが貴族の政治だ。

 

「良い人材が来てくれれば良いけど」

 

「最初から何でもこなせる人間はおりません」

 

「分かっているよ」

 

 そんな事は否が応でも理解している。

 かつて…1000年前の俺がまさにそうだったのだから。

 今の俺は反則的な存在に過ぎない。

 

「分かっているさ……」

 

 俺と同じ人間なんていない…いや存在しない。

 肉体は人間でも魂はもはや常人のモノではない。

 もはや、この身は理から外れた者だ。

 

「いきなり、そこまで求めるのは酷というもの。重々承知しているよ、ミーナ」

 

「…失言、お許し下さい」

 

 俺の顔を見て、居た堪れない表情を浮かべ頭を下げて謝罪してくる。

 そんな表情で謝るほどに俺の顔色は悪かったのだろうか。

 それ以上、ミーナが俺に話しかけてくる事はなく。

 馬車は予定していた経路を通り、幾つかの街を経由し、問題なく俺は皇都へ帰還した。

 報告の為にそのまま登城し、皇宮に居る父に謁見する。

 

「北部の慰労、ご苦労だった」

 

「問題なく帰還致しました」

 

 父に北部での結果を伝える。

 

「送った貴族の子息子女たちは鍛錬に励んでおられました。とはいえ、実戦経験が少ないので、今暫くは安全な後方で支援に徹させるとの事です」

 

「で、あろうな。まぁ、良かろう。今は子猫でも時が経てば、一端の虎になる」

 

 鍛錬で技術を磨いても、戦場で実践し、経験を積まなければ真の意味でものにはならない。

 

「本当にご苦労だった。暫く身体を休めよ」

 

「ご厚情痛み入ります。つきまして、陛下にお願いがございます」

 

「北部から帰ってくるたび、願い事を口にするようになったな」

 

「経験を積み、己の至らぬ部分を学びましたので」

 

「よかろう。申してみよ」

 

 特に文句も言われず話を促されたので言う。

 

「人を紹介頂きたいのです」

 

「ん?人?」

 

「はい。護衛騎士と助言役のような側近になりそうな人材を紹介して頂きたいのです」

 

「ほぉ…そうか。ようやく傍に人を増やす気になったか」

 

 父が驚いた様に言った。

 皇帝の息子、娘達の中で俺だけが唯一侍女以外の人間を置いていなかったのだ。

 

「分かった。適任な者を数名、ベアトリスと相談の上でお前に紹介しよう。その方がお前や彼女にとって都合が良いだろう?」

 

「ありがとうございます」

 

 流石だ。

 伊達に皇帝ではない。

 側妃の家の事を織り込んで、俺の要望を聞き届けてくれた。

 そこからおよそ3日後。

 父と母が厳選した人材が俺の元へと送られてきた。

 

  

 

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