第14話
リズとゾフィーが傭兵達へ刑罰を下していた頃。
俺とイヴァンは彼の執務室で話し合っていた。
「北部の面倒事はこれで粗方片付きましたね」
「あぁ、お前の目論見通りだな」
俺の言葉にイヴァンが面白くなさそうに言い返してきた。
「なんですか、それは。まるで俺が全ての黒幕みたいな言い方ですね」
「違う様な物言いだな」
「俺が皇帝陛下より賜った北部の仕事は終わっています。傭兵の仕置きに関しては範囲外ですよ」
「本当にそうか?」
疑いの眼差しを向けられる。
「お前は北部に来る前から、こうする様に俺のことを誘導していた。唯一の想定外はリゼットの存在だけで、それは大した問題でなかったんだろう」
俺はイヴァンの話を黙って聞き続ける。
「皇帝はお前を魔獣大発生を収める為に寄越してきた。だが、実際のところはどうだ?本当はそうなるようにお前がけしかけたんじゃないか?」
「陛下の思考を誘導したと?それこそまさかです。俺が陛下の思考を操れる訳ないじゃないか」
そう。父を操ってはいない。
ただ、そうなるように導きはしたが決して父の意思には干渉していない。そういった意味ではイヴァンの言葉は言いがかりだ。
「お前の意図したものではないと?」
「俺だろうと誰だろうと、結果的に北部の治安は安定しました。魔獣の襲撃に対する対抗策で戦力は五分。長期的の事を考えれば優れた騎士や兵士を増やしたいですが、良い素材は集まっている。あと三、四年もあれば雛鳥も一端の鳥にはなる。おかげで山脈を隔てる隣国のルレーシヤ帝国への警戒を強められます」
「北側の帝国がそんなに気になるか?」
「各四方の国境に隔ててある国々は注視するのは当然。北のルレーシヤ帝国、西のドグラマ王国、南のフランメル公国、東は海を隔ててシムリヤ魔国。どの国も不戦条約を締結してますが油断ならない」
1000年前とは状況や情勢も変わっている。
俺が死んだ後、平定された世界は結果的に幾度も争いを起こしている。それは人の
「今、お前が怪しんでるのはドグラマだったな」
「ドグラマとは過去何度も小競り合いを繰り返してきた。奴らは帝国の保有する海洋ルートが欲しいんだ。我が国は唯一、魔国と国交があり、彼らとの海運で少ないない利益を得てるからな」
「それは初代皇帝と魔国の”無変ノ女王”が約定を結んだからだろう。かの女王がナハト帝の臣下だったから出来る国交だ」
イヴァンの言う通り。
人とは異なる魔族という複数の亜人種族が暮らすシムリヤ魔国の女王は俺のかつての臣下…帝国の五鈷大将軍と呼ばれた1人だった。
帝国がこの大陸で覇を唱え、平定した後に故郷へと戻り、彼女は女王として即位し、帝国と約定を交わしたのだ。
それは俺の死後もどうやら変わることなく守られていた。
人間ならば破られてもおかしくはない約定だが、相手は魔族。
寿命は俺達よりも遥かに長い。それこそ種族によっては千年など余裕だ。特にかの女王からすれば千年など瞬くものかもしれない。
だからこそ、
「女王は初代皇帝との縁で俺達と国交を続けているだけ。何度も戦をしたドグラマと国交など有り得ない」
「シムリヤを侵略しようとしても海戦をしらんドグラマじゃあ、敗戦は濃厚だろうな。そも帝国を滅ぼそうとしたら、かの女王は烈火の如く怒って逆にドグラマを滅ぼしに来そうだな」
初代皇帝の元で大将軍位いた女傑。
昔の彼女のままならばやりかねないと俺も思う。
「四方は仮想敵国だが、その点シムリヤへはそこまで警戒を必要ない。無変ノ女王が在位である限り、シムリヤが帝国へ弓引く可能性は限りなくゼロだ」
「つまり現状注意すべきはドグラマか」
「加えてルレーシヤもだ。あそこの皇太子の行状はよろしくないという情報が入っている。かの国の皇帝はまだまだ健在だろうから、そう荒れはしないだろうが…」
後継者に問題があるとなれば、話は変わってくる。
暗愚を祭り上げて治世が乱れるのは、いつの世も変わらぬ理だ。
そして治世の荒れは自国だけではなく、他国にも作用する。
「ララト山脈で隔たれているとはいえ、油断出来ない」
「山脈を越境してくる可能性が?」
「ないとは言いきれない。でも山脈を隔てた向こう側の土地は先住民のカルダ民族が帝国建国以前より暮らしていた地。今はウルスという家名を与えられて公爵位となって治めていたはずだ。彼らがその気になれば越境など容易いだろう」
事実、1000年前は山脈を挟んで幾度かこちら側とあちら側の民族同士で小競り合いをしていた。
「とはいえ、この土地の地形上、攻めるのは難しいからな。無理な越境は余程の理由がない限りしないだろう」
「山脈自体が天然の要害に等しいからな。越境するにしても相当な準備を要するしな」
これはアンブルフ帝国側もそうだ。
山脈を隔て隣接する国へ侵攻するのに準備が一苦労。
無理して攻めるメリットは皆無。
守勢に回るのが一番良い。
「しかし警戒しない訳にはいかない。念には念を入れるに越したことはない」
「確かにな…で、お前は俺に何を望んでいるんだ?」
前置きはここまでにしようと、イヴァンが暗に言ってきた。
本題はこれからだ。
「ノーザン公に幾つか頼みたいことがある」
俺は彼にやってほしいことと、個人的願いを口にした。
それを聞いてイヴァンは何か愉快そうな笑みを浮かべ、断ることはしなかったが幾つかの条件をつけてきた。
別に不都合な事はなかったので、その条件を了承し、イヴァンは俺からの頼みを聞き入れてくれた。
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