第13話 side リゼット

 1度小休止を挟んで広場に赴く。

 騎士達の要請で広場は既に人で溢れていた。

 ごった返す人垣に近づくと人々の視線が私とゾフィーさんに集中する。

 

「あれが公爵様の代理人か?」

 

「まだ子供じゃないか」

 

「それと…侍女も居るな。公爵家のか?」

 

 奇異の視線に居心地悪さと仕方なさを感じつつ、私とゾフィーさんは人混みの中を横切りながら広場中央を目指した。

 広場では騎士達が私の指示通り、今回の事件を起こした傭兵達を拘束して連れてきていた。

 

「くそっ!はなしやがれ!!」

 

「大人しくしろ!!」

 

「判決だぁ!?なんだ、それは!!聞いてねぇぞ!?」

 

 罪人の傭兵達は暴れて叫んでいる。

 自分達が罪を犯した自覚ないのでしょうか?

 私は彼らに歩みより言った。

 

「イヴァン・ノーザン公爵様の代理人として来ました。無駄な抵抗は止めて大人しくして下さい」

 

「ああっ?ガキじゃねぇか!テメェなんかに命令される筋合いねぇよ!!」

 

 傭兵の一人が縛られながらも自分を拘束していた兵士の顔面を肘で殴った。

 逃げる事が出来ないのに何故そんなに高圧的になれるんだろう。

 そっちがその気なら。

 

 (極悪人なんだからちょっと荒っぽく押さえ込んでもバチは当たらないよね?)

 

 私は加護の雷を暴れる傭兵の周りに放とうとした。

 しかし、

 

「下郎。一体、誰に対して口を聞いている?」

 

 横からゾフィーさんが音もなく近づき、縛られた傭兵の身体を地面に倒していた。傭兵の男は状況が飲み込めず、放心しながら彼女の足に顔面を踏まれる。

 

「ぐふっ…なんだぁ…このアマぁ……」

 

「囀るな。お嬢様の耳が穢れる。罪人は罪人らしく、黙して己が裁きを聞き入れなさい」

 

 ゾフィーさんが微笑みながら言う。

 今までの上品さが薄れ、戦う者としての覇気が漏れだしている。純粋に怖いです。

 

「ふっ…ざけるなっ!!俺達のおかげで魔獣共を駆逐出来てるんじゃねぇか!!」

 

「…貴方達だけでなく多くの兵士や騎士達も日夜、魔獣共と戦っています。貴方達の力だけで戦線を維持出来ている訳じゃない」

 

 私は傭兵の言葉を切って捨てた。

 そう。別に兵力全てを傭兵達に依存してはいない。

 特にここ数ヶ月…アーティ様が北部に来てから傭兵達の戦力は大して当てにしてはいなかった。

 

「魔獣から出る魔石を換金して生計を立てている貴方達とノーザン領の事情が一致したからこそ、貴方達の力を借り受けていただけの事。でも、最近はあまり傭兵業の稼ぎは芳しくないようですね?」

 

「っ…」

 

 私の指摘に傭兵達の顔色が悪くなる。

 事実、彼らは最近稼げていないのだ。ノーザン公爵家から出る給金と合わせ、魔石の換金から生じるお金もあったから、彼らは北部で領民達よりも裕福な生活が出来ていたのだ。

 だが、アーティ様が行った戦術によって状況が一変した。

 

「第二皇子殿下が参戦された際に施された魔獣の死骸から出る魔石を活用する遠距離式境界線爆破戦術。これによってノーザン公爵領軍が死骸から魔石を精力的に集めだした事で、貴方達は副収入を失う羽目になった」

 

 それまで出来た生活水準で彼らは暮らせなくなった。

 

「以前よりも収入が下がった事は仕方無いことです。情勢が情勢ですから。でも、城内の兵士並の給金はもらって平等の待遇を与えてるにも関わらず、犯罪沙汰を起こした事は看過できません」

 

「うるせぇ!ガキが知った風な口を…ぐっ、ぎっ」

 

 ゾフィーさんに踏まれている傭兵が罵ってこようとしたが、その前に彼女の靴底の圧力が強まって台詞を止められた。

 それに同調して、他の傭兵達からも罵詈雑言の声が上がり始めた。

 見た目少女(中身、前世記憶持った成人女性)の私に痛いところを逆上してしまった様子。

 これは流石にゾフィーさん一人では収拾が付かなそうなので、私は遠慮なく雷撃を彼らの周囲へ打ち込んた。

 

「暴れないでそのままじっとしててくださ〜い」

 

「「「ひっ…」」」

 

 自分達の側に落ちた雷で地面が陥没する様を見て、騒いでいた傭兵達は大人しくなった。

 私を化け物でも見る目をしてか細い悲鳴を上げる。

 失礼な奴らだ全く。

 

「静かになった様ですから、公爵様からの判決を言い渡しますね」

 

 私は判決状を読み上げた。

 傭兵達は自分達の罪状を聞きながら顔を青ざめさせる。

 そして、

 

「で、刑罰に関しては私に一任されています。最初は2択にしようかと思っていたのですが、とある御方のご助言を受けまして、考えを改めました」

 

 コイツらに情状酌量を与える必要はない。

 私は指先を男の股の間に指して告げる。

 

「貴方達はこれからそのままの格好でソレを切断した状態で戦線に放り出そうと思います」

 

「「「はぁぁぁぁーっ!?]」」 

 

 傭兵達の絶叫が広場に響き渡る。

 

「なんでそんな事されなきゃーーピギャッ!?」

 

 ゾフィーさんに踏まれてる傭兵が私へ異議を唱えようとしたが、それより先に彼の大事な部分をゾフィーさんが容赦なく踏み潰した。

 ある意味、切るより残酷かもしれない。

 

「あの…ゾフィーさん。まだ執行命令を出してませんけど…」

 

「すいません。つい反射的に」

 

 謝罪を口にしながらも清々しい笑みを向けてくる彼女。

 それを見て、私は「あ、この人間違いなく殿下の侍女だ」と思ってしまったのは悪くないはずだ。

 一切、悪びれもせず。

 ゾフィーさんは良い笑顔を浮かべているのだから。

 まるで、戦場のアーティ様の様に。

 

「まぁ、どのみちやる事に変更はないんですけどね。それより、ゾフィーさん。履いてる靴って普通の靴ですか?」

 

 普通の靴にしては先程から踏み締める度に重い音が聞こえる。 

 

「いいえ。踏み抜き防止用に靴底に鉄板が入ってますが」

 

 聞いて私は改めて思った。

 さも当然の様にそんなものを靴底に入れたりは普通の侍女はしない。

 彼女は紛れもなくアーティ・フォン・アンブルフの侍女であり。

 ゾフィー・リービッヒという彼を護る騎士であると。

 

 

 

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