第12話 side リゼット

 考えを引き締め直すと、馬車は目的地に到着した。

 イヴァンの代理として訪れたのは第一防壁側の区画。

 区画の治安管理を受け持っている第一防壁守備隊の詰所へと向かう。

 詰所の中に入り、受付の騎士にイヴァンから預かった委任状を渡して見せ、私が来た経緯を話した。

 すると、

 

「本当に本物か?」

 

「もちろんです!!」

 

「しかしなぁ〜…君、見たところ子供じゃないか」 

 

 確かに見た目は子供だから信用は薄いかもしれないけどさ!

 ちゃんとノーザン公爵家の家紋の印章が捺されている!

 れっきとした証拠だよ。

 訝しむ騎士に私は更に反論しようとした。

 だが、

 

「御信用が出来ないのであれば、これも加えたら不足はありませんか?」

 

 そう言って横からゾフィーさんが騎士へ封筒に入った書状を渡す。書状は蝋で封をされ、表面に印章が押されていた。

 龍が剣にとぐろを巻いて噛み付く紋章。

 騎士は捺された印章を見て顔を青ざめさせ、書状を手で掲げて膝をつき平服した。

 その印章はこの帝国の皇族が使うもの。

 初代皇帝以来、使われてこなかったものでもある。

 それは皇剣の所持者しか使えないもの印章。

  

「それは我が帝国第二皇子アーティ・フォン・アンブルフ様がリゼット・ガーレン伯爵令嬢がノーザン公爵の代理人である事を追認した書状です。それを読んでも納得がいきませんか?」

 

「そ、その、ような事は決して!?第二皇子殿下の言葉を信じぬ訳がありません!!」

 

 アーティ様の書かれた書状に騎士は信じたようだ。

 当然だ。相手は皇子であり、神器に選ばれた者。

 ある意味、神に認められたようなものだ。

 しかも、その辺りにいる騎士より遥かに強い。

 帝国の騎士にとってアーティ様は畏怖されているのだ。

 何処か釈然しないものの、私は挨拶をする。

 

「リゼット・ガーレンともうします。第二防壁守備隊の隊長を務めております。本日はノーザン公爵の代理人として来ました」

 

「第二防壁守備隊……そうか、君が”白亜の雷霆”か…」

 

 私を見て受付の人がポツリと呟いた。

 何?白亜の雷霆って。私、みんなにそう呼ばれてるの?

 

「ここで起きた事件に関しての処理を委任されています」

 

「事件の内容はお分かりに?」

 

「はい。把握しております。ここで暗誦いたしますか?」

 

「い、いいえ!?滅相もない。私に出来ることならなんなりと!!」

 

 アーティ様の後見があるからか。

 受付の騎士が快く協力を申し出てくれた。

 

「では、罪人達をこの区画の広場へ連行してください。あと、今回傭兵達の被害に遭われた住民の方々も広場にお越し下さるよう伝達を」

 

「はっ!かしこまりました!直ちに!」

 

 私の指示を騎士は了承した。

 これで準備は終了。

 後は罪人達に判決告知と刑罰を与えるだけだ。

 用件を終えて私とゾフィーさんは詰所を出た。

 

「ありがとうございました。ゾフィーさん」

 

「いいえ。殿下も予め予測なされた事です。お気になさらず」

 

 流石、アーティ様。

 私が子供扱いされる事は織り込み済みとは。

 というか、私よりイヴァンの副官ジョンズに任せたらこんな手間は必要なかったんじゃないかと思わなくもない。

 

「それでリゼット嬢?刑罰はいかように?」

 

「うーん…正直パッと二つ思いつきはしてるんですが、どうしようかと?」

 

「リゼット嬢は公爵様の権限を委任され、殿下の追認も得てるお立場ですから、どのような刑罰を申してもそれを覆せるものはおりませんので、思ったようになされてよろしいかと」

 

「ん〜…それだけに慎重に判断したいんですよね」

 

 つまるところ、罪人達の生殺与奪は私次第。

 命が掛かってるし、また再犯を無くす為にも目に見えた処置が必要だ。

 

 (罪状は複数人での女性達や子供達への暴行。あと無銭飲食だったよね…)

 

 無銭飲食は重罪のカテゴリーかは少し首を傾げるが、前者の暴行は明らかに重罪行為に該当する。

 これを裁くに北部らしい刑罰だと。

    

「…魔獣の群れの前に丸太で縛って餌にするか……それか急所の切断…かなぁ?」

 

 ポツリと私がそう呟くと、ゾフィーさんが一瞬目を見張る気配がしたが、すぐに戻って口を開く。

 

「どちらか一方を選ばせるのですか?罪人に?」

 

「二つともは可哀想かなぁ…と思いまして」

 

「ふふふ…リゼット嬢らしいですね」

 

 私の返答にゾフィーさんが微笑んで言った。

 

「そんな貴女の悩みを吹き飛ばすようなお言葉を殿下より頂いております」

 

「アーティ様から?」

 

 一体、何を言付かったんだろう?

 私はゾフィーさんを見詰めて続きを促す。

 

「”君の事だ。二つの選択肢を与えるだろうが、彼らにそんな慈悲は必要ない。後顧の憂いを断つために両方の刑罰を与えてやれ”との事です」

 

 アーティ様…本当にどこまで視えていらっしゃるのでしょうか。私の思考をそこまで読まれると返って怖い。

 彼には未来でも見えているのかと思うほどだ。

 

「そんな風に仰るなら殿下が来た方が良かったのでは?」

 

「ノーザン公も仰っていたかと思いますが物事には体裁がありますから」

 

 わかってる。

 如何に皇族といえど皇帝ではない。

 公爵家ほどの上級貴族が関わる物事に無闇に干渉すべきでない。

 

「ノーザンの地で起こった事はノーザンの者が解決すべきです」

 

「私、徴兵されただけでノーザン公爵家の者ではないですけど…」

 

「でも、今はノーザン公爵家に属する者です。解決する者がリゼット嬢で適任です」

 

 そう言うゾフィーさんに何か違和感を覚え、裏で私の預かり知らぬ場所で動いているような気がしてならなかったが、それ以上、追求する事はせず、彼女と共に指定した広場へ向かう事にした。

 

 

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