第6話

 イヴァンは結局、俺に手勢を貸してくれた。

 その手勢を用いて俺は考えた策を城壁外に張り巡らせていった。それなりに準備と手間が必要なので戦場となる防壁で戦闘を行った後に、片付けと同時並行で準備を行った。

 第1から第4までの防壁の戦場に策を弄し終えて、後は戦いになった時に逐次発動させるだけになった頃。

 

 第何次になるか分からない第二防壁における防衛戦の最中。

 初めて策を発動しようかとしていた矢先。

 それは起こった。

 

 (?なんだ?俺の天候支配に干渉……?)

 

 皇剣と俺の加護を使って行う天候操作の力に何者かが加護を持って干渉してきた。

 今生においての初めてとなる珍事に支配を取り戻そうと力を注ごうとしたら、

 

 

 輝く閃光が空より降りて、戦場を切り裂いた。

 空から落ちた雷は魔獣達へ直撃し、奴らの肉体を焼き崩す。

 

 

 (雷撃の魔法!?自然干渉系の最上位”雷霆”の加護持ちしか扱えないものだぞ!!)

 

 火・水・土・風の四大属性属性とは別に二大と呼ばれる雷・氷属性加護を持つ者は貴重だ。その中でも天候に干渉し雷雲を操るのは最上級の加護を持っていなければ不可能だ。

 まして、

 

 (俺が既に干渉していた天候の上から干渉し制御を奪うなんて。俺の虚の加護の同等でなければ出来ない)

 

 そんな存在は先にも後にも一人しかいない。

 そうたった一人の女性以外に有り得なかった。

 戦場は空から舞い降りた雷撃によって魔獣の殆どが殲滅されて落ち着いている。

 留まっても意味がないと思い、加護の気配を辿って城壁を上がっていく。

 一体、何者だ。彼女と同じ事が出来る人間なんて。

 

 彼女の血筋とはいえノーザン公爵家の加護は”氷”。

 突然変異、先祖返りでもしない限り、逆立ちしても”雷”は加護として宿さない。

 いや、先祖返りしても宿るのは皇族の人間だ。

 となると、かつての妻と同じ突然変異。

 しかし、イヴァンに子は居ない以上、別の者ということになる。

 

「ノーザン公!今の雷撃は!?」

 

 加護の気配はイヴァンの近くに感じたので、そこへ赴いた。

 すると、

 

「お、アーティ。流石のお前も驚いたか?」

 

 イヴァンが彼に似た雪の様な白銀の長い髪に紅玉石の如き綺麗な瞳をした可愛らしい少女を抱っこしながら駆け付けた俺へ迎えた。

 

 その光景に俺は衝撃を受けつつも、少女を千里眼で視て更に絶句した。

 

 (馬鹿な……この娘…千里眼で捉えられない!?)

 

 更なる異常事態。

 総て見通す魔眼で少女の事が全く分からない。見通すことが出来ないのだ。

 こんなことありえない。

 俺が内心で動揺しているのが分からないようで、イヴァンが続けて話す。

 

「アーティ。この娘、お前に預けるぞ?」

 

「あ?へっ?」

 

 少女を降ろしてその頭を撫でながらイヴァンが言ってきた。

 

「お前の策を実行するのに、適切な人材じゃないか」

 

 確かに。

 話の流れから少女が雷撃の魔法を行使できるのは分かる。

 彼女が居たら策を発動させるのは楽だ。

 しかし、

 

「宜しいんですか?雷撃の魔法ですよ?他の防壁の戦線に送った方が良いのでは?」

 

「お前の策を実現するだけだ。後方から雷撃を降らせれば成るのだから問題ない。全ての防壁の戦場に細工は終えてるんだ。一度一緒にやらせれば、お前が居なくてもあとコイツ一人でも発動出来るようになるだろ?」

 

 イヴァンの言う通りだが、不安はある。

 

「まぁ、言いたい事は分かりますが…」

 

「上手くいけば魔獣討伐の予定が早まる。良いことだ」

 

 確かに良いことだが、策を巡らせるのに夢中で人材審査が出来ていない。作業工程で目星い人材に当たりは付けたが話せていない。

 俺の陣営に引き込む前に話合いたいのに、時間短縮は都合が悪い。

 だが、

 

 (今の策では戦況は好転しても戦線は平定しない。戦況を覆して戦線を押し上げたら俺の仕事は終わりだ。となれば、戦線を離れても時間を作って偶に北部を訪れ、ゆっくり人材を引き抜く…しかないか)

 

 ノーザン公に逐一断りを入れねばならないのは面倒だが致しかたない。

 

「わかりました。引き受けましょう…」

 

「よし!”リゼット”。今日からお前はコイツの副官だ。上手くやれ」

 

 俺の了解を得るとイヴァンは少女に告げた。

 少女、リゼットは急展開についていけないのかポカンとしており、その姿が面白いのか。

 イヴァンは追い討ちを掛けるように言った。

 

「ちなみにコイツはアーティ・フォン・アンブルフ。我が帝国の第二皇子様だ。くれぐれも失礼のないように」

 

 その情報にリゼットの身体は瞬く間に強ばりをみせ、顔色が真っ青に染まる。

 

「だ、だいに、おうじ??」

 

 壊れた人形みたいに首をこちらに向けると完全にフリーズした。

 そして、

 

「きゅー……」

 

「おっと!」

 

 目の前でパタリと前のめり倒れそうになる。

 慌てて支えて顔を見ると気絶していた。

 

「からかいが過ぎますよ、ノーザン公」

 

「はっはっは!まぁ、そうなるわな」

 

 気絶したリゼットを見て、狙い通りだとイヴァンは笑う。

 一応、俺より大人だろうに全く。

 

「ジョンズ。部屋を用意してくれるか?」

 

「はっ!すぐに」

 

 俺の指示にイヴァンの副官が走って去った。

 

「俺の副官を使うなよ」

 

「別にこれくらい構わないでしょう?」

 

 原因の一旦はアンタだ。

 それくらいしてもらってバチは当たるまい。

 俺はリゼットの身体をお姫様抱っこの要領で抱えた。

 すると、

  

「……この子、何歳ですか?」

 

「お前と同い年と聞いたが?」

 

「いくらなんでも軽すぎませんか?」


女の子は綿菓子の様に軽いものだと言うが、それはあくまで例えであり、限度がある。

同い年にしては軽すぎる気がしてならない。

 

「……飯食わせるか」 

 

 例えどんな才能があっても体力は基本だ。

 持久力がないと、戦場では生き残れない。

 戦場に出すならば兵士を万全の状態にするのも、上司の役割である。

 

 

 

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