第1話

 アンブルフ帝国第二皇子 アーティ・フォン・アンブルフ。

 それが俺の…帝国初代皇帝 ナハト・キサラ・フォン・アンブルフの今生に置ける新たな名前。

 そう…俺は異世界召喚されて、勇者の1人として祭り上げられた果てに建国まで至った元異世界人だった。

 ブリストル大陸の半分手中に治め、戦の無い世を作り、皇帝として国の栄華繁栄、平穏をもたらし、次代へとしっかりバトンを渡して波乱に満ちた生涯を終えられる。

 そう思っていたら、

 

「おめでとうございます!男児にございます!」

 

 まさかの2週目。

 しかも、自分の血筋である皇族に再び産まれるとは何の因果だろうか。

 流石に2度目の人生、しかも自分で建てた国に皇帝として君臨したいとは思わない。

 幸いにして第二皇子。皇位は余程の理由が発生しない限りは長子が継承するものと皇室典範で制定(俺が)したので、そのままいけば、俺より1ヶ月先に産まれた第一皇子が皇帝の座に就く。

 皇室典範が変更されていないということは、変更しないとならないほど、酷い継承者は居なかったということ。

 皇族教育は1000年を経ても問題なく出来ている事に初代皇帝として安堵したと共に再び教育を受けなければならない事にやるせなさを感じずにいられなかった。

 

 そして、時は飛んで。

 俺が五歳となった頃。

 事件は起きた。

 俺が異世界召喚されたこの世界。

 テンプレよろしく魔法に似た加護なる力が存在しており。

 上位の貴族…それも建国に携わった公爵家等は強力な加護を持っていたりする。

 無論、皇族…俺の、異世界召喚者の血筋も強力な加護を身に宿す血統だ。

 更に召喚の際に勇者として与えられた神器なるもの存在する。

 まぁ、つまりだ。

 何を言いたいかというと。

 

「そ、そんな…」

 

「第二皇子殿下の元に初代皇帝陛下の”皇剣”が現れるなんて」

 

 前世の俺の佩剣…相棒といえる神器が1000年の時を超えて再び戻ってきたのだ。

 それも加護の審査を受ける為に訪れた教会の中で。

 これに国中、上も下の貴族も大慌て。

 今生の父である現皇帝や母である側妃も唖然とした。

 俺の胃はストレスで穴が空きそうになったのは必然だろう。

 何せ初代皇帝以外に扱えなかった皇剣が継承権二位の俺の手元に現れた(元より本人な上、蘇った主の元に舞い戻っただけ)のだから問題にならないはずがない。

 

 しかも、

 

「だ、第二皇子殿下の加護は……”天”と”虚”の2つです」

 

 混乱の冷めやらぬ中、伝えられた加護の審査結果。

 通常皇族が受け継いできた二極と呼ばれる光の上位加護である”天”。

 だが、俺はそれに加えて闇の上位加護”虚”となれば最早、第一皇子の継承基盤も揺るぎかねない事態である(前世で二重加護持ちだったのは側近以外に秘密にしてた)。

 

 だから、

 

「かごの事はだれにももらすな。口に出すこともきんずる」

 

 皇族権限で教会に圧力を掛けて二重加護の情報を秘匿した。

 現世の帝国は神器の存在よりも加護の力を重視しているので皇剣の発現だけは事実として残した。

 理由は、

 

 (初代皇帝の佩剣の所有者とあっては迂闊に近寄る奴も居ないだろ)

 

 逆に皇剣に選ばれた事を理由に第二皇子派なんてものが出来て、祭り上げられる可能性はかなり高いが。

 

 (出て来たら出て来たで、そいつらは帝国の庭で私腹を肥やそうとする愚か者の集いだろうから粛清対象とすればいい)

 

 皇族の権力を確固たるものとし、貴族達の引き締めも兼ねようと第二皇子という立場を活用して俺は五歳の身ながら策謀を巡らせていた。

 でも、

 

 (手駒がないな)

 

 身近な者で信用に足る人材が居ない。

 傍付きの侍女?執事?論外である。

 身の回りの世話まで任せても策謀を巡らせ、実行させるに必要なのは命じられた事を確実に実行し、状況に応じてアレンジして動ける人間だ。

 

 (まずは人材募集…または教育か)

 

 この際、最上は求めまい。

 相応に動ける最良の人材を得る必要がある。

 だから、

 

「なぁ、ニーナ。うでの立つ騎士とか心当たりない?」

 

「殿下……唐突になんですか」 

 

 昼下がりのお茶休み。

 赤子の頃より身の回りの世話をしている侍女兼子守りの女性、ニーナへと何気なく尋ねた。

 彼女は皇族の侍女を任されてるだけに貴族の妻で、夫は子爵位を得ていて相応に顔が効く。

 一から人材を探すにせよ、伝手を使わない手は無い。

 

「そろそろ俺も身辺をかためようと思って」

 

「御母君…第二皇妃陛下にご相談なさっては……」

 

「ご実家系列のやからしか来ないだろうから、きゃっか」

 

 往々にしてコネ便りの奴らは使えん。

 二重の意味で本当に使い物になる人材ではない。

 

「ニーナの家。スペクトラム子爵家のつてで良い人いない?身分の貴賎はとわないよ」

 

「皇族の身辺に平民を置くのは些か問題があるかと…」

 

「しごとできないアホ貴族よりしごとできる平民の方が良いに決まってるでしょ?」

 

「殿下…本当に五歳ですか?」

 

 それに俺の身分は第二皇子。多少身辺に平民出身の人材を置こうが関係ない。

 

「夫に相談してみますが…期待はなさらないで下さいね?」

 

「別に子爵の子飼いの奴をねじ込んできてもかまわないよ?仕事出来るやつならね。とりあえず、護衛役になりそうな騎士一人と侍女か侍従一人ついか」

 

「私一人ではご不満ですか?」

 

「懐妊してる者にいつまでもむりはさせられんだろ」

 

 俺がそういうと彼女の表情がピシリと固まる。

 壊れた人形の様に彼女は俺の方に首を向けた。

 

「で、でんか?か、かいにんとは?」

 

「ん?自分で気づいていなかったのか?おなかに子供がいるぞ?」

 

 ”千里眼”

 皇族の…詳しく云えば前世の伴侶が所有していた魔眼である。 

 森羅万象、この世全てを見通すと云われる神に与えられた瞳と呼ばれるモノだ。

 この瞳が視るモノは絶対である。

 

 (まさか、”彼女”の瞳も受け継ぐとは思わなかった)

 

 かつての伴侶。初代皇妃が”千里眼”を持っていたのは有名な話だ。共に建国まで駆け抜けた同士であり、戦友。

 それが俺の妻にして初代皇妃 アウロラ・フォン・アンブルフだった。

 

「で、殿下!?本当に私に子が!?」

 

「だから、そういってる。俺の瞳の事は知ってるだろ?最近、倦怠感や嘔吐があったり、つきのものが止まったりしていなかったか?」

 

「殿下!?そのようなお言葉をどこで!?」

 

「うるさい。しつもんにこたえよ」

 

「た、たしかに最近体調が悪い時は…ありました」

 

「だろ?にんしんして、まぁまぁ時間が経過してる。無理をすれば、腹の子の害になりかねん」

 

「しかし、殿下。私は殿下の専属侍女……」

 

「だからどうした?俺が休めと言っているのだ。育休を申請し、代わりの者を見繕い寄越せば良い」

 

「それが1番難題なのですが……」

 

 俺の返答にミーナは頭を抱え出す。

 そんなに次の人選が出来ないほど皇宮は人手不足だったかと首を傾げる。

 

「そんなに難しいか?」

 

「正直申して、殿下のお世話大変…楽なのです」

 

「ん?そうか?」

 

「はい。まるで騎士達の様にご自分の身の回りの事はご自分でなさいますよね?」

 

「皇族教育で五歳になった男児は出来ることは自分でやらせるようにするきまりだろう?」

 

「殿下…それを忠実にいえ…それ以上でやられているのは殿下だけかと。兄君である第一皇子殿下は、殆ど侍女侍従に任せておいでです」

 

「兄上はそれでいいんだよ。次期皇帝なのだから」

 

 それに俺と違い、正真正銘の子供だ。

 本当の五歳児は出来ることが限られてくる。

 

「手間が掛からないから傍付きになりたがる輩が多いのか?」

 

「お世話出来ることは誉れでありますが…殿下は静かな方ですので」

 

 (なるほどな)

 

 普通の五歳児なら癇癪を起こしたりして、周りをめちゃくちゃにしたりするものだろうが、思い起こせば俺がそんな真似をした記憶はない。

 

 (もう少し…子供らしくすべきだったか…。いや、しよう)

 

 とはいえ、身体に宿るは大往生まで生きた百戦錬磨の大人の魂。子供の真似事をするのは些かの抵抗があったのも理解してほしい。

 

 

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