第37話 仲良し兄弟(キュン1)

「カッコ悪いから言いたくないんだ」

「別にカッコ悪くないと思うけど、それよりも好きな子に心配させている方が男としてどうかと思う」

「そうだな。俺ってまだまだ力不足だな」

「ほら、さっさと言え」

 目の前で繰り広げられている。王子二人のほのぼの会話を私は呆気に取られて見守っていた。


 やっぱり何かがずれている。


「アンジェラ。俺は呪いにかからないちゃんとした理由がある」

 レイモンドが真面目に話し始めた。


 そんな設定があるの?

 もう一度コートニーを見るが、未だ感動の涙を浮かべて二人に見入っているので役に立ちそうもない。


「アンジェラからもらった本には呪いを解く方法として、ドラゴンハートを手に入れると書かれてあった」

 確かに、王子様は眠りから覚めないお姫様を助けるためにドラゴンハートを手に入れる。


「だから俺はそれを読んでからドラゴンを探して何度も対決してきた」

 え?

 それどう言うこと!?


「対決してきた?」

 それっていつの話?


「ドラゴンがシア島にいるのを知ってここにきたんだろう?」

「ララ!」

 そんなことまで喋っちゃったの?


 私が睨むと、ララはブンブンと首を振るが耳を私が押さえているのですぐに諦めて大人しくなる。


「ララじゃないぞ。俺が伝説とか目撃情報をしらみ潰しに探したんだ」

 そんなの信じられない。

 お父様だって見つけられないかったのに、そう簡単にレイモンドにドラゴンが見つけられるとは思えない。



「ランカスター公爵は間違ったところばかり探していたんだ」

「どう言う意味?」

「公爵は、ドラゴンは魔獣が暴れる側にいると思い、率先して魔獣狩りをしながらドラゴンを探していたけど、ドラゴンはもうずっと前から巣から出てこずに閉じこもっていた」

 レイモンドの言葉たらずの説明にアスライが付け足す。

 息がぴったりである。


「それに俺の手に入れた本にヒントがあった」

 ああ、本当はアスライが持ち主の本ね。


「それで、ドラゴンを倒せたの?」

 それなら私の呪いは解けていたってこと?


「いいや、しぶといやつでなかなか倒せないでいる。だが俺が15の時傷を負わすことができて、その血を浴びてから病気は愚か、毒薬も効かなくなった」

「は?」

「多分俺には呪いは効かない」

「推測だけど、アンジェラ嬢に呪いをかけた魔女よりドラゴンの魔力の方が強力なんじゃないかな」

 アスライはなんだか楽しそうに、見解を話して聞かせてくれる。

 この人、こんな顔もできるんだ。


「ランカスター家の呪いはもう何百年も前だし、当然呪いをかけた魔女は生きてはいないだろう。だがドラゴンは未だに生きていて桁外れの魔力を持ったレイモンドですら倒せないでいる。どちらの魔力が優勢かは考えるまでもない」


 ララはかぶりついていた山賊焼を皿に戻すと、汚れた手を拭き深く帽子を被り直す。

 あら、珍しくララが怒鳴り散らさずに我慢している。

 いつもなら自分の魔法の方が絶対に上だと怒り出す場面なのに。


「そうだとしても、私の呪いが解けたってことじゃないのなら、ドラゴンに会いにいくわ」

「アンジェラ、まだそんなことを。ドラゴンはそのうちまた俺が倒しに行くから」

 レイモンドがなんとか私を説得して城に戻ろうとしているのはわかる。

 でも残念だけど私はもとのアンジェラじゃない。前世を思い出して自分の人生を人に託しているだけじゃダメだって知っている。

 こうなったのは何かの運命だ。

 できることをやらないで死んでしまっては後悔しても遅い。


 うーん。深いわ私。

 目覚めたら転生していただけのことはある。

 前世のことを考えるとちょっとしんみりしちゃうけど。


「物語をハッピーエンドにするには自分でけりをつけなくちゃならないの」

 私はララとコートニーを見て力強く頷いた。


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