第36話 作戦開始

「コートニー、これは一体どう言うこと?」

 私はすすけたマントを深く被っているのに、異様に目立つ3人組に頭を抱えた。



 今日、私はララと一緒にビアトリア王国のブニク地区に来ていた。

 ブニク地区は海に面した港街で、王都の高い城壁とは別に海に面した20mほどの堅牢な壁と側防塔を兼ね備えた防波堤が作られている。


 今日は港一番の食堂でドラゴン退治を手伝ってくれると言うコートニーと待ち合わせしていたのだ。

 それなのに、なんで一番知られちゃまずい人間を連れてくる?



「あの、ご、ごめんなさい」

 コートニーが小声で本当に申し訳ないと謝る。

 だが、その瞳は私にはどうすることもできなかったのよ、とひしひしと訴えかけている。

 まあ、そうよね。


 私はコートニーの横に悪びれもせず、むしろ拗ねたように立っている男たちに視線をやった。

 マントを被っているのにキラキラ輝くピンクブロンドの超美人の横に、これまた輝くような銀髪と金髪のイケメンの組み合わせだ。よくここまで人攫いに合わなかったわ。



「護衛ご苦労様。ここで帰ってもらっていいわ」

 嫌味をたっぷり込めて言ったのに、男たちは食堂の丸テーブルに腰を下ろす。

 どうやら、簡単に帰ってはくれないようだ。


「君らも座れ」とレイモンドが無愛想に椅子を引き、それからカウンターに向かって「山賊焼5つと適当に野菜」と大声で注文した。

 なんだか妙に注文慣れしてない?

 しかもこんなときに食べる気?


「食堂で何も食べない方が怪しいだろ」

 言われてみたらそうだ。

 雑多で人目につかないからと待ち合わせ場所に選んだが、なんとなく周りから浮いている。これで何も食べずに顔を突き合わせて話し込んでいたらもっと目立つだろう。


「で、言い訳はある?」

 怒りを必死で抑えているのか、レイモンドは低く冷たい声で言って私を睨みつけた。


 うっ。

 これは本気で怒っている。

 しかし、ここで負けるわけにいかない。

 この1ヶ月、毎日続くライラからの暗殺未遂と、わざとらしいコートニーとレイモンドのイチャイチャを目の前で見せられるのには限界だ。

 それに、城内では暗殺は無理と判断したライラがとうとう国王を説得して、レイモンドの魔物討伐を早めることに成功した。

 どうせ、そこにも山のように暗殺部隊を送ろうと考えているのに違いない。


「なぜ私があなたに、言い訳をしなくてはいけないの?」

 私の行動は私の意思で決めるものであり、指図される覚えはない。そう言ってやりたかったが、それを言ったらすぐにでも城に連行されて部屋に閉じ込められそうだったので我慢する。


「では、後ろめたいところは少しもないと?」

「ええ、もちろん。私の防護が完璧なのはこの1ヶ月返り討ちにした暗殺者の数で十分証明していると思います」

「物理的攻撃にはな」

「ええ、だから今回はコートニーに一緒に行ってもらうようにお願いしたんです」

 コートニーも私の目的を知って手伝ってくれると名乗り出てくれたのだ。そして、血の滲むような努力で、治癒力を向上してくれた。


「俺はそんなに信用できないか?」

 レイモンドは泣きそうな顔で私を見る。


「レイモンド、信用していないわけじゃないんです。これは私の問題なので自分で解決したいだけです」

「じゃあ、なんでコートニーはいいんだ?」

 そんなにコートニーと一緒なのが気に食わないの?

 心配なのはわかるけど、ここまで来ると駄々っ子のようだ。


「あの、ち、父が商船を持っているので、わ、私ブニク地区に詳しいんです。だ、だからいろいろ聞かれているうちにもしかしてって思って私から一緒に来るって言ったんです」

 コートニーの言葉は半分本当で、半分嘘だ。


 ブニク地区では漁師が明け方ドラゴンを見かけたと言う伝説があちこちに残っっている。アニメのコートニーはその伝説を父親から聞いてドラゴンを探し出したのだが、転生者である今のコートニーは初めから知っていたのだ。

 だから、私がブニク地区の話をした時にピンと来たらしい。


「じゃあ、俺も勝手について行くから」

「それはダメです」

「何でだ?」

「……」

 あなたを好きになってしまったからとは絶対に言いたくない。


「レイモンド、君さっしが悪いね」

 長い沈黙の後、口を開いたのはアスライだった。

 レイモンドはともかくなんでここに無関係なアスライがいるの?


「猫が怪しい動きをしていたから捕まえて白状させたんだ」

 猫!

 って、ララ!


 私の横にちょこんと座り、一心不乱に山賊焼にかぶりついていたララの動きがピタリと止まる。


「ち、違うニャ。ララは庭を散歩してただけニャ。そしたらこいつに捕まったニャ」

 ララはアスライを指差して叫んだ。

 急に顔を上げたせいでかぶっていたマントの帽子が脱げる。猫耳があらわになり、私は慌てて手で押さえた。


「アンジェラ、呪いのことは心配するなって言っただろ。俺は大丈夫だ」

「レイモンド、ただ大丈夫と言うだけじゃアンジェラ嬢だって信じられないだろ? きちんと根拠を教えてあげないと」


 アスライがレイモンドを諭し、それをレイモンドが反発せずに聞いている。

 何? この普通の兄弟みたいな感じ。

 レイモンドはアスライを嫌っているし、アスライもレイモンドには無関心じゃなかったの?

 同意を求めるように、コートニーに視線を向けると、尊いものを見るようなキラキラした瞳で見惚れている。


 いや、確かに弟に心を開くアスライは尊いけど。

 そもそも、アスライの感情を引き出すのはあなた……コートニーの役目でしょ!

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