第6話 只今監禁中

オレの診察が終わり、改めて挨拶をする事になった。

夜の対策を考えるのも必要だが、未だにエリーさんと挨拶も交わせていない状態だ。


「では、改めて。エマを助けて頂き、また私を迎えに来て頂き本当にありがとうございます。エリーと申します。エマ共々宜しくお願いします。」


エリーさんは三つ指ついて深々とお辞儀をしてくる。

その光景に半ばパニックになりながらも何とか返答する。


「あ、ああ。こちらこそ宜しくお願いします。」


わざわざ深くお辞儀をしてくれたんだ、こちらも正座するのが普通だろうと思ってしてみたが、何とも間抜けな絵面えづらな気がする。

絵麻は喜んでいるものの、莉緒と伊織から白い目で見つめられているかもしれない。


怖くて後ろを見れないでいると、伊織が莉緒の手を引っ張りエリーさんの隣に正座した。


「私達も助けてくれて感謝しています。微力ながら火口さんを支えていきたいと思っていますので宜しくお願いします。」


そう言って莉緒の頭を手で押さえながら土下座のようなお辞儀をする。

頭を下げる前に目を見たが、一切ふざけた様子が見えなかった。

なんと返そうと迷っている間もずっと頭を下げたままなので、こちらも勢いに任せて返答した。


「こちらこそ宜しく頼むよ。でも理由を説明してくれないか?突然そんな事を言われても驚くばかりで…。」


確かにここに来る前にも似たような話はしていた。

でも普通の女子校生がこんな事をする理由が思い浮かばずに半ば揶揄からかわれている感じだ。


「私達は誰からも助けられずに見捨てられました。そんな絶望の中、命を賭けて救ってくれた方に恩義以上のものを感じるのは当然だと思います。」


「それに…」と続ける。


「非常に失礼なのですが、ここに来るまでの火口さんの動きがちょっと…かなり異様だったので、一人にしておけないと感じました。」


聞き捨てならない言葉に深く聞こうとするが、莉緒がすぐに話を続けた。


「ウチも感謝してる!前に火口さんの事王子様って言ったけど、本当にそう見えたの!絶体絶命の危機を救うのはやっぱり王子様だよ!」


二人とも本当に感謝してくれてたみたいだ。何だか聞いててくすぐったくなってしまうが、何とか真面目な顔で聞くことが出来た。


「2人のことは取り敢えず分かった。伊織の話はどういう意味なんだ?」


ゾンビに襲われない事がバレたのかと思い冷汗が出る。


「それは、動きが…。動きが非常にしなやかだったんだ。武道の動きとも違う…野性的な…。それに…ゾンビ達の反応が…。」


どうやら殆どバレてる感じがする。

荒唐無稽な話だから伊織自身が信じられないみたいだが、不自然さは隠せていなかったようだ。


「…なるほどな。その事については後で説明するよ。まずは絵麻達の話も聞いてみたい。」


3人についてはバレたなら話しても良いと思えて来ている。

今までのオレなら考えられないが、心から信じられると感じてしまっているのだ。

エリーさんはまだ会ったばかりなので、まずはそちらの話を聞いてみる事にした。


「エマは公園で言ったのと同じ…。火口さ…お兄ちゃんの側に居たいの。ママも好きみたいだし…ダメ?」


絵麻が上目使いで聞いてくる。お兄ちゃん呼びと言い、うんうんと頷いているエリーさんの仕業だろう。


「よく言えました。でもママの気持ちを勝手に喋ったらダメでしょ?」


絵麻の頭を撫でながらも優しく嗜める姿は聖母のようだが、絵麻への仕込みと言い、かなり侮れない性格をしている。


「私も皆と同じくエンちゃんの近くに居たいの。怪我してるから足を引っ張ると思うけど、出来る範囲で一緒に居させて貰えないかしら?」


まさかの名前をちゃん付けとは…。初めての呼ばれ方に一瞬誰か分からなかった。


「エリーさん、その呼び方は流石に恥ずかしいんだが…。」


「エリーで良いわよー。同じ会社の同僚同士、仲良くしましょうね。」


そう言って頭を撫でてくる。

ずっとペースを握られっぱなしだが、同じ会社と聞こえたような…。


「ママ、お兄ちゃんの事知ってるの?」


「ええ。この前入った会社の先輩さんよ。」


「待ってくれ。ウチの会社でそんな見事な金髪の人は見た事無いんだが…。」


親子で話してる所に割り込む。

社員全員を知ってる訳じゃ無いが、エリーがオレの事を知ってるなら会った事が有るはずだ。

これだけ目立つ容姿をしていたら絶対覚えてると思うのだが。


「黒髪のウィッグをつけてたのよ。エンちゃんに気付いて貰えて無かったなんて悲しいわー。」


わざとらしく泣き真似をしながら体重を預けてくる。

一時的に受付のヘルプを頼まれていて、その間だけ黒髪にしていたらしい。


かなりマイペースでしたたかな女性だが、少しの会話で気に入っていた。

今までならどちらかと言うと苦手なタイプだが、信頼できるという確信が何故か有る。


「分かった。呼び方はもうそれで良いよ。エリーも一緒に来るって事で良いんだな?」


「ええ!宜しくお願いね。」


満面の笑顔でエリーが返事をする。

もうこの4人はオレのモノだと本能が告げてくるような気がする。

少なくとも誰かが傷つけて良い存在じゃない。


「伊織、さっきの話の続きだが、エリーも信じると決めた。オレも全て話すよ。」


そうと決めると迷いは無かった。

恐らくゾンビに噛まれた事、それからゾンビに襲われなくなった事を話す。


「道理で…。先程も言ったが、火口さんにゾンビが全く反応していなかったんだ。注意深く見てないと分からないレベルだが…。」


そもそもオレの動きに違和感を覚えたのがきっかけらしい。

基礎能力、特に動き出しやジャンプが野生の動物みたいで、ついつい目で追っていたとの事だ。

さっきチンピラにキレたオレを止めたのも、あそこで暴れたら違和感を持つ人が出てくると言われた。


「ウチ全然気づかなかったんだけど…。」


伊織の話に莉緒がショックを受けている。


「そんな訳で、オレ自身が自分の事を分かっていない。さっきの話を撤回しても構わないぞ。」


莉緒の事はスルーして話を進める。

オレの言葉に4人は揃って返答した。


「怒るよ?」

「有り得ません。」

「むーー。」

「うふふふ。」


全員笑顔だったがつい後ずさってしまった。




夜の事についても話したが、徹底抗戦する事で話は決まった。

伊織はエリーが部屋に隠しておいた警棒を受け取り、布を何重にも巻いている。

そのままだと簡単に骨を折ってしまうので最初の内は巻いておくとの事だ。

頼もしい事に2、3人なら1分かからずに無力化出来ると言っている。

莉緒はエリーの座っていたパイプ椅子でエリーと絵麻を守り、オレと伊織で敵を潰す方針だ。


荒事はなるべく避け手穏便に話し合いたいが、恐らくは難しいだろう。

時間が経つにつれ段々と会話も少なくなり、体を休めながらも決戦の時に備えた。

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