16:VSコボルド

「この魔物は⋯⋯コボルド?」

 二足歩行する狼のようなその魔物は私を見つけるとじりじりとにじり寄って来た。


「リナ、落ち着いて行動するんだ。

 コボルドは移動速度は速めだが見切れないほどじゃない」

「水を顔にかけたりしても一時的に行動を阻害出来るから、参考にしてね」


 二人のアドバイスが聞こえてくる。

 だけど、今の私にはコボルドの身体の動きを見る事しか頭になかった。


 私の手にある剣をグッと握り締めて、コボルドを見つめ続ける。


「⋯⋯ガウッ」

 コボルドは手に持っていた棍棒のような物を振りかぶって私に飛びかかって来た。


「せいっ!」

 私は一直線に私に飛びかかるコボルドを見て、少し横に逸れると、コボルド目掛けて剣を横薙ぎに振った。


 ブチッとした感触が剣から伝わり、コボルドの肉体が真っ二つになる。


「⋯⋯これがスキルの力?」


 コボルドを切り裂くと決めた時からどう動けば良いのか、身体が勝手に動いてくれたお陰で、特に苦労もせず倒す事が出来た。


 コボルドの真っ二つになった姿は見ていて気持ちの良い物では無いけれど、魔石と討伐証明になると言うコボルドの両耳を切り取り、あとは全部焼いて地面に埋めた。


「リナ、初討伐おめでとう。

 やってみてどうだった?」

「リナちゃんおめでとう。

 なかなか良い一撃だったわよ!」

「二人ともありがとうございます!

 正直スキルを使って戦うのに慣れていないので不安はありますけど、思っていたよりも簡単で、少し拍子抜けしちゃいました」

「まぁ正直な話、ゴブリン、コボルドに関してはレベルが上がっていなくてもリナの同い年の男の子なら大体倒せるからな」

「レベルが上がっていれば女の子だって余裕で倒せちゃうわね」

「えっ、そうだったんですか!?」

 

 私は、大人がしっかりとメンバーを集めて戦いを挑むイメージがあっただけに、一人でこうもあっさり倒せる事に驚いていた。


「リナにも言っておくが、ゴブリンやコボルドは倒すのは簡単だ。

 だけどな、他にも魔物は沢山存在する。

 コボルドの上位個体であるコボルドウォーリアや、コボルドリーダーなんかは今のリナでは勝てないかもしれない。

 勿論仲間がいれば話は変わるかもしれないけどな」

「見た目で分かるんですか?」

「コボルドウォーリアは剣を使うのが特徴だ。

 冒険者から奪った剣や、コボルドが独自に作り出した粗悪な剣を扱っていたりするのと、リーダーの方は指示を出してコボルドやコボルドウォーリアの指揮を取る事が多い」


 アルスさんはそう言うと、他にも街の近辺に生息していると言う魔物を教えてくれた。


 この森の中心部に近付いて行くと、お肉が美味しいけど力が強く、守りにも秀でた魔物であるオークがいたり、更に中央ではゴブリンキングとオークチーフ、コボルドキングの三体の魔物が森の覇権を奪い合うかのように活動しているんだとか。


「⋯⋯今の話を聞いて思ったんですけど、そんなに細かく分かってるなら、強い冒険者さん達に根こそぎ倒して貰えば良いんじゃないんですか?」

「まぁ、その気持ちも分かる。

 ただな、ゴブリンを根絶やしにしようとしても数匹生き残れば気付けばまたすぐに増える。

 コボルドも似たような理由ではあるが、オークに関しては食肉としての需要があるからまず根絶やしにする事は無いな」

「オークってそんなに需要があるんですか?」

「あぁ、うちの街にある肉串の屋台ってあるだろ? あそこの肉は大体オークの安い肉を使っている」

「あっ、そう言えば私の買ったお店の人もオーク肉って言ってました!」

「オークは豚肉に近い味でな、強い個体ほど旨味が多いと言われている。

 オークチーフしかこの森には生息していないがそれでもかなり美味いらしい。

 オークジェネラル、オークキング、オークロードなんかはもう筆舌に尽くしがたい濃厚な旨味が詰まっているなんて言われているな。

 俺もいつかは味わってみたい所だ」

「その時は私も食べさせてくれるのよね?」

「勿論」


 アルスさんにそんな豆知識を教えて貰うと、他にも食べられる魔物と言うのは多いらしく、樹液が砂糖のように甘いスイートトレントと言う魔物や、魚の魔物であれば毒の無い種類なら美味しく食べられると教えてくれた。

 いつかそんな美味しい物を求めてリサと一緒に旅をするのも良いかもしれないね。


「おっと、追加がやって来たみたいだ。

 リナ、いけるか?」


 アルスさんがそう言った瞬間、私も魔物の気配に気が付いた。


「今度は二匹いるようだな、やってみるか?」

「はいっ!」


 私は剣を構えると、エリナさんの言っていたアドバイスを参考にして戦ってみる事にした。


「来た⋯⋯」

 

 今回もやって来たのはコボルドで、両方とも丈夫そうな木の棒を手に持っているのが分かる。


「今回は魔法を使って⋯⋯」

【クリエイトウォーター】


 二匹同時は無理だから、片方のコボルドの顔に水が発生するよう魔法を使用すると、水を顔に受けたコボルドが変な動きをした。


「今ッ!」


 私は一気に距離を詰めると、無事なコボルドに攻撃を仕掛けた。


 この剣の切れ味は大体さっきの戦闘で把握していた私は、コボルドを肩から斬り裂いた。


「ガブゥッ!?」


 血を吐きながら地面に倒れ込むコボルドを横目に、水を受けて動きを止めていたコボルドにも即座に斬り込んだ。


 首を綺麗に切断すると、コボルドは首から血を噴き上げながら地面に倒れ伏した。


「ふぅ⋯⋯」


 たったの十数秒の間とは言えども、命のやり取りをしたのもあってか私はかなりの疲労感を感じた。


「リナ、お疲れ様。

 初めてで二連戦は流石に厳しかったか?」

「⋯⋯そうかもしれないです、身体に無駄な力が入っていた気がします」

「それを自覚できているなら十分だ」

「リナちゃんお疲れ様。

 私のアドバイスもちゃんと聞いていてくれたみたいで安心したわ!

 魔物によっては生活魔法でも有用だったりするから、下調べを怠らないようにして頂戴ね?」

「はい!」


 実際今回はエリナさんのアドバイスがあったからこそ、ここまでいい感じに事が運んだのもあると思う。 だからこそ、情報の大切さと言うのがとても分かった。


「リナちゃんは物分かりが良くて嬉しいわ。

 最近、うちの街以外の冒険者の練度が下がって行ってるから、素直に取り組める子は本当に貴重なのよね」

「そうなんですか?」

「争いは起こさないから良いものの、素材の扱いが雑だったり、情報も集めずに格上に挑んで死にかけたりする冒険者なんてそこら中にいるのよ?」

「命あっての物種なのに、なんだか怖いもの知らずですね⋯⋯」

「失ってからでは遅いと言うのに⋯⋯ね」

「まぁ、こんな場所で話すような事でもないだろう? 今日は切り上げて、街へ戻ろう」


 アルスさんがそう言った瞬間——


【レベルアップしました】

【異世界配信のスキルレベルが上昇しました】

【異世界配信のスキルレベル上昇に伴い、チャンネル開設の機能を解放しました】


「あっ」

「リナ? どうかしたか?」

「リナちゃんどうしたの?」

「レベルアップしました!」

「「おめでとう!」」

「ありがとうございます!」


 どうやら、肩を切り裂いていたコボルドがまだギリギリ生きていたようで、たった今死んだようで、それをきっかけにレベルアップしたみたいだった。


「おめでたい所で申し訳無いがリナ、まずはコボルドの死体の処理だけしようか」

「はい!」


 そして私は処理を終えると、街へ向かって歩き始めた。

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