少女の悩み

「聞いてくれ、和泉さん」

「はい、なんでしょう」


 真っすぐな視線を向けられ、俺はその透き通るような瞳に圧倒されそうになった。負けてなるものか……。


「実は、俺と隣にいる宮藤さんで『会社』を作ったんだ」

「か、会社を……?」


「ああ、それでなんだけど、オンラインゲームを運営しようと思っている。だけど、圧倒的な人材不足でね。二人だけでは夢を叶えられそうにない。そこで凄腕プログラマーの和泉さんの力を貸して欲しいんだ。もちろん、社員一号として給料は弾むから」



 事情を説明すると、和泉は困惑していた。当然の反応だ。いきなり、こんな事を言われても戸惑うよな。



「まず、会社を作った行動力に驚きました。東雲くんって、そういう大きな夢を持っていたんですね」

「ま、まあね……。普通の学生にはまず無理だけど、璃香……いや、宮藤さんが助けてくれたんだ」


「宮藤さんが……なるほど」



 何かを納得し、璃香を見つめる和泉。なんだろう、静かに見つめるものだから、ちょっと怖いっていうか……。璃香の方も少しムッとしているし。



「返事は直ぐではなくていいから」

「そうですねぇ。わたしは部活とか入っていないですし、バイトもしていないですから時間に余裕はありますけど……」


「何か困っているのかい?」


 聞くと、和泉は明らかに困っている風な表情をした。なんだか元気もないし、落ち込んでいる。これは何かワケ有だな。


 もう一度聞こうとすると、璃香が俺の肩を軽く叩く。



「賢、ここからは、あたしに任せてちょうだい。和泉さんの悩みを聞いておいてあげる」

「そうだな、俺なんかより同じ女子である璃香に任せる」

「さすが賢。そういう所が好きよ~」


「――なッ」



 サラリと「好き」とか言われ、俺はドキッとした。そんな自然に……。



 ◆



 廊下の隅で見守っていると、璃香と和泉は話しを終えて来た。和泉は、なんだか顔色が悪かった。


「――で、璃香。和泉さんに何があった?」

「うん、これは深刻よ」

「深刻ぅ?」


「和泉さんね、小島からストーカー被害に遭っているんだって」


「……は?」



 ちょっとマテ。

 小島? 小島って、あの陽キャの小島? どう考えてもあの小島だ。――って、小島かよ!! 璃香にもしつこかったのに、諦めて今度は和泉を狙ったのか。



「小島は、あたしと同時に和泉さんにも付きまとっていたみたい」



 サイテーな野郎だな、小島。

 そうか、それで困っていたのか。

 その問題を解決してやらないとな。



「分かった。小島をストーカー規制法で告訴しよう」

「さすがに安直すぎでしょ」


 璃香は呆れるが、対処法としては間違っていないがな。ただ、被害が軽度だと警察に相談しても、そう簡単には対処して貰えらえないと聞く。


 そして、ストーカー行為がエスカレートすると……殺人事件に発展しやすい。そんな悲しい大事件にはしてはならない。



「じゃあ、こうしよう。しばらくは俺と璃香が和泉さんを守る。解決したら、社員になってくれ」

「……本当ですか! それなら良いですよ」



 安堵あんどし、期待の眼差しを向けてくる和泉。約束した以上は、守らないとな。……地味にプレッシャーだが、小島は俺としても許せん男だ。なんとかしてやりたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る