巨乳の元アイドル

 昼休みは終わった。

 午後の授業が始まり、遅すぎる時間の経過に苛立いらだつ。早く放課後になってくれ。頼むから……!



 ◆



 ようやく放課後。

 茜色あかねいろに染まる空が目に染みる。

 この時を俺は待っていた。



「賢~、一緒にアークへ行こっか!」



 テンションを爆上げする璃香が寄ってきた。



「おいおい、重要なミッションを忘れているぞ」

「重要な、ミッション……?」

「なんだ、もう忘れたのか。天才少女の『和泉いずみ 栖胡すこ』の確保だ」


 ああ~と、璃香は納得する。

 素で忘れていたのか。早くしないと帰ってしまう。帰宅される前に話しかけ、スカウトする。



「さあ、行くぞ。確か、隣のクラスだろ? 間に合うだろ」

「じゃあ、善は急げだね」



 席を立ち、教室を出る。

 廊下へ出て隣のクラスへ行ってみると、ちょうど女生徒が教室から出て来た。あの恐ろしい程に整った顔立ち、まるで人形のような造形をしていた。同じ人間なのかと疑ってしまうな。

 サラサラとしたボブヘアの黒髪は、異次元レベル。元アイドルだけあってウエストは細く、足もすらっと長い。ついでに制服越しだが、璃香を超える豊満な巨乳だ。なんてモンを持ってやがる。



「俺が引き留める。璃香はその後に介入してくれ」

「おーけー」



 尋常じゃない手汗を握り、俺はゆっくりと近づき……声を掛けようとする。……くそっ、緊張するな。璃香の時は、向こうから話しかけてくれたけど今回は違う。俺が女子に話しかけるという異常事態。天変地異に等しい。


 勇気を出せ俺。

 歩みを止めるな俺。



「……和泉いずみ 栖胡すこさん……!」



 なんとか声を振り絞り、名前を呼んだ。和泉は、こちらに振り向き……その小さな頭を傾げた。



「は、はい……なんでしょう?」

「俺は隣のクラスの『東雲しののめ すぐる』だ。少しだけ話を聞いて欲しいんだ」



「いいですよ」

「やっぱりダメだよな――って、ええッ!?」



 俺はてっきり拒否られて、白い目で見られるんじゃないかと恐れていたが……これは意外すぎた。



「いいのか」

「はい、でも……そのお連れの方はいいのですか?」



 そうだ、いざとなったら璃香の力を借りようと思っていたけど、出番が無くなってしまったな。当人は呆気に取られているが。



「ちょ、ちょっと賢! なんで一発でナンパに成功してるのよ!」

「ナ、ナンパ!? 語弊ごへいがあるぞ、璃香。和泉は、会社にスカウトするんだから」

「むぅ……」

「ふ、膨れるなよ。仕事だ、仕事」

「了解」



 妙に膨れる璃香をなだめ、俺はいよいよ和泉に交渉を開始した。

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