ギャルと元アイドル

 校門を出た瞬間、俺はとんでもない事実に気づいてしまった。……両手に花状態だ。左右にはギャルの璃香と元アイドルの和泉。なんだこの状況。


 いつの間にモテ期が来たんだ、俺は。


「どうしたの、賢」

「な、なんでもないよ。それより、璃香、今から“アーク”へ行くんだよな」

「ええ、そうね。和泉さんにも見ておいて貰いたいでしょう」



 もちろんだ。

 これから和泉には、社員になってもらう予定だからな。



「そんなわけで、和泉さん。ちょっと時間あるかな」

「そうですね、ちょっとなら問題ないです。というか、わたしも興味があるので」


 ほぉ、和泉は意外とノリが良いな。

 もっとお堅い委員長キャラかと勝手に認定していたが、これは認識を改める必要がありそうだな。


 そして、そのまま“アーク”を目指した。



 ◆



 聖町を歩き、ビルのある区域へ。

 歩いている道中、主に男からジロジロ見られていた。そりゃ、ギャルと元アイドルを連れ歩いていれば、こんな事態になるよな。


 気にせずビルへ向かった。

 到着すると、和泉は「え?」と俺とビルと交互に見た。


「どうした、和泉さん」

「えっと……このビル?」

「そうだよ、これが俺の会社」


「う、うそ……冗談でしょ? ドッキリだよね」

「本当だが」


 その瞬間、和泉は石化してしまった。いやいや、そんなネットで偶然見たグロ画像でショックを受けたような顔をしないでくれ。


「あの、わたし……てっきり東雲くんの実家とか、精々プレハブみたいな所をイメージしていたから。こんな立派なビルだなんて!」


 プレハブって……まあ、それはそれで面白そうだけど。


「さあ、入ろうか」

「うそ、うそぉ!?」


 どんだけ驚くんだ。

 と言っても、俺もかなりビビったけど。



 警備員の『天満』という爺さんに挨拶し、俺たちはエレベーターへ。乗り込むと、璃香が何かを思い出したようで、手を鳴らした。


「そうそう、賢と和泉さんに渡しておくね」


 なぜか胸元に手を突っ込む璃香。ちょ、こんな狭い空間で何しているんだか。視線を泳がすしかない俺は、焦っていると何かを渡された。


「これは?」

「まだ仮だけど『社員証』よ。これがないとビルへ入れないから」


 なるほど、つまりセキュリティカードな。勤怠などもこれで記録していくのだろう。……おぉ、ガチの会社って感じ!


 今は何も書かれてない無機質なカードだが、いずれは社員番号や写真が刻まれる事だろう。それまでが楽しみだな。


 そうして、最上階へ辿り着く。


 エレベーターを出て、十階の見晴らしの良い場所に出る。会議室や社長室がある、広々とした空間が広がっている。


「す、すご……なにこのオフィス」


 もはや驚く事しかできない和泉。

 俺もまだ慣れていないので気持ちは分かる。



「さあ、こっちだ」



 社長室へ向かう。

 セキュリティカードを通し、扉を開錠。


「う~ん、昨日ぶりだけど落ち着くなぁ」


 これこれ、このTHE・オフィスな空気がたまらない。聖町の街並みが広がり、道路では車が行き交っている。日常が勝手に進んでいる俯瞰ふかん風景ふうけい


 ガラス窓がほぼ足元から天井まで広がっているから、本当に見晴らしが良い。


「もう日が落ちますね、社長」

「そうだな、璃香。って、和泉がいるんだ……くっつくな」

「あぁん♪」


 社長室に入ると、璃香はとにかく……えっちな秘書に変貌する。口調も何故か敬語になるし、甘えてくる……。最高かよ。


 幸い、和泉は圧倒されて立ち尽くしていた。あぶねー、危うく誤解される所だった。



「おーい、和泉さん」

「……ハッ!」



 手を振って気づかせると、和泉は腰を抜かした。そんなにヘナヘナになられるとはな。でも、この分ならアークへの入社は考えてくれそうだな。


 だから、俺は歓迎した。



「和泉さん、ようこそアークへ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る