名前で呼んで

 株式会社アーク(仮)を去り、宮藤と別れた。



「じゃあね、賢」



 笑顔で去っていく宮藤。


 こうして俺は『アーク』の設立に早くも漕ぎつけた。まだ夢は叶ったばかりだし、これからが肝心だ。


 会社の方針を決めたり、社員やバイト募集もしなければだろうし……問題は山積している。でも、まだ時間はたっぷりある。


 焦る必要はないさ。



 ◆



 次の日。

 実家で目が覚めた。

 昨日滞在していた夢のようなオフィスの光景がずっとまぶたから離れなかった。自室で起き上がった瞬間には、俺は深い溜息を吐いた。


「はぁ~、今日も学校かぁ」


 このまま『アーク』へ行けたらいいのにな。学生である以上、学校は通わないとな。高校生で義務教育ではないとはいえ、卒業はしておきたい。宮藤からも中退はダメと言われている。ならば、成績維持にも努めねば。



 朝の仕度を済ませ、家を出た。



 実家から徒歩で片道二十五分強。健康には良いが、歩くのが面倒臭い。だが、嬉しいことに宮藤と割と近所らしく、合流できると知るや中間地点で会う約束をしていた。



 大友商店の前で待つと、宮藤がトコトコと歩いてやって来た。



「おはよー、賢♪」

「お、おはよう、宮藤」



 いきなり腕に抱きつかれ、まるで恋人気分。てか、朝っぱらからこの距離感!? 宮藤の俺に対する好感度、いったいどうなっているんだかな。一度、数値で見せて欲しい。



「ねぇ、賢。そろそろ、あたしの事は璃香りかって呼んでよ」

「いやぁ……それはさすがに」

「もう秘書になったんだよ?」


「だが……」


「じゃあ、もう教室まで離れてあげなーい」



 それはマズイ。このまま教室に入るとか、恋人認定される。……いや、それはアリか? あの小島も諦めるだろうしな。って、無理に決まっとるー!!



「了解だ……呼び捨てでいいんだな」

「うん」



 すげぇ期待されてる。いやだけど、ここは敬意を表す意味でも呼び捨てさせてもらおう。俺はもう社長なのだから。



「……璃香」

「…………」


 あれ、璃香のヤツ、固まったぞ?

 俺、呼び方とか間違えたかな。


 しかし数秒後には、璃香は顔を真っ赤にして――プシュゥゥゥ……と、煙を上げるや否や、俺から離れて猛ダッシュ。置いて行かれた……。



 ま、まさか……



 照れた――――――!?

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