第8話 電光石火の重撃

ROUND1

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百目鬼圭吾どうめきけいご  |||||||

大川桃莉おおかわとうり   |||||||

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『決勝戦がついに始まる! ハンマーを軽々と持ち上げた百目鬼選手と一方の大川選手、どっしりと構えます! さあ試合開始だ!』

『力と技、動と静。まったく正反対の二人ですね。どういう結末を迎えるのか今から楽しみです』


 圭吾がどう出るのかはわかっている。もう様子見をする必要はない。


『開始直後から百目鬼選手、一直線にセンターラインへと飛び込んでいきます! 対する大川選手は早くも抜刀、得物を片手に駆けていきます!』


 にやりと不敵にヤツは笑った。

 ああ、だろうな。これが待ち望んでいた正真正銘の勝負だからな。だがその表情を必ず崩してみせる。


 あの巨大ハンマーの威力は把握済みだ。

 正面から受けられる攻撃とそうでないもの。ギリギリで避けられるかそうでない攻撃。その見極めを瞬時にしていく。


『百目鬼選手の激しい打ちつけが襲う! 大川選手はそれを捌いて反撃に出ようとする!』


 攻撃を回避した後に踏み込みダメージを与え連ねていく。

 時たまヤツの攻撃がかする。読みが外れて刀で受け止めるように直撃する。大事には至りはしないもののやはり手痛い。


『これは長丁場となりそうですね、島さん?』

『最終ラウンド終了まで勝負がつかない気配が濃厚ですね』



ROUND2

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百目鬼圭吾  |||||

大川桃莉   |||||

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『両者まったくの互角です! 攻めと守りが目まぐるしく入れ替わる、これぞ頂上決戦と呼ぶに相応しい戦い!』

『両者、実力伯仲はくちゅうと言ったところでしょう。この後も目が離せません』


 このラウンドも変わらず打ち合いを続けよう。ヤツの一瞬の隙をついて出し抜いてみせる。

 そうして接近を果たすと目の前にいた姿が消えた。


『おおっとここで百目鬼選手、飛び上がりハンマーを天高く掲げる! その得物には紫電がほとばしっていく! これは……、準決勝で猿爪ましづめ選手を下したあの大技でしょうか!?』


 完全に不意を突かれた。

 どうする? 弾くか避けるか。いやこの速度では防ぐしかないか。

 刀を構えその場で静止する。


『大川選手は逃げも隠れもしない! この判断は正しいのか!?』

『下手をすると一気に体力を持っていかれ兼ねませんよ』

『急降下して頭上から百目鬼選手の攻撃が炸裂します! 大川選手これを耐え……きれずに吹き飛んだ!』


 威力が思っていた以上に増している。ヤツも着実に強くなっているのは間違いない。


『受身を取り事なきを得たか? それにしても物凄い破壊力でした!』


 だが同じ技を立て続けには使えないだろう。

 次はこっちの番だ。だが、体勢を立て直そうとした瞬間。


『おおっとこれは!? 非常を知らせるアラームが鳴り響きます! 緊急事態です。場内の選手、観客席の皆様は係員の指示に従いただちに――』

 あわただしい様子で場内放送が途絶え、


≪--警告--『s/h/i/e/l/dシールド』システムが機能を停止しました≫

 小型のマウントディスプレイには異常を知らせる表示が映し出されている。


 この場に何かが起きているのは確実だ。圭吾の方も同じように動きが止まっている。


「おいおい。なんなんだ、こりゃあ」

「さあな」

 短く言葉を交わす。

「まあ言えるのはただ一つだろう?」

「フン。お前ならそう言うと思ったぜ、桃莉よぉ」

 互いに得物を天高く放り投げる。


「「んな事、俺達には関係ねえっ!」」


 くるくると舞った刀とハンマーが地面につくのと同時に、駆け出し急接近すると徒手空拳でのインファイトへと移行する。


「うおおおおらあっ!」

「はあああああっ!」


 ガード不要のルール無用。ひたすらに打撃を打ち込む。

 そこには心も技も何も必要ない。ただ目の前の相手を打ち倒す事しか考えない。

 殴り殴られ蹴り蹴られ、一進一退の私闘が果てのないように続く。


「そろそろ決めてやるよ、圭吾」

「そう、だなぁ!」

 肉を切らせて骨を断つ。先手を取らせヤツのストレートを顔面で受ける。直後勢いを乗せた一撃を同じく顔面に差し返す。

 クロスカウンター。


「くっ、さすがにこれじゃ決まらないか」

「詰めが甘ぇんだテメェはよ」

 ヤツの方も膝をついた格好になるも、すぐに互いに立ち上がる。

 次は何が何でも不意をつき昏倒させる。


「桃莉にいちゃん!」


 遠くから弟の声がした。


「スバルか。でも今はそれどころじゃないんだよ」

 一瞬だけその方向を見て、すぐに視線を戻そうとした。

 だが、彼は首を大きく左右に振ると後からやって来た二人を見ている。


「先輩……、やられました」

 春人が腹部を押さえながらしゃがみ、珍しく悔しそうに顔を歪める。

「桃莉君、まずい事になった。……すまない」

 直後、息を切らせた様子の雉岡きじおかは血を吐いてその場で倒れた。


「おい雉岡っ! 春人、これは一体どういう事だ!?」

 急いで二人のもとへ駆け寄ると尋ねた。

 春人は握った拳を震わせながら口を開く。


「驚かずに聞いてください。――霧島先輩がさらわれました」

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琥珀色のアムネジア ひなみ @hinami_yut

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