第5話 2年後

「ありがとうございましたー」元気のいい声を背中越しに翔也は美容院のドアの前に立ち自動ドアが開くのを待つ。長すぎた髪をそれでも肩につくぐらいに短く切った。別にこれといって理由はない。妹や母はすごく残念がっていたが…。彼女らのどちらかが、毎日俺のヘアスタイル担当だったから。1つにしばったり、三つ編みにしたりと長年この長い髪はお世話になっていた。そんなことを思いながら、美容院を出てさて、これからどうしようかなと思いながら前方から入ってくる女の人をよけようとした時。

「痛い」

「痛っ」これは…この痛みは。あらためてすれ違った女の人をみる。やっぱり、違いない。あの時の。

「あっ、あの時の占い師さん?」彼女も、気が付いたようだ。

「君もここに通ってるの?よかったら、髪切った後で喫茶店で会わない? あっ、いや、これナンパじゃないから」れっきとしたナンパだよな。

「あ。はい。いいです。では、私髪切ってくるので」こんな、場面初めてでかなりの緊張をしていた。

「じゃあ、2階にある喫茶七色で待っているから」

店内に入って、髪を切ってもらいながらさっきのことを考える。今回も強烈な痛みが、身体に走った。なんでだろう。

しかも、こんなところで会うなんてすごい偶然。

顔はほとんど覚えていなかったが、カリスマ占い師としてテレビや雑誌などでちょくちょくみかけていた顔は色白で整った顔もひっくるめてモデル並みの容姿。今日は髪の長さは肩ぐらいになっていたな…。私はこんな高い店は1年に1回くらいしか、行けない。でも、退屈な日常に自分へのご褒美として3年前にネットでたまたま見て通いだした。いつも、これでもかというくらいのベリーショートは節約のためでもある。

「髪型お決まりですか?」ツーブロックアレンジした金髪の若い美容師が話しかけてくる。一瞬、迷ったがやっぱりベリーショートにしてもらう。髪を切った時の周りの反応が、割とよかったから。私は、いったい誰を気にしてるんだろう。一瞬さっきの占い師の顔が頭に浮かぶ。

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