第4話 祖母ちゃん、家にくる

ただいまー。ドアを開けると玄関先の靴に気がつく。

「婆ちゃん、来てるの?」

居間に母さん父さん、妹、婆ちゃんでテレビの前のソファーにくつろいでいる。

「あ、お帰り。お疲れ様。 今日昼頃、急に近くにいるからって。もういつも母さんは気まぐれなんだから」と愚痴りながらさっと立ち上がり夕飯の支度をはじめる。

「お帰り、兄ちゃん。もうアイドル並みに顔でてるから、なんだかこっちの方が恥ずかしいよ」妹の、莱実とは年が10も離れている。

「お帰り、お疲れ様」父さんも、最近は仕事が早く終わってくつろいでいる。


「お帰り、翔也。今や、時の人だねえ。さすがは、1番弟子」そう言う婆ちゃんは俺の師匠。名の知れた占い師だったが、突然引退するといって住居も決めてさっさっと出て行ってしまった。とはいっても定期的に連絡はあるし、こうやってふらっと遊びにくるのだ。

「隠居生活になるはずだったのに、昔からの贔屓さんがいてどう探してきたのかわからんが見てくれとやってきて。仕方がないから、1日1、2件の予約制にしてボチボチまた、仕事はじめたよ」と婆ちゃんはまんざらでもない様子。


(人を見るだけでなく、自分の心身も時にはリラックスしなくちゃだめだよ)と常々ばあちゃんは言っていた。昔は、能力のあるものは独り身で過ごすの暗黙の了解のようだったが、ばあちゃんは自分の意思を最初から最後まで貫いた。じいちゃんもそんなばあちゃんと仲睦まじく暮らしていたが、5年前入院先の病院で亡くなった。母でもあり夫でもあり占い師でもあり介護もしてと、4つのシフトを器用にこなしてどれ一つも手をぬかなかったと、時折母はばあちゃんのことをそう俺に言っていた。


「もう、なんだか疲れたよ。菜実の言うアイドルの心境。目の前で写メを撮られたり、もう勘弁してよって感じで」運ばれた、飯に食らいつきながら話す。食卓には、これでもかとおかずが並べられた。

「そうだ、また色紙預かってきたよ」菜実は、学生カバンから何枚かの色紙を出す。

「どれどれ、私が書いてやろう」と、最近は父さんが俺の負担をなくすための担当だ。

「ばれたら、絶交だよね」と言いながらもあまり気に留めていない様子だ。

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