第12話 教都にて
「ここが教都…とても綺麗な場所ですね」
馬車の窓から外を見ている白銀が感嘆の声を上げる。
「教国は信仰している人々からの寄付金が圧倒的に多いからな、ただ綺麗にするだけじゃなくて孤児院の設立、教育の無償化等。ただ街を綺麗にして現を抜かしているわけではないから感心すべき国だ、王国も予算の面でその辺が満足にはできていないからな」
「正直、教皇様とやらからの褒美の言葉とかいいから早くフローズヴィトニルから話を聞きたいんだがな」
「気持ちは分かるけどこういう偉い人の話とか無視したら後が面倒くさいことは十分知ってるでしょう?」
「そうだけど、教皇とか興味ないし」
「あのねぇ…」
そう言ってため息をつく白銀さんと呆れるカリュアス団長。
「ま、教皇様の話聞き終わったらこっちのことに専念するから」
「はいはい」
「教皇陛下が登場されましたらカリュアス団長が代表として応じてください」
宮殿に入るとすぐに全員が大きな広間に通された。前にも数度来たことがあるがここは特に変わった様子はなかった。広間の左右にさっきも見た枢機卿と他にも何人か同じ格好をした人がいるので枢機卿だろう。
「陛下が到着されました」
広間の横の扉が開き恰幅の良い爺さんと20代位の青年が入ってきた。
「そんなにかしこまらないでよいぞ、今回はこちらの願いを聞いてもらった側じゃ面を上げて楽にせい」
「分かりました。それでは楽にさせていただきます」
そう言うとカリュアス団長がドカッと腰を床に下した。
(いやいや、楽にしろって言われてもそれは違うだろ!)
「今回は当領地内に大量発生した魔物たちを討伐してもらってすまないの。改めて礼を言うぞカリュアス殿」
「もったいなきお言葉です」
「私からも改めて礼を言わせてもらう此度のことは大儀であったカリュアス殿」
「コルト枢機卿もありがとうございます、困ったことがあったらお互い様ですよ」
(枢機卿?ならなんで教皇の横にいるんだ?皇太子的なあれかな)
そして先ほどからミランガル枢機卿がこちらを見ているのもまた気になる。見覚えがあるような気もするけど1000年以上後の世界でそんな人がいるわけないし他人の空似だとは思う。
「今宵はここで宴を開くのでそれまでは客室で休まれるもよし、メイド達に頼めば街を案内することも可能じゃ」
「ありがとうございます」
(で、ルーそいつはいつ頃回復しそうだ?)
(あと1日というところか、無理やり回復させることもできるがどうする?)
(体に良くないからやめといてくれ)
(分かった)
ルーとフローズヴィトニルは空間魔法で作った部屋にいる。流石にフローズヴィトニルをあのままのサイズで移動させるには現状この方法しかない。Sランクの魔物で人語を介する域まで達しているならサイズを変えることもできるはずだろうから目を覚ますまで待つとしよう。ルーは異空間に居るから出かけても問題ないからこの宮殿でも探索するとしよう。
「けど前に来たことあるからなぁ・・・」
流石に1000年も空いてるから多少変化はあるだろうが書庫が移動したとか広間が移動したとかとうことはないだろうからあるとしたら新しい部屋があるぐらいか。
「適当に歩き回れば新しい部屋が見つかるだろう」
それから数時間宮殿内を散策した。書庫でたくさんの小説を見つけた時には歓喜した。今後読ませてもらうためにゲートの位置としてマーキングしておいた。また今度転移してくるとしよう。
「ここは・・と・・・」
他の部屋よりかは幾分豪華な扉があったので開けてみると中には一目で見てわかる高価な絵画や装飾品、鎧などが綺麗にガラスケースに入っていた。
「なるほど、教国の歴史的遺物の保管庫ね。昔見たことある絵も何作かあるな」
そんな風に絵画を眺めながら部屋の奥へ進んでいくととても懐かしい物を見つけた。
「これはエリシアの・・・・」
横長のガラスケースの中に一本だけで展示されていたのはエリシアが使っていた『暁の杖』だ。俺は前の時のことを思い返しながらガラスを撫でていた。
どれほどそうしていたか10分かもしれないし、1時間かもしれない。長い間思い出に浸っていたら急に後ろから声をかけられた。
「君、ここは立ち入り禁止区域だぞ」
「あ、すみません」
振り向くと部屋の入口のところにラングレー枢機卿が立っていた。
「散策しててここの部屋だけ豪華なつくりだったので覗いてしまいました。立ち入り禁止区域とは知らず申し訳ございません」
「まぁいい、次からは気を付けてくれ・・・ところであの杖に随分と見入っていたようだが思い入れでもあるのかい?」
「いえ、1000年も前の人の物に思い入れなんてありませんよ、精巧な作りだったので眺めてただけですよ」
「そ、そうか」
「では自室に戻ります」
もと来た通路を引き返し始めたが少し聞きたいことがあったので振り返る。
「ラングレー枢機卿、あの杖の所持者のお墓はどこにありますか?」
そう問うとラングレー枢機卿は少し考え込むような顔をした後に簡潔に答えた。
「あの杖の所持者の墓は存在しない」
「・・・そうですか。ありがとうございました」
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