第10話 犬っころ・・・・?いやこの子は神狼です

「おい、お前ら、俺の後ろに下がっておけ、流石にこれはまずい」


 絶賛今回の任務の本命たちに囲まれている俺たちとルー。


 事の発端は1匹の白いダイアウルフだ、俺も初めて白い個体を見てその美しさに見惚れていて、周囲の警戒を怠るという久しぶりの大ミスをやってしまって気が付いたら周りを囲まれていたというわけだ。

 周りにはいつの間にこんなに集まったのかたくさんのダイヤウルフそしてその中にも2体一回り大きな個体・・・エンペラーウルフもいる。


「俺が突破口を作るから二人は死ぬ気で逃げろ、時間は稼いでやる」


 団長は覚悟を決めた顔をしている、それに対して白銀は必死になって考え直すように頼んでいる。俺はというと足元で座っているルーと作戦会議中だ。

(なぁ、この状況どうするよ?別に全部倒せなくないけど、エンペラーいるから意思疎通できると思うんだが)

(我もそうしたいがなぁ、あやつらなんか殺気立って居るしエンペラーの命令次第ではすぐに来るぞ)

(ルーは切り札だから、交渉の場で正体をばらしたくないな)

(我もその方がいいと思う、手札を最初からきるのはもったいないからの)

(それじゃ、向こうが話しかけてきたら交渉、でなければここは殲滅でいいかな)

(そうだな)


「人間よ、今すぐこの場から引き返しせ、そしてお前たちの仲間に異常なしと報告するのだ」


 ハスキーな感じの声でエンペラーウルフがしゃべりかけてきた。


「いや、その前にあんたたちに聞きたいことがある」

「ほぅ、我らに聞きたいことだと?小童お前のような奴は初めてみたから少し問答に付き合ってやろう」


 団長と白銀さんは俺がエンペラーウルフと平然と話している事態を吞み込めず視界の片隅でフリーズしてしまったのを横目に問答をする。


「この周辺の環境を考えると仲間意識の強い、お前たちウルフなら犠牲を出さないために移動するのことがいいと思っているが、ここから離れず留まっているのは何故だ?」

「我らのことをよく分かっているようだが、その質問には答えることはできんな強いて言うなら約束かの」

「約束?」

「それ以上は答えることが出来ん、問うことはそれしかないのか?それならここを即刻去れ!」

「いや、その約束の内容を教えてほしいな」

「改めて言うが答えることはできん」

「なら、力づくで聞かせてもらおうかな?」


 当初の予定のうちの一つである俺一人のパワープレイで事態の打開をしようと俺は魔力認識疎外魔法を発動させながら魔力を練り始めた。


「そこの固まっている人間たちも守りながらか?」

「コイツがいるからな」


 俺は小さいままのルーの頭を撫でながら答える。


「そいつが人を守るだと?我らの足の爪1本でも容易く殺せるその犬っころがか?」

「あ・・・まずい」


 ルーは昔、俺たちと出会う前に唯一負けた魔将軍との戦いがあり、その時の相手に犬っころ扱いされたことがルーの中で踏んではいけない地雷なのだ。それを知らないこのエンペラーは仕方ないとはいえ、禁忌に触れたということだ。


「お前、今何と言った?」


 気のせいでもない、確実にお怒りになっている。普段は念話を使っていて、口で喋らないが感情の波が激しくなった時には普通に喋る、旅の時も誰かが無茶したりした時の説教はルーがしっかりとやっていた。久しぶりに精神的でなく物理的に寒くなってきた、この威圧感。


「なんだ?お主はただの犬っころではないのか?」

「エンペラーウルフの小僧、口の訊き方を気を付けたほうがいいぞ」


 そう言うとルーが俺の横で本来の6mほどの大きさに戻った。

 それを見ていたエンペラーウルフはこっちから見てもはっきりとわかるぐらいポカンと顎を開けていた。

(主、こいつらで少し遊んでもいいな?)

(りょ、了解、殺しはするなよ)

(分かっておる)

 そう言うと、ルーはその図体に似合わぬ俊敏さで周りのダイアウルフたちを蹂躙し始めた。特に問題はなさそうなので、俺は情報量を処理できていないカリュアスさんと白銀さんを正気に戻すために近づいた。


「お二方~大丈夫か??」

 

 俺が声をかけると急に二人は我に返り、俺に質問してきた。


「おい、レイあの狼はなんなんだ?お前の従魔のようだがあのサイズになる種なんて知らないぞ」

「私たちに何か隠してますよね?ちゃんと答えてもらいますからね」


 こっちはこっちで二人に謎のスイッチが入ってしまった…説明面倒だし、本当のこと言ったら、また固まりそうなんだよな・・・

俺が二人にどう説明したものか、考えているとルーが戻ってきた。


「主~もう終わってしまったのだがこいつらどうする?」

 

 ルーがそう言って前脚を上げて指し示した方にはダイアウルフの小山が何個かでき、よく見るとあのエンペラーウルフも混じっているようだ。


「取り敢えず、エンペラー起こしてから話聞こうか」


 俺とルーが小山の方へ行き、エンペラーを引っ張り出そうとしたら、目の前に急に巨大な気配が現れた。

「妾の部下達を倒すとは十分やるのぉ」


 目の前から現れたのは俺たちが最初見た白いダイヤウルフだが正体はダイヤウルフではなく・・・


「その魔力量と蒼い目まさかフローズヴィトニルかお前は?」

「その通りだ。人にしてはなかなか勘が鋭いの小僧」

「そりゃお前の同類を見たことあるからな、それにこいつからお前たちという種族のことも聞いたことがあるし」


 そう言って俺が横のルーの毛を撫でながら答えると、フローズヴィトニルは目を細めてこちらを見る。


「小僧、神狼を従えているのか?その年で」

「従えているのは形だけで対等な仲間だからな」

「そうかそうか面白い小僧だな、なにやらさっきの話を聞いていた限りその答えは妾が知っているのだが知りたいか?なら教えてやってもいいぞ?ただしお前が妾を楽しませれたらだがな!」


 フローズヴィトニルが魔力を練り始めた。


「ルー、俺をご指名のようだから手は出すな」

「そうか、まぁ主なら余裕だろう」

「ブランクあるからお手柔らかに頼むぞ」


 そう言うと俺は身体強化魔法をかけ、魔力効率を上げる魔法かけて全身に魔力を纏っていった。


「準備はできたかの?小僧」

「もちろんだ」


 次の瞬間俺の周りに沢山の氷球が現れた。


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