第9話 任務開始だ

 1週間ちょうどで教国との国境についた。国境だからとはいっても道に関所的なものがあるだけだが人がたくさん居ることが分かる。大方、教国の騎士団と向こうの今回の件の代表者だろう。


「向こうの代表者に挨拶してくるから皆はここで待っていろ」


 カリュアス団長はそう言うと馬車を降りて歩いて行った。

 十数分でカリュアス団長は馬車に戻ってきた。


「今回の現場に移動してから、向こうの人達からの指示で任務に当たる。失礼のないように各自気を付けろよ」


 周りの馬車から返事が聞こえてきたところでカリュアス団長は教国の人達の馬車に合図して、俺たちは現場へと向かった。




「一見すると、のどかな場所だな…」


 今回の以来のエンペラーウルフの居るとされている山は周りは平原で日が照っていると、とても平和な日本の手付かずの自然のような場所だった。


「とても、危険な場所には見えませんね」


 白銀さんも同じように感じているようだ。

(記憶に違いがなければこの辺りは殆どが平原と山のはずだ。エンペラーウルフ達は仲間思いだから犠牲を出さないように、別の場所へ移動するのも容易なはずなのだがな、何故この地に執着するのか…)

(そこは気になるが、依頼は討伐だろうからな、話し合いできそうならしたいけど)

等とルーと少し話しているとカリュアス団長から集合の合図があった。


「諸君これからは、ここまでの道のりで行った模擬戦の結果をもとに班決めをするのだが、その前にテレザート教国のアウスレーゼ枢機卿とミランガル枢機卿から挨拶がある」


 カリュアス団長がそう言うと後ろから30~40位の中肉中背のおっさんと60位のじいさんがでてきた。


「紹介にあずかったアウスレーゼだ、諸君らはこの世界を救うべくして召喚された者たちだとキュレネ王女から聞いている。そんな諸君らには・・・」

 

 お偉いさん特有の長話が始まった。だいたいは年功序列だからおっさんの後ろにいるじいさんの方が序列は上だと思っていたが違うのかもしれない。

 そんな風に考えながら枢機卿を見ていたら、こちらと視線が交錯した。すると何故か、枢機卿の顔は信じられないものを見たような驚愕の色に染まった。俺は表情には出さないようにしたが、少し気になったので後で調べてみることにしよう。


 その後体感1時間ほどの長演説が終わった後に、カリュアス団長から各班のメンバーが発表されていった。


「で、最後の班は俺とレイと嬢ちゃんだ」

 

 模擬戦では目立たないように、あえて本来の実力を出さないように白銀と示し合わせていたからか、クラスの中では下の方の順位になっていたはずだからこの組み合わせになったのだろう。これから今日は枢機卿からもらったこの周辺の土地の地図と魔物たちの概要を見て作戦を決めていく予定だが誰かが静止した


「団長!一ついいですか?」

「どうした坂本少年?」

「最後の団長の班のメンバーの構成に納得がいきません。白銀さんはレアスキルを保持していますが、神代はただのありふれた剣士のスキルですよ、これだと団長の足を引っ張ってしまうので、僕のようなレアスキル持ちで再構成するほうがいいと思います?」

「ほぅ・・・それは何故だ?」


 坂本の遠慮のない自己願望も容易に想像できる申し出にカリュアス団長が眉を顰めている。


「何故って、それは今言った通りレアスキル持ちで構成したほうが足を引っ張らずにすむので今回の任務が円滑に進むからですよ」

「では、仮にそうした場合一般的なスキル持ちの人のいる班の負担はどうなる?確かに単純な効率だけを考えたら、その方がいいのかもしれん、だがそれは確実に他の班に負担がかかることは必至だ。負担がかかり疲れると、ミスも起きる、そして最悪の事態だって起きてしまうかもしれない」

「任務なんですから犠牲はつきものです、それは仕方ないと切り捨てるのでは?」

「いいか、俺はこの場においてお前ら全員の命を預かっている立場の人間だ、そして俺の理念は任務の成功失敗ではなく、生きて全員が無事に戻ることだ、そしてこれは俺が最高責任者である限り覆すつもりもない、お前が理解するには少し早すぎるかもしれんがな」


 カリュアス団長の理念は上司の鑑のようなもので、周りでこのやり取りを聞いていた団員や生徒たちはうんうんと頷いている、坂本は流石にこれ以上言っても自分の株が下がるだけだと悟ったのか小さな声で「分かりました」と言って自分の担当の班へ戻っていった。


「よし、それじゃ明日へ備えての準備をするか」


 カリュアス団長が笑いながらこちらへやってきた。


「カリュアス団長、私凄い感動しました!任務の成功失敗より生きて全員で帰ることに重きをおいている、心に響きました」


 白銀さんが目を輝かせながらカリュアス団長と話している。


「そうか、嬢ちゃんも将来、部下を持ったらこの考えを忘れないでくれよ・・・と格好つけたが実際のところは毎晩二人で特訓してたからその成果が気になっていたというのが正直なところだ」


 誰にもバレずに行ったと思っていた俺の白銀の魔法指導がカリュアス団長にはばれていたようだ。


「気配は消していたはずなんですが何で気づいたんですか?」


俺が問いかけると、カリュアス団長は何だそんなことかとあっさり答えた。


「そりゃ気配を消そうが、テントを出ていくところを見てたら普通に分かるし、嬢ちゃんの方は気配を消すすべを持ってないから察知するのは寝袋の中からでも全然簡単だったぞ」

 そう言って豪快に笑うカリュアス団長を見て、俺たちは苦笑するしかない。確かに気配を消す魔法は姿は消せないので目視されたらどうしようもないという欠点があるので仕方ない。


「まぁ、今晩はさすがにやめておけ、明日からに備えてしっかり寝ておけ 」


 その日は装備前衛後衛の確認、探索ルートの目星をつけて寝た。




 翌朝、俺たちは各自が昨晩決めたルートを使いながら任務を開始したが・・・初日は一部の班がダイアウルフを数頭狩ることができた程度でエンペラーウルフにいたっては目撃することができないまま数日が過ぎたある日・・・



「お前ら、俺の後ろに下がっておけ、流石にこれはまずい」


 そんな緊迫した声のカリュアスさんと俺たちはエンペラーウルフとダイアウルフの群れに囲まれていた。

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