第8話 さて…人に教えるって何やるんだ?

遠征二日目、馬車に揺られながらまた寝たふりをしてる、理由は昨日と同じで坂本と目を合わせると面倒くさいことになりそうだからだ。


昨日、白銀さんから魔法の指導を頼まれたのを了承したのはいいが、人に物事を教えるなんてことを一回もしたこともない経験値0の人間はどうしたものか。こういう時は先人の教えを流用するか。レノアが魔法関連の知識を教えてくれたからそれを思い出すか10年以上前だから記憶の細部が欠落してるんだよなぁ。エリシアは聖魔法関連の知識だから白銀さんには関係ないので除外してと。


そんな風に今日教えることを考えながら馬車に揺られている。もちろんルーは白銀さんのおもちゃ・・・ではなくモフモフになっていてなんか疲れ切った念話が来るけど、なんとなく人との久しぶりの関りを楽しんでるように感じるので、放置してる。本当に嫌がってたらしっかり嫌っていう子だからね(母親目線)


「今日はここで野営するぞ」


 カリュアスさんの言葉で馬車が一斉に停止する。

 俺は軽く伸びをしてから馬車の外に出る。馬車の中でじっとしていると体が硬くなっているので柔軟で体を解していく。


「レイ、お前随分と体が柔らかいんだな」

「そうですか?毎日かかさず柔軟してたら普通じゃないですか?」

「その毎日かかさずするのが難しいんだがな」


 背中を後ろに反らしてカリュアスの方を見る。


「で、今日もカリュアスさんのところでテント設営を手伝うのでいいですか?」

「お、そうしてくれると助かる」

 

 その日も昨日と変わらず、焚火を何人かで囲んで飯を食べながら談笑した。この世界についてのこと、王女様への愚痴、各自の最近あったプチニュースを聞いた。


 そして、夜中に闇魔法で気配を消してテントを抜け出し、白銀さんのいるテントに向かった。

 白銀さんがこちらの姿を認識して近づいてきたので闇魔法に、結界魔法を織り交ぜて、一定範囲内の気配を消した。


「ここだと巡回の兵士に見つかるから、移動してから話そう」

「分かりました」


 無言で15分ほど森の中を移動してから、魔法を解いて呼吸を整える。レノアに教わったのを応用すれば自分にも魔法の指導ができると言い聞かせて。



「今日から俺ができる限りの知識と技術を教える、それをモノにできるかは白銀次第だ」

「分かりました」

「先ず白銀は何の魔法が使えるんだ?多分ステータスカードに書いてあるはずだから、それを教えてくれ」

「上級氷属性魔法までと、中級火属性魔法までと、中級聖属性魔法までですね」

かなり衝撃的な内容だ、聖属性の魔力を感じなかったから完全に思考から除外してたから、どうしたものか…取り敢えず魔法の(俺たちの)常識のところから教えることにしようか。

「じゃあ、先ずはクイズをしようか」


 俺は両手に別々の等級の魔法を無詠唱で出した。


「これのどっちの方が魔力の密度が高いか分かるか?右手のが初級魔法の『アイスボール』で左手のが上級魔法の『魂をも凍らせる世界』だ」


 白銀に魔力の密度なんて教えてない、だって俺も教えられなかったんだ。


「う~ん、普通に考えたら初級より上級魔法の方が強いはずですから左手の方となりそうですが、その情報を開示してる時点で何か裏がありますよね」

「そうそう、いい着眼点だ、答えが分かるかな?」

「となると・・・どっちも同じ密度ということですか」

「その通りだ。これはだいぶ重要な知識なんだが魔法は密度で等級を表していない、あくまでその魔法に必要な魔力量、制御する難しさで区分されているが大多数の人は等級ごとに密度=魔法の単純な強さと考えていて、それを絶対だと思っている。これで魔法使いとして最上級の大魔法使いにはまずなれない」

「けどそれぐらいなら簡単に直せそうですけど?」

「白銀、お前にも癖とかあるだろ、物心ついたころから知らず知らず無意識のうちにする癖がそれを簡単に直せると思うか?しかも魔法はそれよりも矯正することははるかに難しいだから、最初にこのことを教えた」

「はい、なんとなくは分かりますが」

「んじゃ、軽く魔法を使ってみるか、手のひらを出して俺の『アイスボール』の形を見て、それを心の中で思い浮かべてみろ、思い浮かべるときは目を瞑ってみてもいいぞ」

「は、はい分かりました」


 白銀は俺の右手の上に浮いている『アイスボール』を凝視して、目を瞑った。


「心の中に思い浮かべたら、次は自分の手のひらの上に『アイスボール』があるところを想像してみて」

「は、はい」


 白銀の手のひらの上に魔力が収縮されていき氷球ができる、ちょっと大きい気がするが、まずはいいとしよう。


「白銀、目開けてみて」

 

そう声をかけると、白銀は目を開け自分の手のひらの氷球を見ると目を丸くした後に笑顔で飛びついてきた。


「ちょっと、白銀⁉『アイスボール』から意識外したら魔法が解けるぞ」

「え?残ったままですけど」


 確かにさっき白銀がいた場所には氷球が残っており、さらにさっきよりも魔力が凝縮されているように見える。おかしい、というか異常だ。さっきの『アイスボール』を無詠唱で行使したし、一瞬で魔力の密度も上げている。


「白銀、お前もしかしなくてもとんでもない魔法使いになるかもだぞ?」

「そうですか?」

「あぁ、だから鍛錬のギアを一段階上げていくぞ」


 俺の中で謎のスイッチが入った、白銀のこれからの伸びしろに興奮して背筋がぞくそくしてきた。



5 日後、白銀は上級魔法までなら火属性と氷属性をほぼ完全に扱えるようになった。これは俺と白銀だけの話だ。そして教国との国境にたどり着いた。

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