第7話 選択の時・・は少し先

「別に俺は白銀さんの傍に自分の意志でいるわけじゃないから、どうしようもないんだが?」

「嘘をつくのも、大概にしろ!いつ見てもお前と白銀は一緒にいるじゃないか!」

「いや、居ないし、なんならあいつが話しかけてくるだけだし、それに社会的に抹殺するなんて物騒だな?お前にそんな力があるとも思えん」

「いや、俺はこの世界で力を手に入れたからな、お前程度がどうにもできない力を」

「あほくさ・・・」

「なっ・・・まぁいい俺は寛大だからな、夕方改めて返事を聞こう」


 坂本が言うことを言うだけ言うと広間を出て行った。


「何で俺にヘイト向けるんだよ…めんどくさ」


 社会的に抹殺するって言ってたけど、あいつは何のスキルを手に入れたんだう?…正直俺を社会的に抹殺したところでメリットもないだろうに、白銀から離れろと言われても、基本俺は他人に不干渉であるし、白銀とばかり話してるというけど白銀ぐらいしか話しかけてくる人がいないだけなんだよなぁ・・・自分から話しかけようと思える仲間なんてあいつらぐらいだし。

 正直ここはもう少ししたら離れて旅に出る予定だから社会的抹殺しようとしても無駄な気がする。そんなことを考えていたら、王女様が従者に命令しながら入ってきた。


「重要な話があるので、異世界の方々は皆さんをこの広間に呼ぶようにしてください」



 数十分後、広間にクラスメート全員が集められた。


「キュレネ王女、これはどういうことですか?みんなを集めて。私たちは鍛錬があるのですが」

「それは、すみませんでした、今回皆さんを集めたのは教国から魔物討伐の依頼が来たからです」


 教国という初めて聞く言葉にクラスは何のことかとざわめき始める中一人が答えた。


「この王国の北に位置して、この大陸で信仰されているテレス教を布教している本国のことですよね?」

「白銀さん、よくご存じですね。その教国からの依頼で我が国との国境に位置する山で大量のダイアウルフとその上位個体のエンペラーウルフが出没していて、それらの魔物を討伐してほしいそうです」

「おぉ!」


 クラスの連中は見る感じ不安よりも、この世界に来ての本格的な戦闘に興奮してる人が多い。

(確か、ダイアウルフ単体はCランクの魔物だが群れだとBランク相当になるんだよな、そしてその頭のエンペラーウルフはAランク相当だからこの世界に来たてのこいつらには手が余るだろう」


「そして皆さんは近衛騎士団の方と共に昼過ぎに急ぎ向かってもらいます」

「「「「は?」」」」




 現在、俺たちは王都を出て近衛騎士団の馬車に揺られている。


「王女様毎度のことながら急すぎるんだよ」

 

 はぁっと俺の前でため息をついているのは朝ぶりのカリュアス団長、俺の横にはルーを抱えた白銀さん、そして目の前で睨んできているのは坂本だ。

(主、我はあとどのぐらいこの状態なのだ?)

(教国との国境のあたりまでならこの感じだと1週間じゃないかな)

(そ、そうか)


 ルーは白銀に触れられるのが、慣れないので既にだいぶ疲れ気味である。


「ワンちゃん可愛い~!」

 

 当の本人は気づいてないけど・・・

 坂本が絡んでくると面倒くさいので話しかけられないように寝たふりを貫き通している。今回は俺たちが異世界に来たばかりということもあって荷物が何もないから遠征準備は近衛の人たちと一緒に治療品と装備、食料を詰め込むだけですんだ。

流石に教国からの依頼だからと言って、その依頼を受けた日に遠征に向かわせるなんて事は普通ならありえない、王女様の考えがまったくもって理解できない。

そんなことを考えていると本当に寝てしまった。



「お~い、小僧起きろ~今日の野営地についたぞ」


カリュアス団長が俺を揺らして起こしてくれた。

「すみません、寝てしまって」


 詫びると、カリュアス団長は気にするなと笑った。

 馬車を降りると周辺で、騎士団の人とクラスメートが野営用のテントを張ったり、食事を作っていた。


「小僧は俺の担当のテントの設営を手伝え」

「その小僧呼び、いつまでするんですか?」

「俺はお前の名前を知らんから取り敢えず小僧って呼んでるんだが?」

「そうでしたっけ?俺の名前は神代 怜です。好きに呼んでください」

「よしレイ!テント設営に行くぞ!」

「分かりましたよ」



 その後テントを設営し、焚火を囲いながら近衛騎士団の人と談笑しつつ晩飯を食べた。その後は明日も早くに移動を開始するということで近衛の人が数人、歩哨を交代で担当し、他は皆寝ることになった・・・


「眠れない・・・」


 お昼から夕方にかけてがっつり寝てしまったのが原因だろう、ここで動かずにじっとしているのもあれなので、ゆっくり寝袋を出てから、闇魔法で気配を消してからテントの外に出る。

歩哨の人たちに見つからないように少し野営地から離れた場所に行くと程よい木の上に飛び乗った。


「白銀さん、どうかしたか?後をつけてきたようだけど?」

「え?バレてた?」

 

 野営地を出ようとしたあたりから後ろからつけてきてるのは分かっていた。姿を見せてないところはいいのだが、流石に気配を隠すことはできないからバレバレだった。


「野営地出たあたりからバレてたよ」

「そんな・・・姿見せてないはずなんですがね」

「こればっかりは年季の差だな」

「またです・・・」

「ん?」

「この世界に来た時から気になっていましたが、神代君はなぜそんなことを言ってるのですか?まるでこの世界のことを既に知っているような発言を!」

特に話すことなんて意識してなかったし、正直人と話さないから不用意な発言とかを気にしていなかったからか、なんか白銀さんに感づかれてる?ようだ。

「えっと、そのことが知りたいのか?」

「そうですよ、何か知っているんですよね?教えてください!」

まだ気づいていないか・・・

「そうだな、教えてあげるよ、まぁ見たほうが少し早いかな」

『アイスバインド』

白銀さんの後ろにいた、フォレストスネークを氷の蔓で縛る。

「え?え⁉」

「落ち着け、そこで少し見ていろよ」

 

 基本的にこの世界の魔物も一部の概念は地球と同じで爬虫類なら変温動物なので冷やせば動きも鈍くなる。

「あらら、よってきちゃったか」


 森の四方からフォレストスネークが来ているのが気配で分かる。


「白銀、これ手に持っとけ」

「は、はい」


 異空間BOXから結界魔法を付与したお守りを取り出し、白銀に渡す。流石にSランク以上の魔物の攻撃は数回しか防げないが、Dランクのフォレストスネーク相手なら問題はない。

『スパーキングマイン』

お遊びで回りにトラップを仕掛けると次々とフォレストスネークが感電していく。


「あと一匹は・・・」

「ヒェッ」

 白銀さんから声にならないような声が聞こえてきた。

見てみると木の上からフォレストスネークがとびかかってきたようだが、結界に阻まれて地面に転げ落ちた。

「よいしょっと」

「こ、神代君!?」


 俺はそのフォレストスネークを素手で無造作に捕まえて、丸めると力の限り遠くへぶん投げた。


「で、まぁこんな感じなんだけど」

「どういう感じですか!?ちゃんと説明してください」

「えぇ・・・面倒くさい」


 どうやら納得してくれないようだ(ナンデデスカネ)


「取り敢えず少し危ないからっと」

「ちょっと、何してるんですか??」


 俺は白銀を両手で抱えると、手ごろな少し高めの木の枝に飛び乗った。


「ここなら、安全に話ができる。で、白銀、全部話すと長くなるから割愛するけどさ・・・」

「ふぇぇぇ」


 白銀は完全に目が回っていた・・・


「えぇ・・・??」


 この後白銀が正常運転に戻るのに半刻ほど使った。



「すみません、目を回してしまって」

「気にするな、いきなり信じられないようなことが起きたらびっくりするもんな」

「そう・・ですね」

「で、まぁお前は俺の概要は本で読んでるから細かいとこは省くぞ」

「本で読んでる?」

「千年前に召喚された勇者ってのは俺のことなんだよ」

「はい・・なるほど・・・・え?えぇぇぇぇぇ⁉」

「お、おい白銀?」


 白銀がまた目を回してしまった・・・のを起こして軽く説明をした後に、白銀のこの世界での足りないところを補うことになった。

 1週間で実戦でも十分なほどに指導してという約束を交わして・・・。Aランクまでなら多分どうにかなるはずだ・・・きっと。



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