第6話 王城での一日

 まだ日が昇ってない頃に目が覚めた。普段の生活通りなら今は午前6時のはずだが、この世界では明確に時間を確認する魔道具がないので細かい時刻までは分からない。


「ん~眠い…」


 ベッドの掛け布団をどけると足元にルーが眠っていた。


「おっと、すまんな」

 ルーが寒くないように布団を掛け直してから俺はそっとドアを開けて外に出た。

どこかに広場がないかな、朝に軽く体を動かさないと体が切り替わらないんだよな。

手頃な広場を探していると良さそうな場所があった。



【近衛騎士団第一訓練場】

 学校のグラウンド程の広さがあり木剣用の練習人形もある、その他の器具は自分の戦闘スタイルで必要ないから割愛するとしよう。

先ずは体の柔軟から始めて体の関節をほぐし、軽く身体強化魔法を掛けて、軽く跳び跳ねながら宙返りをする。次に初級魔法の密度を限界の限界まで上げる、これが意外と集中力がいるので、魔力制御の良い練習になるから毎日のようにしている。最後にただ重量増加という無駄なバフをこれでもかというぐらいに掛けた木剣を軽く振り抜く、これはリベルが教えてくれた練習法で最初の頃は引きずることしかできなかったが今は殆ど普通の剣と変わらないぐらいに振れるようになった。練習をしているとガヤガヤとした声が聞こえてきた。



「今日は騎士団内の個人戦を行う!優勝者には豪華景品があるぞ、皆頑張れ!」

「団長、豪華景品って言っても大衆浴場の入湯券でしょ?」

「そうだよな、そうに違いない」

「景品があるほうがやる気が出るだろ!」

 

 騎士団の人達が個人戦をするのか…1000年前と違って随分と真面目になったものだ、当時は賄賂に天下りに…不正のオンパレードだと聞いていたがよくも組織の体質がここまで変わったものだと思う。


「お、朝から練習とは感心だな坊主!お前は前連中が来たときには見ない顔だな?後追い組的な感じか?」

「意見具申したら、王女様の理不尽で森にほっぽり出されただけですよ」

「そ、そうなのか…お前も大変だったな」


 団長?がどっこいしょと俺の横に座った。


「小僧もそこに座れ、ちと世間話でもしよーや」

「え、あ、はい」


 本来ならすぐにでも去りたいのだが、このおっさん完全に駄弁る気でいるから、どうしたものか・・・適当に話して切り上げようかな、木剣の異常さがバレないように

そっと置いてと。


「えっと、あなたの名前は何ですか?」

「名乗るのを忘れていた、俺の名前はカリュアス·リベル、一応近衛騎士団の団長をしている者だ」

「カリュアスさんですね、それで世間話とは?」

 

 どういうことだ、リベルの名前が使われているのは?リベル自体はファミリーネームじゃないはずだったが…ただそれに関しては問いかけことができない、当時の文献はあの本しかないしあの本も作者はどこの何者かということについては触れられてないからな。


「いや、小僧も王女様に振り回されているそうだから気になってな、どこの森だ?」

「神狼の森ですね」

「…もう一度言ってくれ?」

「神狼の森です」

「お前幽霊か?」

「初対面の人にそれは酷くないですか?」

「すまん、すまん神狼の森なんてSランクパーティーでも油断はならん場所だぞ、そんなとこを召喚されたての人間が切り抜けられるとは思えんなぁ」

「いやいや、なんか何も出てこなかったんですよ(汗」

 

 実際のところは少し違って、ルーという神狼の森の当の神狼がいたから魔物たちが寄ってこなかったのだ。そんなことも知る由もない団長は納得いかない感じだが納得してもらおう。


「そうなのか?まぁ珍しいこともあるもんだ」

「ですね、正直恐ろしいとかこの世界来たばかりなんでよく分からないんですよね」

「そうか、そういえばこの木剣どこで手に入れた?ずいぶん質がよさそうだな」


 そう言っておもむろに木剣を触ろうとしたのでカリュアスさんが木剣に触れるか触れないかのところで俺は木剣を回収し、不自然だが別れを告げる。


「すみません、友人に内緒ででてきたのでそろそろ戻りますね」


 俺は急いでその場を離れた。



「あの剣・・・まさかあんな小僧がな」


 カリュアスさんのつぶやきは俺の耳には届かなかった。



 俺は自室の前まで急いで戻ると、ドアの前で呼吸を整えてからドアを開ける。

(ん~主どこへ行ってた?)

 ルーが布団から頭だけ出して眠そうな目で聞いてきた

(いつもの朝のやつしてきた)

(分かった、我はもう少し寝てるから後で起こしてくれ)

 ルーはあくびをするとまた布団にススッと戻っていった。



 俺は昔使ってたこの世界の服を異空間BOXから取り出して着替えてから昨日の広間へ行くと人がまちまちと集まっていた。


「おい、神代」

「えと、坂本だっけ?何か用か」

「あぁ、こっちへ来い」

 

クラスでも特に話したこともない坂本勇也に声をかけらて広間の端の方へと行く。

確かこいつも坂本グループの御曹司かなんかだったが、俺や白銀のようなタイプの人間ではないと記憶している。


「神代、お前どうしたその服は?」

「あぁ、これかここに来るまでの町で少しだけ荷物運び手伝ってもらったお金で買ってみた」

「ふ~ん、そうか、それは本題じゃない」

「んじゃ、何の用だ?」


 坂本がニヤッと悪い笑みを浮かべて告げる


「白銀の傍から離れろ、さもなくばお前を社会的に抹殺する」


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