第5話 久しぶりの王都

 歩いたために森を抜け、王都に着くのに1週間近くかかってしまった。

久しぶりのこの世界なので途中の町々を観光していたのが主な原因である。1000年経っているから町の位置こそ変わっていないが、街の景色はだいぶ変わっているので観光についつい時間をかけてしまった。町々の面白そうな雑貨店で面白そうな魔道具や今までなかったもので気になるものを買い漁った。今でも昔と変わらない通貨が流通しているようで、金銭面でも一生涯心配はいらないが流石にこの世界に永住する気はさらさらないので復活したあの魔王を駆逐しなければならない。あいつらが居たからこそ勝てたが、今いるのはルーだけ、ミズチとリンネがいるから少し気が楽だが戦力としてはまだ足りない。また戦うのは当分先のことだからいったん思考からは除外する。

 王都に着いて感じたのは王城が記憶と少し形が違うということぐらいで街並みは昔と特に変わっていないように感じた。王城も1000年以上も建っているのだから古くなっていて改築ぐらいしてるのだろう。

 魔力の波形で白銀さんに近いものを探していると昔は書物庫になっている場所から多分白銀さんのものと思われるものを感じ取った。ルーには大型犬程のサイズになってもらい、転移魔法を使って昔、書物庫であった場所に転移した。

目の前では白銀さんが書物を一心不乱に読み続けていた。左右に本の山ができていて、どちらにすでに目を通したのかは分からないが1週間にしたらやや異常な読書量だ。


「書物でこの世界の知識を手に入れることから始める、優等生の模範解答だね、白銀さん」


声をかけると彼女はいたって普通に返事をしてきた。


「これしか思い付きませんでしたからね、ところでどうやってここへ来たのですか?それと・・・」


 白銀さんはいつでも動じない、普通に考えたらたいていの人は今のでもびっくりするはずなんだが、彼女は驚いた表情も見せなかった。


「ん?普通に城に入って…」

「そのワンちゃんは何ですか!」


そう言うと白銀さんが席から電光石火のごとく俺の足元にいたルーをモフり始めた。

(主、なんなのだこの人間は???)


ルーが困惑しながら念話で話しかけてくる。

(いや、俺もよくわからん、普段はめちゃくちゃ冷静なんだがな)

(ともかく助けてくれ~、主たち以外に触られる時とは違った感じで全身がすごくムズムズして落ち着かぬ)


「えっと、白銀さん?」

「ハッ!」


 話しかけると白銀さんはルーからパッと離れてアタフタし始めた。


「いや、これはそのですね・・・(汗」

「いや、別に構わんぞ、モフモフする時の心地よさは俺もよくわかる」


 実際ルーの毛は他の比較しようのないぐらいサラサラで高密度でモフモフだから撫でたくなるのはよーくわかる。

(あ、主!?我はなんかイヤーな予感がするのだが??)

ルーの質問は黙殺してと


「そ、それじゃぁもう少し楽しませてもらいますね」

(ふぇ!?、我は少し休みたいのだ!だから近づかないで・・・お願いだからその手をおろしてくれ!主!ヘルプミー!)

「書物読み漁ってるから、満足したら声をかけてくれ」

(主ィ!?)

「分かりました」


 ルーに対して久しぶりにイタズラをしてみようという気まぐれでルーは白銀さんにまたモフられる生贄になり、そんな彼女らを横目に机に置いてある白銀さんが読んでいた本に目を通し始めた。


魔法書は概ね記憶と変わらず、特に新しい発見もなし、歴史書関連は・・・と

「世界を救ッタ者ノ軌跡」エリシア・リベル・レノア 共著

あいつら本なんて書き残してたのかよ・・・読むか。

読み進めていくと分かったが登場人物の名前は基本出さずに起こった出来事を淡々と書き連ねている本だった。

 王城の形が変わったのって俺が最上級魔法使ったのが原因だったのか・・・忘れてたな。



「神代君~聞こえてますか?」

「ん、すまん没頭してた」


 気が付いたら窓から入ってくる日もだいぶ赤くなっていた。


「そのおかげでこの子を存分にモフることができたのでOKです」

(あ、主ぃ・・・)


 ルーはモフられ疲れたのか遺言みたいな念話を残して寝てしまった。


「おっと寝ちゃったか」

「あらら、私が振り回しすぎましたか??」

「ん~まぁ楽しそうにしてたからいいだろ」


 俺はルーを抱きかかえると、書物庫を白銀さんと出た。


「で、俺はあの王女様に戻ってきたぞって言わんんといけないのか?」

「そこまでは分かりませんね」

「まぁあんな理不尽人間のとこへこっちから行くなんて死んでも嫌なんで行かないがな、そのうち来るだろ」


 白銀と雑談しながら昔、客人用の広間があった場所へ連れて行ってもらうとクラスメートが殆どそろっていた。


「神代が来たぞ」

「あいつはてっきり死んだと思ったがな」

「あのどこか余裕ぶった顔が本当にイライラする、それに白銀さんといつも話しやがって」


 おぉ・・・殺気立ってる、ただ理由がちと理不尽なんだよ、別に白銀さんといつも話してるわけじゃなくてただ話しかけてくるのが白銀さんだけなんだよ。どうせ、ここもそのうち去って、1人旅を始めるから別に悪口を言われようといいんだがな。


「あら、よくここまでこれましたね」

「寄り道してたんで遅くなりましたよ、王女様」

いつの間にか王女がが真後ろにいた。

「いや~途中、観光がてら町に寄ってたので2日で着く予定が遅れちゃいましたw」


 俺はあえて挑発してみた。


「そ、そうですか…なかなかご自由な人間なんですね」


 王女様は若干顔が引きつっている。


「それと、そちらの犬はなんですか?」

「あ~神狼の森で仲良くなったんだよ、可愛いだろ?」

「ヒェッ…わ、分かりました、私はこれで失礼します。部屋は空いているところをお使いください」


 王女様は速足で広間を去っていった。


「神代君、王女様になにかしました?」

「いや、なにもしていないけど??顔色悪そうだけど体調大丈夫なのか?あの王女」


 王女様がルーの正体を理解してくれたようで助かる、これでそうそう強気に出てく

ることはないだろう。


「それじゃ、俺は疲れたからもう寝るよ、じゃぁな白銀さん」


 俺はそう告げるとすぐに広間を去った。


「で、寝る部屋はどこだ?」


 この後部屋を探すのに30分ほどを要した。

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