第2章 不死身無敵 VS編

不死身無敵VSインベーダー


 その日、世界において全ての日常は崩れ去った。


 『ギャオオオオォォォォ!!!』


 突如として現れた怪物、通称『インベーダー』によって、世界は未曾有の危機に晒されたのである。

 無論、不死身(ふじみ)無敵(むてき)の通う矢倍(やばい)高校も例外ではない――


 「何だ、テメェ!?」

 『ギ、ギシィ……』


 ――かに思えた。

 無敵は、機械と蟲を無理矢理融合させたような怪物(インベーダー)を、ただの金属バットで叩き伏せていたのである。

 彼女の周りには、おびただしい数の死体が転がっていた。


 『ギャア! ギャア!』

 「うるせええええ!!!」


 その見た目からは想像つかない剛腕で振るわれた金属バットは、爆弾でも傷つかないようなインベーダーの装甲をいとも容易たやすく拉(ひしゃ)げ、その歪なる生命を終わらせた……


 『おーい! 無敵ー! まだデカい奴が来てるぞー!』

 「デカい奴ー?」

 『ビルよりデカい奴だぁーっ!!!』


 校舎の窓から、無敵のクラスメイトが顔を覗かせながら言った。

 そして、ズシン、ズシンと地響きを立て校門の前に現れた、先程のインベーダー達を遥かに凌駕する大きさのインベーダー。

 4本の足で蟲のように歩き、鎌のような腕で障害となるものを切り裂く。


 『ギシュワアアアアァァァァッッッ!!!』


 甲高い、不快な金属音とも取れる咆哮を上げ、仲間を殺した下手人であろう無敵を睥睨(へいげい)する。


 「こいつは骨だな……」


 そんなことを言う無敵の顔は、笑っている。

 まるで、自分が負けるなどとは欠片も思っていないようだった。


 「スゥー………」


 無敵は息を吸いながら、金属バットを頭上に掲げた。その瞬間、風が吹き始めた。

 長い黒髪と、白いセーラー服が風になびく。ただでさえ凶悪な目つきの顔が、更に歪む。


 『ギッ!?』


 この時、インベーダーの全細胞が警鈴を鳴らした。


 『アレを止めなければならない』


 人間でいうと、概ねこのような思考が、彼の頭の中を支配した。

 インベーダーは、その巨体に似合わない驚くべきスピードで肉薄し、腕の大鎌を振り下ろ――


 「ウオオオオラアアアアッッッ!!!」


 ――そうとしたが、その前に、無敵が天高く跳躍した。

 そして、彼女のジャンプが限界点に達した時、それは起こった。


 ドワオォォォォーッッッ!!!


 無敵の金属バットに、雷が落ちた。

 ほぼ同時に、嵐のような暴風雨が巻き起こり、暴風雨が無敵の金属バットに集約した。


 「死に晒せええええ!!!」


 そしてそれを全身全霊、全力全開、力の限り……『ブッ放つ』


 『ギャオオオオ!?』


 指向性を持った嵐と雷の前には、インベーダーの生体装甲も無力。 

 嵐が装甲を削り取り、その隙間から雷が侵入する。インベーダーが、強靭な再生能力を有していたことも仇となる。


 削られた生体装甲はすぐに再生するが、再生するよりも速く雷が入り込む。

 入り込んだ雷は、インベーダーの内部で反射し続け、増幅される。


 『ギ、ギャアアアア!!!』


 ついに耐えきれなくなったインベーダーは、爆発四散。全てをぶちまける結果となった。


 「くたばったか……ん?」


 爆発したインベーダーを見た無敵は、フスンと息を鳴らした。

 しかし、息つく暇も無く、新たな刺客が送り込まれる。


 『無敵ー! 奴らを送り込んでる次元の隙間が、この高校の前に全部集結してる!!!』

 「何!?」


 突然現れた、黒々とした丸い穴から、飛行型のインベーダーが出現した。

 更に、そのインベーダーは1体ではなく、空を埋め尽くすほどの数だった。


 『ギギィ!!!』

 『『『ギィ!!!』』』


 飛行型達は、一斉に無敵へとレーザー光線を放った。

 一発でも戦艦を貫通し、山を崩壊させるそれが、1万以上。人間は塵も残らないだろう。


 「しゃらくせえんだよテメェら!!!」


 しかし、それを受け続けてもなお、無敵の体どころか、セーラー服すら白いままである。

 彼女は、金属バットで地面を叩いた。


 ゴゴゴゴ……


 すると地響きが鳴り、地面が割れた。出てきたのは、煮えたぎるマグマだった。


 「消し飛びやがれええええ!!!」


 バットを連続で振るい、3つの自然現象を飛ばし続ける波状攻撃である。

 嵐、雷に加え、マグマが合わさった攻撃は、飛行型インベーダーを容赦なく蹂躪した。

 黒かった空は、今や快晴と言わんばかりである。


 『無敵! あの隙間を何とかしなければ!』

 「じゃあ、あん中の奴ら全部殺せば終わりだな!」

 『俺達も連れて行ってくれ! 全校生徒の願いだー!!!』


 彼らは全員狂っていた。

 無敵は獰猛な笑みを浮かべ、マグマの噴射で空いた大穴に飛び込んだ。

 しばらくすると、校舎が揺れる。


 「ウオオオオ!!!」

 『流石無敵だぜ! 高校を持ち上げちまうなんて!』


 高校の下に潜り込んだ無敵は、空前絶後の怪力により高校を持ち上げた。

 ……『校舎』ではない。『高校の敷地全て』を持ち上げたのだ。


 「いいぜ、全部ぶっ殺してやる! 行くぞお前ら!!!」

 『オオオオォォォォーッッッ!!!』


 高校を引き抜いた無敵は、全生徒ごと次元の隙間に突撃した。

 かくして、インベーダーと矢倍高校一堂は、未来永劫続く闘争へと身を投じた……



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