第5話 無敵軍団、虚無へ!


 「うおおああ!? 何だこいつら!?」

 「し、死なない! 死なないぞ! 奴らは不死身か!?」


 無敵軍団は、ビルにつくと早速破壊活動を開始した。

 まずは無敵が中に入り、ロビーにいた受付を引きちぎり、次に近くにいた社員っぽい奴を圧縮する。

 そこまでしてようやく駆け付けた警備員(怪人)を、バットで唐竹割りにして真っ二つにしたり。


 我が物顔でのやりたい放題。だが、そんなものは序の口。

 他の生徒達が入ってきてからが、GNOs新支配者達にとっての悪夢の始まりだった。


 「こ、こっちへ来……ぎゃあ!?」

 『GRUUUU……』

 「く、食い殺され……!? お前も怪人じゃ……うわああ!?」


 最早人間の原型は二足歩行だけとなった生徒が、次々に怪人達を喰らう。

 それは、栄養補給と戦闘行為、敵に恐怖を与え、自らの残虐な嗜虐心を満たすための、実に合理的な戦法である。


 「おい、お前ら。私は先行っとくから、きちんと皆殺しにしとけよ」

 『GUGAAAA!!!』

 「ん、良い返事だ」


 金属バットを担いだ無敵は、さっさと上の階に上がって行った。

 残された生徒は、あらかた怪人や構成員を喰らうと、無敵を追った。


 そして、各階でも同じような惨状が生まれたのだ。




 ◇




 「これは……まずいことになった」

 「どうしたの?」


 一方、襲撃されたビルの上の方にいる、牧島嶺緒と虫怪人。

 虫怪人の方は、事態を把握しており、内心かなり焦っていた。


 「このビルの、5階までの人員が皆殺しにされたらしい」

 「えぇ!? それって貴方達の敵対組織とか?」

 「いや……学生らしき人間と化け物の入り混じった謎の軍勢らしい」

 「……それって」

 「ああ。間違いない」


 2人は、ため息を吐きながら眉間を揉んだ。


 「だからおれはこんなことには反対だったんだ……」

 「え、誘拐に反対してたの? 実行犯なのに?」

 「耳が痛いな。誘拐した後、適当なとこで逃すつもりだったんだが……」

 「あ、そうなの」

 「最早その必要はなくなった。奴らには、このビルの掃除をしてもらおう。どうせいるのは、クズばかりだ」

 「ふーん……ここって何階?」

 「7階だ……まずいな、最上階で待っていようか」

 「そうだね……」


 2人は、最上階へと向かった。

 なお、無敵が7階へ来る直前だったので、本当にギリギリだった。




 ◇




 「もう最上階前か。張り合いが無いってか、このビルのセキュリティどうなってんだ? ガバガバ過ぎるだろ」

 「無敵にかかりゃ、核シェルターでも気休めにしかならんということさ」

 「なるほど……なら、さっきの幹部とか名乗る奴は?」

 「愛と正義には勝てないということさ」

 「ふーむ……なるほど」


 階段を上りながら、錦と話す無敵。

 無敵に愛や正義は無い。あるのは、もっと高次元で、超常的なものである。しかし、他の存在を塵芥のごとく思っている訳ではなく、団結の力、人間の力、進化の力を知っていた。


 「あー、腹減ってきたな……」

 「これが終わったら、うちの店に来い。嶺緒共々、私が奢ってやる」

 「無敵の手料理! 特別美味いって訳じゃないけど、量とレパートリーはやたら多いから満足感は格別なんだよなぁ……」

 「愛情を入れてるからな」

 「なるほど……」


 ……いや、訂正しよう。無敵にも、手料理にこめる愛情程度は持ち合わせていたようだ。


 「ん? この部屋は何だ?」

 「研究室だ……何でわざわざ最上階近くに……?」


 2人の目にとまったのは、研究室である。

 彼らの知識偏見では、研究室とは大体地下にあるものなので、気になってしょうがなかった。


 「私は入ってく。お前は嶺緒を探せ」

 「分かった」


 無敵が強引に扉をこじ開け、中に入って行った。

 研究員の災難は、こんなところに研究室を作ったことだろう。




 ◇




 「邪魔するぜぇ〜」

 「何だお前!?」

 「あぁ?」


 研究室にいたのは、小柄な研究員だった。

 前の台には、様々な武器らしきものが大量に置かれている。


 普通なら警戒くらいはするだろうが、兵器だろうが何だろうが、無敵に影響を及ぼすことはできないので、心配は無い。


 「皆殺しに来た」

 「ひ、ヒィ!?」


 ちょっと用事があるみたいな感覚でそう言う無敵。

 事実、無敵の持つバットには血と肉片がこびりついているので、研究員が怯えるのは無理もない。


 「ま、待て! この兵器が目に入らないか!?」

 「んー?」


 研究員は、咄嗟に後ろの台から兵器を取る。

 これがもし無敵ではなく、本当の暗殺者や殺し屋なら、そんな暇もなく、殺されていたことだろう。

 だが、無敵は向けられた兵器をまじまじと見ていた。


 「……出来の悪いSFの銃の玩具か?」

 「違う! これは超空間消滅エネルギー爆裂波動光線銃だ!!!」

 「??????????」


 あまりにもあんまりな名前に、無敵は首を傾げた。

 御大層な名前だが……具体的にどういう効果なのかが分からないからである。


 「どういう代物なんだ、そいつは」

 「フフフ……聞いて驚け! この兵器はな、宇宙から吸い出したエネルギーを一気に放出することにより空間そのものに作用し、指定した対象と周りの次元を崩壊させることで極小の特異点を生成し、相手を全ての次元から無に還すことで文字通りこの世から消し去る兵器だ!!!」

 「はぉ〜」


 見事な生返事だった。


 「で、そいつで私にかすり傷の一つでもつけられんのかよ?」

 「ば、馬鹿を言うな! かすり傷で済むわけないだろう!?」

 「なら……この私を殺してみろォッ!!!」


 凄絶な笑みを浮かべる無敵。

 そこには、何かに対する期待がありありと見て取れた。


 「う、うわああああ!!!」


 研究員が、叫びとともに引き金を引いた。

 その瞬間、無敵の周りが歪んだ。

 その歪みは段々と大きくなり、黒々としたものが無敵を包み込む。


 無敵を中心に隔離された小宇宙の中で、極小特異点であるマイクロブラックホールが無数に生成され、空間を崩壊させる。

 それだけに飽き足らず、吸いだされた無限に等しいエネルギーが無敵に効率よくダメージを与えるために疑似的な自我を獲得したのだ。

 彼らはその力によりビッグバンを引き起こして無敵を攻撃する傍ら、新たな概念や法則が支配する宇宙を生み出し、神、生命、物質、エネルギー、空間、次元、法則、概念……宇宙に存在する全てが無敵に攻撃をしかけた。


 今、無敵は全宇宙に攻撃を加えられているのである。


 「ふ、ふふふ……ブラックホールの中で生存できる生物なんていない! ビッグバンに耐えらるはずもない! お、お前が悪いんだぞ……」


 研究員の手は、恐怖で震えていた。

 そう。この兵器は文字通り対象を消し去る、悪夢の兵器であることを研究員自身がよく理解しているからである。


 「後悔しても遅い! ハハハハ!!!」

 『へぇ、もう終わりか?』

 「ハ……!?」


 無敵の声が響いた瞬間、空間が突如として収縮した。

 どんどん小さくなり、それに比例して無敵が現れた。

 空間はやがて、完全に出てきた無敵の掌におさまってしまった。


 「ば、馬鹿な!? 人間が……いや! 何であろうと生きていられるはずが無い! 存在できるはずが無い!!! 何故!?」

 「それはな、こいつらは私のセーラー服にさえに傷一つつけられなくてな。まあ、バットは無くなったが。だがな、途中で分かったことがあるんだよ」


 無敵が、掌で宇宙を弄びながら言った。


 「分かったことだと!?」

 「ああ。私の存在する宇宙にはよ、何か、敵? ヤバいのがいるらしいんだわ。これからそいつをボコりに行くことにした。こいつらと一緒にな」

 「は?」


 無敵は、持っていた宇宙を、天井に向かって投げた。

 すると、天井へ轟音とともに大穴が開き、快晴の空が見えた。


 「じゃあな」

 「は?」


 無敵が空を見ると、突然

 瞬く間に上昇気流と化したそれは、無敵を最上階へと運んだ。


 「は?」


 残されたのは、研究員のみだった。




 ◇




 「はぁぁぁぁ!!!」

 「ふんっ!!!」

 「そりゃああああ!!!」


 最上階では、錦、怪人、ヒーローの三つ巴が繰り広げられていた。


 「何やっとんねんアイツら……」

 「男には譲れないモンがあるんだよ」

 「譲るべきところなのになぁ……」


 それを冷めた目で見守る、金子、盛高、嶺緖。

 彼らはゼロを飲まなかったので何ら影響を受けていない。なので、冷静に状況を分析できている。

 そして、何より、この戦いの原因を知っていた。


 「お互いが相手の主張を一切聞かへんから」

 「まあ、化け物になってるのはマジのことだし」

 「怪人さんは完全に巻き込まれたんだよね」


 この無意味な争いは、行き違いから起こっていることだった。


 「生身であいつらと戦える錦おかしいやろ」

 「確かになぁ……って、何か揺れてないか?」

 「ほんとだ……わぁ!?」


 その場にいる誰もが、動きを止めた。

 何故なら、ビルが揺れているからである。

 彼らは直感で飛び退いた。すると、最上階の真ん中から、何か黒いものが豪速球で飛んでいった。


 「な、何だ……あっ!!!」


 中心に開いた穴から現れたのは、無敵だった。

 無敵は、上昇気流によって浮かび上がり、最上階の残った部分へと着地した。


 「無敵!!!」

 「錦か。それに、いつか見た奴らも雁首揃えて……」


 最上階を見回す無敵に、矢倍高校以外の面々は警戒を強めた。

 何せ、相手はあの不死身無敵。何をしでかすのか分からないのだから。


 「まあいい。それよりもだ、単刀直入に言うが、この宇宙は滅びる」

 『ええええぇぇぇぇ!?』


 無敵がそう言った瞬間、空にワームホールが出現。

 そこから、何かが姿を現した。


 「さ、サメだと!? しかし、大き過ぎる!!!」


 それは、サメだった。

 しかし、宙を浮いており、何百メートルもあるので、通常のサメでないことは明白だった。


 「なるほど、奴が宇宙を滅ぼす原因なんだな、無敵」

 「流石錦、理解が速いな。だが、奴は原因ではない。奴は宇宙を喰らう者……の先兵でしかないのだ」


 そう。この巨体を持つサメは、先兵だったのだ。

 先兵サメは無敵達をじっと見ており、余裕といった態度である。


 「なら……俺達は宇宙に行き、奴らの親玉を倒さなければならないということだな?」

 「その通り。実にシンプルなことだ」

 『GYAOOOOOOOO!!!!!!!!』


 無敵が指を鳴らすと、ビルが瞬く間に変形し、異形へと姿を変えた。

 これは、ゼロにより急速に進化を遂げた無敵軍団が、お互いに融合して生まれた怪物である。

 そして……


 「ほら。新しい宇宙から、新たな戦友が助けに来たぞ」


 先程無敵が放り投げた宇宙から、無数の軍団が現れた。

 ロボットや戦艦などの機械であったり、生物であったり、その姿は様々である。

 その一つのロボットから、快活そうな少年が、無敵達に手を振っていた。


 「彼らは……そうか、そうだったのか……俺達が生まれたのは……」

 「そうだ。だが、私は違うがな。しかし、やることは変わらん」

 『GYOOOOOO!!!』


 異形の羽で浮かび上がった、無敵軍団融合体。

 無敵達を乗せた彼らは、新宇宙から現れた軍団と共に、先兵サメに向かって突撃する。


 「ブッ殺してやるぜ、軟骨鮫野郎共!!!」


 全宇宙をかけた戦いが始まる……!!!




 完

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