不死身無敵VSゴリラ


 不死身ふじみ無敵むてきは、通学路を我が物顔で練り歩いていた!

 その横には、甘粕あまかすにしきを始めとした、学校のクラスメイト達である。


 「なあ無敵。最近、ここらに熊が出るらしいんだ」

 「熊ァ?」

 「それだけじゃない。犬、猫、ネズミ、猿、アライグマ……色んな動物が人を襲うって話だぜ」

 「ふゥン……」


 そう。彼らの住む町では最近、獣害が酷い。

 ニュースでは動物に襲われたという話が後をたたず、町を歩けば小動物の死骸が転がっていることも。


 しかし、無敵は興味無さげだ。

 彼女の無関心も、仕方ないことなのかもしれない。


 生存競争や食物連鎖など、自然のことわりを超越した無敵には、動物と人間の争いなど、児戯にも等しいことだった。

 ただ、無敵にはそれらを馬鹿にしているだとか、無意味と感じているだとかは一切ないことを断っておこう。


 あくまで無敵は、生存欲求全開の、原始的にも思える争いは大好きだった。

 生命の咆哮、そして輝き。それこそが、無敵の愛するものの1つなのだから。


 「あんま興味無さそうやな? ゾウもおるらしいから、多少は楽しめんのちゃうか?」

 「もう殺った」

 「えぇ……」

 「背骨の引っこ抜かれた象は無敵の仕業だったのか……」


 既に象という最強格の生物を殺害していた無敵。

 多少の小細工など踏み潰してしまう無敵には、パワーで押す相手が一番楽しめる。


 それの代表格と戦っており、あまつさえ勝利をおさめていたのなら、他に興味を無くすのもうなづける。


 「これじゃ、並の動物じゃダメそうだな」

 「もっと常識外の……むしろ生物じゃなくてもいいかな」

 「無敵の戦闘データが集まったら、ロボットの制作を検討……何だ!?」


 雑談しながら歩く一行。

 彼らは、何かに気づき、歩みを止めた。


 「これは……動物の死骸! それも大量に!」


 彼らの進むべき道は、辺り一面、死骸だらけだったのだ。

 犬、猫、ネズミは勿論、キリンやサイ、ゾウまでもが、安らかな死に顔で倒れ伏していた。


 「何て安らかな死に顔なんだ……あ?」


 彼らは気づいた。

 大量のむくろの先、道路に鎮座する影。


 弱肉強食の世界で鍛え上げられた、均整の取れた金『剛』力士もかくやという肉体。

 獣のように野性的だが、確かな知性と『理』性を感じさせる顔。

 それらを結びつけ、曼荼『羅』のような、仏の如き慈悲深さがにじみ出るその存在り方。


 これらから分かるその姿は、紛れもなく――


 『ゴリラだああああぁぁぁぁーっ!?』


 剛理羅ゴリラだった。

 その声に反応したのか、ゴリラは無敵達のいる方に顔を向けた。

 賢者のように鎮座し、無敵をじっと見つめる。


 「面白れェ……ッッッ!!!」


 無敵は何かを感じたのか、持ち前の凶悪な顔をさらに歪めた。




 ◇




 「ぶるぅああああぁぁぁぁーッッッ!!!」


 戦いの火蓋ひぶたは、おおよそ女子のするべきでない、セ〇みたいな雄叫びを上げた無敵によって切られた。


 地面へと叩きつけられた渾身こんしんの踏み込みは衝撃波と化し、アスファルトを粉砕しながらゴリラへ向かった。


 「ウホッ」


 しかし、ゴリラはその衝撃波を、一言のみで止めてみせた。


 「なにっ」


 そこそこ全力だった無敵は、たじろぐ。

 今までの人生で、強敵は山ほどいたが、これほどまで圧倒的な存在はいなかった。

 つまるところ、無敵は格上との交戦経験が不足していたのだ。


 「ウホ」

 「ぐおぅああああああああ!?」


 デコピン。その風圧のみで無敵は吹き飛ばされた。

 いくつもの高層ビルを貫通し、果ては山まで叩きつけられ、ようやく止まった。

 しかし、慈悲深きゴリラの奇跡で死者は一切出ていないし、建物なども元通りに修復された。


 「ウホ」

 「まさか……ゴリラがこれほどまでに強いとは……本気で行くかッッッ!!!」


 それでも一切のダメージを受けていない無敵は、ムクリと起き上がった。


 「うおおおおぉぉぉぉッッッ!!!」


 無敵が全身に力を込める。

 すると、どこからともなく莫大な『力』の奔流ほんりゅうが無敵を覆った。


 これは宇宙や時空間、果ては生物など様々な存在の中に流れる力。

 魔力、第二種永久機関、ゴッドパワー、気、ダークマター、畏れ、タキオン、ヴァジュラ……場所や時間によってい様々な名前で伝わるそれは、無限にも等しい根源的な力。宇宙ができる遥か前から存在する力。


 そんな力でさえ、無敵を傷つけるには至らなかった。

 逆に、『力』をパシリの如くこき使うことのできるようになったのだ。


 「行くぜッッッ!!! ダイナミック・エクスプロージョォォォォンッッッ!!!」


 地上に現れた太陽のような輝き。

 常人では一瞬で身体はおろか、魂まで焼き尽くされる超高圧縮エネルギーの中において、無敵は無傷だった。


 「死ねええええぇぇぇぇッッッ!!!」


 その究極ともいえる力を身にまとったまま……ゴリラへと特攻した。


 「ウホ……ウッホッ! ウッホッ! ウッホッ!! ウッホッ!!!」


 しかし、ゴリラはドラミングの際に発する特殊な波動を利用し、迎撃を試みた。

 無限の力を纏う無敵には、無限の力で対抗するのだ。


 「な、何ィィィィッッッ!?」


 数ある必殺技の中でも、突進に優れた技であるというのに、受け止められている。その事実に、無敵は驚愕した。


 「ウ……ホッッッ!!!」

 「ゴッッッ……」


 顎を、アッパーで打ち上げられる。

 それだけではとどまらず、無敵の身体は勢いよく宙に浮いた。


 「うおおおおああああぁぁぁぁ……」


 アッパーカットで空に打ち上げられた無敵は、ついに大気圏外に。

 そして……ついには太陽まで飛ばされた。


 「た、太陽だと!?」


 アッパーの衝撃で力が飛散した以前に、では、太陽から抜け出す推進力を持っていない。

 太陽によって傷つくことは一切無いが、とりあえず抜け出せないのだ。


 「何、この陣は……ゴリラの封印術か!?」


 太陽に『GORILLA』の紋章が浮かぶと、無敵は太陽に封印されてしまったのだった……


 「クソがッ!!! ……今回は私の負けにしといてやる。次会ったら……ブッ殺すッッッ!!!」


 ゴリラによって太陽に封印された無敵は、考えるのをやめた……訳ではなかった。

 太陽の消滅によって封印が解けるまで、宇宙が一巡し元の地球が出来上がるまで待つのだ。


 ――やがて、太陽が消滅した頃。地球も消滅していた。しかし、大多数の地球人は太陽系外に逃れており、その子孫がまだ暮らしている。

 だが、彼らはまだ争いをやめたわけではなかった。無敵は彼らが発する闘争の匂いを嗅ぎつけると、宇宙区間を超光速で遊泳した。


 何十億年、何百億年……無敵の年齢は闘争の歴史。争いある場所に無敵あり。

 不死身無敵の名は、宇宙消滅の時まで語り継がれるだろう――




 ◇




 ――どこかの惑星。

 超兵器での戦争によって荒れ果て、人の住めなくなった土地。

 そんな場所に、ゴリラが座っていた。


 「ウホ」


 ゴリラが一言。それだけで、大地に緑が芽生えたのだ。

 森の賢者と呼ばれるゴリラは、例え不毛の荒地であろうとジャングルを作り出すことができる。


 ……そして、神秘の力によって芽吹いた草花を、踏みにじりながら向かってくる者がいた。


 「こんなクソみたいな場所にいたのかぁ。テメェも暇だなぁ」


 凶悪な顔、長い黒髪、セーラー服。

 この人物こそは――


 「ウホ」

 「会いたかったぜぇ、ゴリラよ」


 不死身無敵VSゴリラ。

 その戦いは、宇宙が滅びるまで続く――!!!



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