アスコラク‐自殺する森‐

まるで文献から引用したような神話が描かれる冒頭から、これはただの異世界ファンタジーではないぞ、と思わせてくれます。
その期待通り、いわゆるテンプレもののラノベ異世界ファンタジーとは180度真逆の、重厚で緻密な筆致とストーリーをこれでもかと濃縮した中編は読み応え抜群。
いうなれば、ヘビーノベル。

首刈りの風習や呪詛など民俗学的テーマを掘り下げていて、特にシャーマニズムに興味のある方には突き刺さるストーリーです。
そして、作品のタイトルに秘められた謎解きに、ぜひチャレンジしてみて下さい。

神話からはじまり、彼の地に根付く人々の暮らしや風習を追いながら、その文化的背景を読み解き、歴史の影に隠れた大罪を探す話

いわゆる物語・ストーリーの合間に、文化人類学あるいは民俗学のレポートを挟んでいくような、独特な筆致でした。
ファンタジー世界の設定をこうも興味深く読ませてくるのは凄いの一言。
設定というのは創作者の熱量が高まるほど読みにくくなりがちですが、この作品ではファタンジー世界の野外調査に参加しているような、不思議な高揚感があります。
変な話、物語はいいからもっとレポートを読ませろと言いたくなるくらい。

とはいえ、もちろん物語の骨格もしっかりしていて、ぐいぐい暗部に接近していく主…続きを読む

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（75文字）

物言わぬ植物への畏れというか、得体の知れなさというか、そういうものを感じた作品でした。
自殺する森、という意味深なタイトルが、最後に回収されて心地いいです。
文化人類学の実話なんかもちょくちょく出てくるのですが、それがいいスパイスにもなっていました。
興味深い作品です。みなさんもぜひお読みください。

雨季に森が水没するほどの雨が降るガレート族の地では、雨季を終わらせるための戦争『ツベトクバナー』が毎年行われていた。
対立する部族民の首を狩る戦いは、何故か〈花の戦争〉とも呼ばれている。
かつて西の大国の植民地支配をうけ、搾取された地に残る風習は、大陸全土でひろく用いられる薬草の起源に関わっていた。

〈首刈り天使〉アスコラクは、イネイとフィラソフとともに調査に乗り出すーー

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アスコラク・シリーズの新作です。今回は標的不明のまま物語が進行し、終盤で明かされる真相に戦慄を覚えます。
文化人類学的な舞台背景に、歴史と気候変動、植物の生態までからんだ謎解きは、読み応えがありました。
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このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（286文字）