生きてさえいれば
青い炎が舞う。
「うをおおおお!」
大河は襲い掛かって来る根を体中に受けながら走った。根は焦げていて勢いがなかったのも功を奏したのかもしれない。
『馬鹿な! どこにそんな力があるというのだ!』
「人間をなめるな!!」
再び琥珀の目の前にまで行き、刀を突き立てようとする。おそらく、ボスの全ての力だろう。大河の足元から大量の音が飛び出してきて、がんじがらめにしようとする。大河は刀を振り、根を燃やしていく。既に焦げている根もあり斬ることは可能だが、次から次へと絡んできた。
「もう少しなのに……」
琥珀はすぐ目の前だ。しかし、身体が動かなくなってしまった。
「大河!」
「なに一人で突っ走ってんのや、仲間がいること忘れたんか?」
錬と豪志の声がすると、身体が動くようになった。後ろを振り向くと燃える武器を持った二人がいる。
「俺たちが周りの根を焼く」
「その間に大河は本丸を叩くんや!!」
「行くんだぷー!」
――大河は一人ではない。次々に根を切り裂いていく。
大河は緑怪のボスを睨みつけた。
『大河、やめろ、……やめろ!』
「親父……!」
緑怪のボスが言わせていることだ。大河は両手で構えた刀を琥珀に突き立てた。蜘蛛の巣のようにヒビが入る。
『ぎゃああああああ!』
「もういっちょ、おまけや!!」
豪志が放った燃料により、さらに青い炎が緑怪のボスを燃え上がらせる。大きな炎が明けて来た夜を青く染めた。
『生きてさえいれば、生きてさえいれば……、何とかなるんだ』
それは豪志や錬の眼には無駄なあがきの言葉に聞こえただろう。
しかし、その父親の声を聴きながら大河は長い眠りにつく前の日のことを思い出す。
大河の父親は食事の席で、珍しく口を開いた。
「大河、自分ではどうにも出来ない大きな困難が襲って来たらお前ならどうする」
「大きな困難? なんだそりゃ」
大河は箸を動かしながら気のない返事をする。
「命さえ、危うい状況だ。大河なら戦うか、逃げるか」
「命さえね。そんな状況、あんまり考えられないけど。逃げた方がいいだろ」
防衛大臣として、何かシミュレーションでもしているのだろうか。
「しかし、逃げ場など無いに等しい」
断言する父親の言葉に大河は眉を上げるも、それでも自分ならどうするだろうかと考える。
「……そうだな。それでもなんとか逃げて、反撃の機会を伺うのがいいんじゃないか? 生きていさえすれば、何とかなる。そう思うしかないだろ」
「そうか。大河、お前の意見が聞けてよかった」
そう言う父親の顔は晴れやかな顔をしていた。それを大河は不思議には思ったが特に気に留めることはなかった。
「親父」
煙が目に染みて、涙がにじむ。どうして、大河を最初に目覚めさせるようにしたのか分かった。生きていさえすれば、どうにかなる。そんな想いを大河に託したのだ。
大河は炎に祈りを込めて、刀を鞘に戻した。
炎は次第に燃やせるものが無くなり、小さくなっていく。もう、残っている緑怪はいなかった。今まで気付かなかったが、森の奥には人口的な塔が一つ建っている。
「司令塔を取り返しただぷー!!」
「俺たちやったで!!」
「大河さん、やりましたよ!」
仲間たちが歓声を上げた。よろける大河は何とか錬の肩に捕まって立つ。
人間たちの夜明けが来た。――反撃のときが始まる。
了
一章が終わった所で、完結になります。
ここまで読んでいただき、ありがとうごじます。
東京挽火 ―TOKYOBANKA― 白川ちさと @thisa-s
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