炎の海

「「をおおおおお!」」


 大河と豪志は力いっぱい地面を蹴って、青い炎をたなびかせて錬の元へ駆けて行く。


『そうはさせぬ』


 地中からつららのような太い根が生えて来た。


「さっそく来たで!!」


 豪志はベストから細長いボトルを取り出す。それを避けた根に投げつけた。


「燃やしたる!」


 炎のついた槍を素早く繰り出す。すると、簡単に炎は根に燃え移った。


『ぎゃああああ! 何をする!?』


 根がブンブンと炎を消そうと、振り回されるも消える気配はない。豪志は大きく大回りしながら、大声を張り上げた。


「特製の消えへん燃料や! どんどん行くで!」


 豪志は次々と生えて来た根を炎で燃やしていく。中にはボスではなく、緑怪の根もあったようで本体にも燃え移っていた。

 辺りはあっという間に青い火の海になる。

 炎の中を突進して、大河は錬の方へと近づく。


「錬!!」


「た、大河……」


 緑怪に樹液の中に沈められようとしているが、まだ顔を上げて抗っている。


「今助ける!」


 大河は錬を押さえつけている緑怪に斬りかかった。しかし、その前に木の根が大量に生えてくる。


『そうはさせぬ!』

「邪魔だ、どけぇえええ!!」


 大河はありったけのボトルを投げつけた。周りは炎で囲まれているので、あっという間に引火する。


『熱い! おい、火を消すんだ!!』


 ボスが地中からそう命令するも、緑怪たちは炎の中で苦しんでいた。錬を捕えていた緑怪も同様で、のたうち回っている。その間に回り込んでいた豪志が錬を樹液の中から引っ張り上げた。


「おい! 息をするんや、錬!!」


 錬は目を閉じて、何も言わない。


「錬! いま、心臓マッサージを」

「ごほっ、ごほごほ!」

「「錬!!」」


 錬は目を薄っすらと開けて、豪志の顔を見つめる。大河の方も振り返った。


「豪志、大河……」

「大丈夫か?! 脳の中を改造されたりしてへんか?!」

「う、うん。たぶん大丈夫」


 それを聞いて大河と豪志はホッと息をつく。しかし、それはつかの間のことだった。


 ズズズズズズ……


 燃える地面が大きく揺れる。


「来るか……!」

「錬は俺の後ろに隠れているんやで!」


 地面が割れる。炎が付いた根が這い上がって来る。


『貴様ら! 何という愚行を!!』


 青い炎に包まれた緑怪のボスが現れた。やはり根が巨大な琥珀を抱き、中には大河の父がいる。


「お前を倒す!」


 大河は刀を両手で構えた。ここで倒さなければ、シェルターの方に攻撃されてしまうだろう。


『愚かな。この男は貴様の父親だろう。それを傷つけようと言うのか』

「確かにな……。だけど、そうやっていつまでも道具のように扱われている方が哀れってもんだろう!!」


 大きくジャンプする大河。一気に詰め寄り、琥珀に向かって刀を振り下ろす。しかし、クロスされた根に阻まれた。


『道具!? 結構じゃないか! 我々高等生物の道具にされるのだから! それに、全く意志がないわけではない』

「なに!?」


 根の奥にいる大河の父が、顔を上げる。そして、大河の顔を見つめた。


「お、親父……」


 その顔はいつも見ていた威風堂々とした顔ではない。しょぼくれた弱弱しい中年の男性だった。


『た、大河』


 名前まで呼ばれて大河は完全に動きを止めた。その隙をついて尖った根が、大河の腹を刺す。


「大河!!」


 豪志が叫ぶ。大河は青い炎の中へ吹き飛ばされた。すぐに錬と豪志が駆け寄る。


「大河! 血が……」


 腹からはドクドクと血が流れ出ていた。


「どうすれば」

「すぐにシェルターに戻って来るぷー!」


 ぷーすけが叫ぶ声が大河の耳に届く。しかし、大河は上半身を起こす。


「あかん! 動いたら、もっと血がでるで!!」

「……親父を解放しないと」


 決して離さなかった刀。それを杖にして立ち上がる。


『フハハハハハ! この男はな! 最後の最後まで、愚かな人間どもを逃がそうとした。我々からは決して逃げられぬと言うのに! 哀れな男は、最後には捕まってこうして私の贄になった』

「……つまり、最後まで一番後ろで戦ったっちゅうことやないか」


 豪志がつぶやくのが聞こえた。大河の胸は火が付いたように熱くなる。


「親父がしんがりを務めたなら、俺が先陣を切る。お前たちから人間を解放させる!!」


 大河は刀を腰に構えて突進していく。

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