錬はその頃、一体の緑怪を倒すも捕まってしまった。武器は取り上げられ、今度は手首足首をツタに巻かれ、全く動けないようにして運ばれる。


『戻ってきたか、愚かなる人間よ』


 姿は見せずに地中から声だけがした。錬は顔を上げ、何もない地面を睨みつける。


「俺たちは愚かじゃない」

『だが、逃げ切れることなど出来ない。お前を贄にしたら、地中にうずくまっている者たちも引きずり出そう。どれ……』


 地中から根が盛り上がって来る。また檻を作ろうとしているのかと思った。だが、それは錬の前で何やら交差して籠のように編み上がっていく。根は人が一人収まるような小舟になった。


「船? こんな所で?」


 どこにも浮かべる場所もないし、緑怪が乗れそうな船ではない。


『これがお前の棺だ。準備をしろ』


 緑怪たちが近づいてくる。何をされるのかと、錬は目をつぶった。しかし、聞こえて来たのは緑怪の叫び声だ。


 ぐぎゃあああ……


 錬が目を開けると、目に前で緑怪がもう一体の緑怪を小舟の上で締め上げていた。


「な、なんで」


 締め上げられた緑怪は液体を小舟の中に滴り落としていた。


「樹液……。まさか」


 錬は赤星大臣の姿を思い出す。彼は琥珀の中に閉じ込められていた。琥珀は樹液が化石化した宝石だ。


『そう、光栄に思うが良い。美しい宝石となって、王に仕えられることが出来るのだから』


 しかし、その宝石を見るものはいない。ただの道具にさせられることは明白だった。






 大河と豪志は、準備を済ませて外へと続く階段を駆け上がる。整備された武器はもちろん、腰に道具の入ったポーチを巻き、ベストの中にも色々と仕込んでいた。


「行くぞ!」


 外に出るとまだ夜だ。数時間前に渡った堀の縁にまで走る。


「エンジンはついていないけど、小舟を用意しておいただぷー」


 堀の水辺にはさっきまでなかった船がある。そこにいたマシンがぺこりと頭を下げた。さっそく大河と豪志は乗って、オールで漕ぎだす。


「おっと、なんや急ごしらえの船やからか、不安定やな」

「豪志がちゃんと座ってないだけだろ」


 豪志は向こう側が気になるのか、身を乗り出していた。大河はちらりと横を見る。堀の向こうの空は白み始めていた。太陽が出ていないほうが、緑怪も活発ではない。急いだ方がいいだろう。


 向こう岸に渡ると、ぷーすけのナビで元来た道を辿る。慎重かつ迅速に進まなければならない。


「……緑怪、出て来いひんな」

「確かに」


 逃げ出した大河と豪志を探していたり、見張っていたりしているかと思っていた。だが、全く緑怪の影すら見えない。すんなりと、緑怪のボスがいた平地の手前まで来た。


「豪志、ボスの姿が見えても見えなくても最初から突っ込むぞ」

「なんでや。慎重に錬を助ける策を練った方がええんちゃう?」


 しかし、大河は首を振る。


「緑怪は耳がいい。しかも、ボスは頭が切れる。俺たちの存在に気づいていて、わざと泳がされているということもあるだろう」

「なるほど。せやな。一気に行く方が俺らしいからええで!」

「よし。じゃあ、行こう」

「行くだぷー!」


 大河と豪志は武器を握りしめ、一気に駆けて行く。

 大きく開けた場所に来ると、大河と豪志は大きな木の根に身を潜める。なにか、ギシギシときしむような音が聞こえてくる。しかし、辺りはまだ暗く良く見えない。


「何が起きているんや」

「いま、赤外線カメラを映し出すぷー」


 白黒の視界に切り替わる。そこで目にしたものは、緑怪が他の緑怪を締め上げている姿だった。


「何や、こりゃ!?」

「共食い? いや……」


 液体を絞り出しているように見える。そこには手足を縛られている錬もいた。


「錬を樹液で固めてしまうつもりだぷー!!」

「なんやて!?」


 そう言っている間に、捕まっていた錬が樹液の中に放り込まれた。


「「錬!!」」


 大河と豪志は武器に炎を灯して飛び出した。

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