逃走
「よっしゃ! これで逃げられるやん! なんや、早う言えばええのに」
「しっ! 豪志、緑怪は耳が良いんだぞ」
錬にツタを切られている間、大河は神経をとがらせていた。バレれば錬のジャックナイフも取り上げられ、またツタで捕らえられてしまう。
「よし」
大河のツタを切ると、ぐっと押し殺した声で錬はつぶやく。
「武器を取り戻したら、ぷーすけ。ナビゲートは出来るな」
「もちろん最短距離を案内するだぷー。でも、足元が見えないから転ばないように気を付けるだぷー」
拡張現実のぷーすけが現れた。今まで、逃走ルートを考えていたのだろう。武器はすぐそこに投げ捨てられている。それを手にして追いかけて来る緑怪を牽制しながら逃げるしかない。しんがりは自分が務めようと、大河は考えていた。
「いい? 根を切るよ」
錬が根の檻を正面にして振り返る。大河も豪志も神妙に頷いた。
青い炎が灯されたジャックナイフがごぼうぐらいの太さの根に近づき、二か所切る。
「よし。これで通れそうだ」
まずは錬が檻の外に出た。大河と豪志も続いて檻を出た、そのときだ。
地響きのような声が地面から響く。
『贄が逃げたぞ! 兵士たちよ、再び捕えよ!』
緑怪のボスの声だ。根を切られたことで察知したのかもしれない。
「走るんや!」「武器を早く!」
大河と豪志は素早く武器に駆け寄る。そうしている間にも森の間から緑怪が出て来ていた。
「錬!」
大河は鎌を錬に差し出す。取り落としそうになりながら、何とか柄を握り込んだ。そして、ぐっと前を向く。
「こっちだぷー! こっちがシェルターへの最短ルートだぷー!」
ぷーすけが指さす方向には運よく緑怪がいなかった。後方の緑怪に向けて豪志が槍を構える。
「よっしゃ! 俺がしんがりを守るから、二人さっさと行くんや!」
「何言っているんだ! 俺がリーダーだ! 俺が後ろで守る!」
「なんでもいいぷー! 早く走るのだぷー!」
ぷーすけの言う通り、移動しなければ緑怪は地中に根を這わせる。足を取られたら一貫の終わりだ。
三人は暗い森の中へと入っていく。
逃げ道もやはり大木の根が隆起していて、思ったようには進めない。
「がんばるぷー!」
先を行くぷーすけが激励を飛ばす。三人はすでに肩で息をしていた。後ろからは緑怪たちがじりじりと近づいてくる。ただ、暗闇が返って功を奏した。あまり目がいいわけではないらしく、大河たちの姿を見失っている。それに邪魔な大木があると緑怪たちは地中に根を這わすことは出来ないようだ。
「おりゃ!」
豪志が石を右の方に投げて、木にぶつける。その音に反応して、緑怪たちはそちらへと向かっていった。
「よし。なんとか切り抜けられそうだ」
大河は小声でつぶやく。しかし、上手く行ったのはここまでだった。
ぎしゃあああ!
辺りが良く見えないのは大河たちも同じで、目の前の暗闇から緑怪が二体現れた。
「くそ! 二体くらいなら何とかいけるやろ!」
豪志が槍を構える。
「ダメだ! 戦ったら捕まる!! 回り込んで走り抜けるんだ!」
大河は止まらずに横にそれた。
「くそったれ!」
豪志もそれに続く。しかし、錬は緑怪の方を向いたまま立ち止まった。
「錬!?」
鎌に青い炎を灯して構える錬。そして、大河と豪志の二人との間に液体を撒いた。
「なんや? うをッ!」
錬が鎌を振るうと、青い炎が二人との間に燃え上がる。
「錬。まさか……」
「言ったよね。今度は俺が助けるって」
錬は真っ直ぐ近づいてくる緑怪の方を向いていた。
「犠牲になるつもりなんか!? そんなん、許さへんで!!」
しかし、錬との間にある炎の壁は簡単には飛び越えられそうにない。燃え上がる炎の向こうで、錬が戦っている気配がする。
「……豪志、行こう。ぷーすけ、こっちだな」
「なんや!! 仲間ちゃうんかいな!?」
大河は豪志の腕を引く。
「行くぞ!! ここで他の緑怪が来たら全滅だ!」
「……っ!」
「こっちだぷー。急ぐのだぷー」
ぷーすけの案内で、大河と豪志は再び走り出した。
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