二人の過去
どこからともなく、ぐぅうーと腹の音が鳴る。
「腹減ったなぁ。もう何時間も何も口にしてへんやん」
大河たちが捕えられて、数時間。
「……星がよく見える。東京なのに」
錬が空を見上げてぽつりと言う。つられて大河と豪志も夜空を見上げる。満点の星空が広がっていた。満月が浮かんでいるが、それでもなお星は光を放っている。
「夜は外に出えへんかったからな。って、星を見ている場合なんか?」
豪志はそう言うが、脱出する手立てはない。根に囲まれている上に、ツタが身体に巻き付いている。武器は見える場所に放置されているが、その周りには緑怪が眠っていた。どうやら夜は活動が鈍くなるらしい。とはいえ、真っ暗闇の森の中を逃げ切れるとは思えない。しかし――。
「逃げる手立てを考える。何とか二人だけでも」
大河は緑怪を少しでも知ろうとよく観察していた。逃げるなら活動が鈍る夜の間だろう。緑怪のボスもいない。
「……さすがは
褒めているようでいて、その言い方には棘があった。しかも、ニュースで知っているという風でもない。
「親父を知っているのか?」
「知っているも何も、俺をシェルターにぶち込んだ張本人や」
憎々し気に言う豪志はとても感謝している様子ではない。
「俺は本来なら地元に戻って、人を襲っている緑怪と戦うつもりだったんや。緑怪の討伐隊みたいやのも各地に作られていたんやで。せやのに、あのおっちゃんが君のような人間は後世の人を守って欲しい言うて、嫌がる俺を無理やり眠らせたんや」
「……そうだったのか」
当時がどうだったのかは知らないが、父親ならやりかねないことだと思う。
「まぁ、今更恨んでもおらんわ。……どちらにしろ、討伐隊も何もかも、人類は破れてこないな有様なんやから」
豪志は夜空を見上げる。だから戦いに赴こうとしていたのだろうか。
大河は錬をちらりと見る。
「錬は? 錬はどうして、戦う契約をしたんだ?」
とても戦える性格ではないのに――。
「……俺、実は病気だった」
錬が大河たちを見ずに話し始めた。
「病気?」
「髪が白いの。染めたんじゃなくて、病気で白くなったんだ」
大河と豪志は目を丸くする。髪が白くなる病気など、大病であることは間違いない。
「え! 大丈夫なんか!?」
「うん。完治したけど、それとほぼ同時に緑怪が本格的に暴れ出した」
「それは……」
不運としか言いようがなかった。でも、それがどうしてシェルターの中でも真っ先に目覚めて戦うことになるのだろうか。
「病気が治ったのにすぐに緑怪に襲われるなんてって憐れんだ親がシェルターに入れようとした。物資を何とか工面したけれど、そんなに多くない。本当なら入れなかった。けれど、交換条件として、何かあったら目覚める契約を結んだんだ」
親が勝手に契約した。最初の日に錬が言っていたその言葉を大河は思い出す。
「なんや、ぷーすけの言う通り、契約なんて無視してよかったんちゃう?」
確かに錬はとても好戦的な性格ではない。
「……でも、俺は感謝している」
錬は大河の方を向いた。
「病気でずっと入院していて、外を走ることも出来なかった。俺、ずっと外に出て、広い世界に出たかったんだ。それが、三百五十年後でも嬉しかった」
「な、なんや。もうこれで終いな雰囲気で……」
しかし豪志は口をつぐむ。いまは正しく逃げ場もなく、緑怪に贄にされようとしている。
「大河、ありがとう。最初に戦ったとき、助けてくれて。言えずにいたんだ」
「いや、仲間なんだから当たり前だろう」
「……うん。そうだよな。だから、今度は二人を俺が助けるよ」
錬は立ち上がる。すると、腕に巻かれていたツタがパラパラと落ちて行く。
「な、なんで」
大河たちを縛るツタはビクともしないと言うのに。
「小さいけれど、ナイフを隠し持っていたんだ」
錬の手にはジャックナイフが青い炎を灯していた。
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