緑怪のボス
いつの間にか雨が止んでいる。緑怪にぬかるんだ道なき道を引きずられながら、大河は横を歩く豪志に話しかける。
「なあ、これってどういうことだと思う?」
「どうって? なんのこっちゃ」
話していてもやめろと何かされるわけではない。遠慮なく話をする。
「どこかに連れていかれるということは、緑怪は誰かが統率しているってことじゃないか? これって明らかに誰かに命令されてしているだろう」
よく考えてみたら兵隊がいるということは、指揮官がいるということだ。連れて行く先はその指揮官の元なのだろうか。
「せやな。レベル的に言って中ボスが出てくる辺りなんちゃう?」
豪志がゲームのように言うが、笑えない冗談だった。その可能性は高い。
「やっぱり、……わっ!」
いきなり泥の地面に降ろされた。
「ここは……」
樹木の無い、少し開けた場所だった。ツタが三人の頭を押さえつけて、ぬかるんだ地面に伏せさせられる。
「おい! もっと丁寧に扱えや!」
豪志が叫ぶが、話が通じていないのかも分からない。緑怪たちはじっと何もない前を見つめていた。
「どうやら、ここがゴール地点みたいだぷー。逃げやすそうな脱出ルートを考えておくだぷー」
ぷーすけがそう言うが、果たして逃げ出す隙が出来るだろうか。
「……地震?」
錬が言う通り、地面が微かに揺れ始めた。気が付くと、背後にいる緑怪が恭しく頭を下げている。
「こりゃ、ほんまに中ボスが出てくるんちゃう?」
目の前の地面が盛り上がっていく。ひび割れていく地面からいって、かなり巨大だ。大河たちは何も言葉が出てこない。そいつは緑怪であって、緑色ではなかった。茶色い根が何本も絡みついて一本の大木を形成している。その中央には琥珀色の巨大な宝石がはめ込まれていた。
そこには十字の影が見える。眼を凝らして、その人影の正体を見極めようとした。
「まさか」
大河は瞠目した。琥珀の宝石に閉じ込められたそこには、スーツ姿の男性が手を広げて固まっていた。それは大河のよく知る人物だ。
「親父……」
彫りの深いその顔、太い眉。大河の父親に間違いなかった。
「なんやて、大河の父ちゃん? ……あの、おっちゃん」
「……赤星大臣だ」
豪志も錬も見覚えがあるはずだ。大河の父親は国会議員であり、当時防衛大臣を任されていた。
それがなぜ、こんな形で再会すると思うだろうか。大河の父親の下にある根が口のように動く。
『愚かな人間たちよ。よくここまで来たな』
「この声、親父の声」
言っていることは緑怪の言葉だろうが、その声は間違いなく大河の父親の声だった。
『この人間を知っているのか。この人間は私の器官の一部に過ぎない』
「何を言って」
『我々は人間よりも高等な生物に進化した。この者はその昔、私の贄になったのだ。そして、私の一部となり、働いている』
根がうごめき、大河の父親のあごを撫でる。
『人間どもは狩りつくしてしまったが、生き残りがいたとはな。お前たちも、贄になってもらう』
「な、なんやて?」
『私の臣下の一部となるのだ。喜ぶがよい。王である私に仕えるものとなるのだ』
「い、嫌だ」
錬は震えている。当たり前だ。しかし、逃げる手立てがない。
『愚かな人間よ。例え逃げても無駄だ。お前たちのアジトは既に調べがついている』
「な……」
まさかと大河は思った。もし逃げてもアジト、シェルターに手を出されたらどうしようもない。
『地下にいるだろう。我々は木々に紛れる。ぬかったな。地下など根を這わせていけば、いずれたどり着く。まぁ、まさか愚かにも自らやって来るとは思いもしなかったが』
ぐっと下唇を噛み締める大河。
『贄にするには準備がいる。かごの中で待つが良い』
三人の周りの地面から根が何本も出て来て、鳥かごのように囲む。いつの間にか、後ろの緑怪からツタは切り離されていた。
「くそっ! ここから出すんや!」
豪志が体当たりをする。しかし、細い根に見えるそれはビクともしない。
『待つが良い。贄たちよ』
緑怪のボスは再び地面の中に潜っていった。
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