偵察

 外に出ると予想以上の大雨だった。偵察ということで、見つからないように迷彩柄の雨合羽を着ている。大粒の雨が顔に当たって目に入る。眼を細めながら、大河はそこを見つめた。


「桜田門に続く橋はギリギリ通れそうだな」


 橋は堀に一応かかっていた。途中崩れて荒れているが、問題なく通れるだろう。桜田門の方も門としての形はほとんど残っていない。堀の向こう側はこちらよりも大きな樹木が茂っていた。


「なんで、皇居があないな大森林になっとるんや?」


 豪志の言う通り、門だけではない。奥に行けば行くほど大木がそびえ立っているように見えた。


「もともと、ここは東京にしては自然が多かっただぷー。だからだと思うぷー」


 ぷーすけは濡れもしないというのに傘をさしている。


「でも、なんでそんなとこを司令塔に選んだんだ?」

「ここ以外でもどこでも木が茂っているだぷー。ビルの近くだと崩れたりして、かえって危ないのだぷー」


 つまり、周りにビルがない方が危険がないと判断したということだ。しかし、それを緑怪に取られてしまった。


「みんな、あちらに行ったら緑怪がどこに潜んでいるか分からないぷー。慎重に行くのだぷー」


 大河たちはなるべく足音を立てないように、橋へと進む。





 大木の根を越えるのにも一苦労だ。しかも雨で足元が滑るので、かなりゆっくりと進むしかない。


「はぁはぁ。……緑怪出てこないね」


 錬が膝に手をつき、俯いたまま言う。大河も辺りを見回した。辺りは道も消えてしまっていて、大木が陣地を奪おうと根を伸ばしている。だいぶ奥まで入って来たが――。


「そうだな。不思議と出てこない」

「なんや。雨だと出てこないんちゃうか?」

「雨は関係ないと思うだぷー」


 ぷーすけはそう言うが緑怪の影も形も見えない。


「なあ、皇居って元々は江戸城だったって聞いたことあるんやけど」


 豪志の言うことに「ああ」と頷く大河。しかし、それがどうしたのだろうか。


「城やから堀があるわけやん。他にはどんな特徴があるんや?」

「俺も詳しくは知らないけれど、城だから攻め込みにくいようになっているんじゃないのか?」

「つまり今って籠城しているってことなんやないの?」

「それは……」


 そう言われて気づいた。

 ――敵が出てこないのは、城の中で待ち構えているからじゃないのか。


「……しまった。引き返そう!」


 しかし大河の判断は一瞬遅かった。


「ぐはっ!」


 突如、目の前の錬の頭に石つぶてがぶつかる。


「錬!」


 石が来た方向を振り返ると、そこには三体の緑怪が崩れた石垣の上に並んでいた。その一体が口の中から何かを吐く。


「種だぷー! 避けるだぷー!」

「言われなくても避けとるわ!」


 豪志は後ろに飛びのいて、種を避ける。地面に刺さった種は茶色く石のようにゴツゴツしていた。錬は頭から血を流して倒れている。大河は錬を引きずって、樹の影に引っ張った。かばった腕に種が当たる。


「錬! 大丈夫か」

「う。くらくらするけど……なんとか。でも、どうしよう」


 話している間も、種が大木に当たっている音がした。


「ずっとこうしている訳にもいかんやろ。……俺が囮になって反対側に走る。その間に二人はシェルターに帰るんや」

「豪志! それはダメだ!」


 大河は走ろうとする豪志の腕を掴む。


「なんや! このままじゃ全滅やんか! これ以外に方法はない!」

「いいや! 俺がリーダーだ! 勝手なことは許さない!」

「言い争っている間に緑怪が来ただぷー!!」


 ぷーすけの叫びに、大河は刀を抜き、豪志は槍に炎を灯す。しかし、雨の中、炎の勢いはあまりにも弱い。


「く、来るなっ!」


 それは錬も同じだった。ちょろ火の鎌を振り回すが、緑怪は怯むことなくツタを伸ばしてくる。大河たちはなんとか、ツタを斬り走りだそうとする。

 しかし、錬がツタに捕まった。腕ごと身体にツタが何重にも縛っている。


「錬!」

「く、食われる……」


 ぎゅっと目をつぶる錬。口に近づけていくが、緑怪は口を開けない。


「なんだ? わっ!」


 大河も豪志も緑怪のツタに足を釣り上げられ、捕まってしまった。やはり、緑怪は口を開けようとはしない。


「な、何が起こっているんだぷー……」


 映像だけのぷーすけはもちろん何もすることが出来ない。


「くそ! 離すんや!!」


 そのまま、三人は森の奥へと連れられて行く。

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