すぐ隣
眠っていた部屋に戻ると改装されていた。ベッドや机など簡易的な家具が置かれている。壁には刀も掛けられていた。
大河はベッドに飛び込んで、目をつぶる。どっと疲労が襲って来た。肉体的によりも、精神的な緊張がやっと切れた感じだ。連続で畳みかけて来る過酷な状況を飲み込むのに必死だった。
「……確認しないと」
しかし、そのまま眠ることは出来ない。
大河は立ち上がって、ドアに向かう。自動ドアが開くと、そこに錬が立っていた。
「どうした?」
聞くと錬は視線をさ迷わせる。
「あ、いや……。その……」
「二人でどうしたんだぷー?」
そこへ、台座に乗ったぷーすけがやって来た。ちょうどいい。
「ぷーすけ、他の人がコールドスリープしているところに連れて行って欲しい」
「分かったぷー。そう言うんじゃないかと思っていたぷー」
ぷーすけはカラカラと台座の音を鳴らして、奥に進んでいく。大河がそちらに行くと、錬も付いてきた。
「ここだぷー」
一つの部屋の前でぷーすけが止まる。ぷーすけから青い光が出て、認証機械を操作した。分厚いドアがゆっくりと開く。
「さむ……」
漏れ出てきた冷気に錬が腕をさすった。確かに寒い。床にも霜が張っている。それをパリパリと踏みつけながら大河は進んだ。そこには大河たちが眠っていたコールドスリープ装置の筒状のものが立てられて並んでいる。
「いた、
すぐに見つかった。そのコールドスリープ装置には、髪の長い女の子が目を閉じて眠っている。
「……だれ?」
「俺の妹」
大河は錬の質問に簡潔に答えた。中学生の妹だ。頭もよく、両親からの期待も大きかった。自分が未来に送られたのに、蒼が来ていないはずがない。
「こいつの未来を守れってことか」
父親のことだ。きっと、そういうことだろう。だから、大河が戦うように契約して眠りにつかせた。
――大河の意志は聞かずに。
「……№2」
錬は蒼の眠る装置の下のナンバーを見て、あまりに数字が小さいことに驚いていた。その隣は装置がない。きっと、大河の眠っていた装置がそこにあったのだろう。つまり大河はここにいる誰よりも早く、眠りについたのだ。
次の日。各々朝食を食べて談話室に集まると、大河は一番に口を開いた。
「ぷーすけ、占拠された司令塔ってどこにあるんだ」
司令塔を取り戻すためにも、状況を詳しく知っておく必要がある。
「ここだぷー」
大画面に地図を表示させた。大河たちが生きていた時代の地図なので正確だ。永田町と書かれている場所が国会議事堂が上に立っているシェルターがある場所。そのすぐ東の場所をぷーすけは指さした。
「えらい近いやん! って、あれ? ここって……」
「皇居だ」
国会議事堂のすぐ隣で、周りにお堀がある地形は間違いない。
「そんな場所に司令塔を建てたのか」
「もう誰も住んでいないぷー。でもシェルターに近い場所だから、すごく困っているのだぷー」
全く悪びれた様子もなく、ぷーすけは言う。
「この中には三十体ぐらいの緑怪がいることを確認しているだぷー」
「なんや。広さの割に少ないやんか」
「でも、統率されているんだぷー」
ぷーすけはしょぼんと肩を落とした。
「統率って、緑怪同士はテレパシーでも使えるのか?」
「そんなこと出来ないぷー。ちゃんと口伝えだぷー。統率といったら、定期的に見回りをして、異常があればすぐに仲間を呼ぶのだぷー」
「兵隊と一緒か」
大河はあごに手を当てて考える。
「……皇居とは反対側、西側はまだ安全なんだよな」
「そうだぷー。だから、三人を向かわせただぷー」
「なら、まずはそっち側で訓練をしよう。そこでいろんな戦いを試すんだ」
大河にはそれを提案することしか出来なかった。
「せやな。まずは一対三で問題なく勝てるようになるのがええかもしれん」
豪志も頷いてくれる。そのとき、錬がぼそりと言う。
「……連携できるようになったらいいかも」
「連携か。かっこええやん。なんなら必殺技も考えとこか」
大河は目覚めたのが、この三人で良かったと思う。圧倒的な力を見たのに、誰も逃げ出さずに明るく接してくれる。
「演習開始だぷー!」
ぷーすけの声で、三人は立ち上がった。
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