緑怪という化け物

「はぁはぁ……」


 苦い勝利だった。大河は青い炎をまだ燃やしている刀を拾って、鞘に納める。


「大丈夫か、豪志」

「ああ。ありがとさん」


 手を伸ばすと、その手に掴まって豪志はなんとか立ち上がった。錬は鎌の炎を収めて、そわそわと周りをうかがっている。


「大丈夫だぷー。この辺りにいるのは、倒した一体だけだぷー」


 ぷーすけがそう言うが、安心はできなかった。緑怪と同じ緑の木々に囲まれているせいかもしれない。


「ほな、シェルターに戻ろうや」

「大丈夫か、豪志。回復してからの方がいいんじゃないか」


 豪志は槍を杖にして、フラフラしている。


「そないなことしていて、緑怪が来たらもうお終いや」

「大丈夫だぷー。行きは階段を登らないといけないけれど、ここなら帰りはすぐに帰れるぷー。こっちだぷー」


 拡張現実のぷーすけが案内する。その後をついて森のさらに奥に行く。


「ここだぷー」

「何もないけど?」


 そう言った瞬間、ガコッと地面が持ち上がった。そこからクラゲ型のマシンが出てくる。


「ここはぷーすけたちマシンの出入り口になっているんだぷー。さあ、この下に座るのだぷー」

「エレベーターになっているんやな。助かったやん」


 豪志はすぐさまその奥に座り込む。錬も黙って座るので、大河も前に座った。


「全員座ったぷー。では行くのだぷー」


 ぷーすけの号令でガコンと床が斜めになる。


「「「え……」」」


 嫌な予感が襲った。これは、エレベーターなんかではなく――。


「ぎゃああああ!」


 豪志が叫びだしたのと、大河がだしたのはほぼ同時だった。かなり急角度の斜面で、灯りなどなく真っ暗闇の中を急降下していく。


「ぎゃ!」「うぐ!」「ぐはっ」


 三人はあっという間にシェルターにたどり着き、クッションの上に重なるように落ちた。


「だ、大丈夫か……?」


 一番下にいる大河が上の二人に尋ねる。


「なんとか生きているで……」「……うん」





 豪志の打撲が一番ひどい怪我だったが、大河も錬も顔や手に擦り傷をたくさん作っていた。介助マシンに手当をされて、談話室に集まる。大画面に映ったぷーすけがアップになった。


「やっただぷー! 最初の戦いで見事勝利を収めただぷー!」


 しかし、ぷーすけ以外は一様に暗い表情を浮かべていた。


「みんな、どうしたんだぷー?」

「……そら、暗くもなるわ。敵の力は圧倒的やったやんか。俺、一度の攻撃で動けへんようになったし」

「でも、戦闘マシンが向かっていっても、三体は動けなくなるぷー」


 それならば、今回は運がよかったということだ。


「……作戦、考えた方がいいかも」


 そう言ったのは意外にも錬だった。錬はもう戦いに出たくないのではないかと、大河は思っていた。だが、確かに作戦は必要だと思う。三人居ればやれることは多いだろう。そのためには――。


「なあ、緑怪って結局何なんだ。奴らを良く知らないと作戦も立てられないと思うんだ」

「せや。気になっとったんや。俺らが眠りについたときより、強くなってへんか?」

「豪志の言う通り、緑怪はこの三百五十年で進化しただぷー。元はもっと弱かっただぷー」


 画面に緑怪の姿が映し出される。それはまだ小さく、子供ぐらいの大きさだった。大きな口もなく、茂みにツタのような足が生えているような形だ。


「昔はこんな姿だったよね」

「せやな」

「これが初期の姿だぷー。元々、緑怪はこんな姿で世界各地に突如現れたのが最初だぷー。原因は昔は宇宙からの侵略とか色々諸説言われていたけれど、結局は分かっていないだぷー」


 画面が切り替わり、現在の戦った姿の緑怪が現れる。


「大河たちが戦ったのは、進化した緑怪だぷー。この辺りはこんな姿の緑怪が多いのだけれど、場所によって姿形をかえるのだぷー」


 つまり進化の過程で、枝分かれしていったということだろう。


「この辺りのやつの特徴を教えてくれ」

「この緑怪は耳がいいんだぷー。遠く離れた場所でも、音を察知するのだぷー。……先に教えておくべきだったぷー」


 しゅんと縮こまるぷーすけ。


「だけど、五メートルは離れていたよな。しかも、音を立てないように気を付けてもいた。それでも気づかれたんだ。耳がいいと聞いていただけじゃ用心しきれなかったさ」

「せやな。ぷーすけのせいやないで」


 豪志も腕を組んで、うんうんと頷いている。


「じゃあ、おさらいだぷー」


 ぷーすけは手で緑怪の画像を指さす。


「この緑怪の特徴は耳がいいことだぷー。そして、根を張り、緑怪を中心に五メートルは自在に地中を潜ることが出来るだぷー。ツタの触手を自在に伸ばしてくるだぷー」

「それに見た目よりも素早い」


 大河は情報を足しておいた。はぁとため息が出る。これでは、とても勝てる気がしない。相手が一体とは限らないのだ。


「……でも、炎は効いた」


 錬がつぶやく。思い返せば錬が振り回した炎には近寄ろうとしなかったし、止めは炎の刀であっけなく燃えた。


「そういえば、口の部分は意外と簡単に刃が通ったな」


 大河が根を斬るよりも、頭である大きな口はそれほど硬くはなかった。


「弱点は頭やな。じゃあ、リーダー。作戦をいくつか立てておいてくれや」

「お、俺?」


 豪志は大河を見ている。


「なんで、俺がリーダーなんだ? 豪志の方が年上だし……」

「いや、俺は頭に血が登る癖があるんや。だから、混戦になったら冷静な判断ができへん。それに最後に止めを刺したのは、大河だったやん。それとも錬がリーダーになるんか?」


 豪志がそう言うと、錬は激しく首を横に振った。


「大丈夫だぷー。ぷーすけが付いているだぷー!」

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