最初の戦い
ツタや木を伝って屋根に登れそうだが、止めておいた。落ちたら怪我では済まないからだ。
「さて、この後どうするんや? まさか、この建物見学して終わりやないやろ」
「じゃあ演習として、倒しやすそうな緑怪と戦ってみるのだぷー」
よっしゃ!と豪志は拳を握るが、大河はごくりと生唾を飲み込んだ。自分が果たして、あの化け物相手に戦えるのだろうか。それに――。
「大丈夫か?」
錬は明らかに震えていた。シェルター出て来てから、ずっと震えていたがそれが一層強くなっている。
「……大丈夫。俺も走れるから」
走るだけでは緑怪とは戦えない。けれど、最初は離れた場所にいてもいいだろう。そう思って大河は止めはしなかった。
「どうやら、ここから西に行った所に一匹だけでうろついている緑怪がいるだぷー。それに挑むのだぷー」
「行こう」
一匹だけなら、炎が出る武器もあるし楽勝だろう。しかし、その考えが甘かったことをすぐに知ることになる。
ぷーすけの案内で、再び森の中を進む。壁だっただろう瓦礫を越えたので、国会議事堂の敷地からは出ているはずだ。
「この辺りだぷー。いま偵察マシンが後をつけているだぷー。地図を展開するだぷー。緑怪はちゃんとマークしておいただぷー」
視界の左下に地図が現れる。地図と言っても、点がいくつかあるだけだ。赤と黄色と白の点が三つ集まっている。大河と豪志と錬のことだろう。その斜め上の少し離れた所に緑の点が一つ。緑怪に違いない。
「どうする?」
「せやな。せっかく場所も分かるんやし、三方向から一気に叩けばいいんやないか?」
つまり少し離れた場所から気配を消して緑怪に近づき、同時攻撃をするのだ。
「それがいいかもな。よし、俺は右から」
「じゃあ、僕は左から行くよ」
大河たちはそれぞれの持ち場に走っていく。三人の位置は地図で一目瞭然。各々、緑怪が確認できるギリギリの位置についた。
「じゃあ、3・2・1で襲い掛かろう」
「ええで。3」
「2」
大河が豪志に合わせてカウントをしたときだ。
「わあああああああッ!」
錬の叫び声だ。声の方を振り向いてみても、木々が邪魔して見えない。それに地図上の緑の点も白の点も接近していなかった。大河はともかく錬の元に走る。豪志よりも近いのだから、助けられるのは大河しかいない。
「何が起こったんだ、ぷーすけ!」
「接近を緑怪に気づかれたんだぷー!」
「いや、それより何が起きているんだ!」
もう一度地図を見ても、やはり錬は緑怪に手の届く範囲には接近してはいない。なのに、どうして――。
「きっと地面の下を根を張って来たんだぷー!」
ぷーすけの言葉の意味がすぐに分かった。
「く、苦し……」
空中に浮いている錬は苦悶の表情を浮かべている。首を絞めあげられ、武器である鎌を落としていた。絞めているのは、緑怪の触手のような茶色い根っこだ。
「錬!!」
迷っている暇などない。大河は刀を抜く。燃え上がった炎で硬い根に斬りつける。わらとは違い、簡単には斬れない。
「このッ!」
二度、三度と力を込めて斬りつけると、何とか切断することが出来た。
「ごほ、ごほごほ……」
「大丈夫か、錬!」
地面に落下した錬の首から締め付けていた根を引きちぎる。涙目になって首を押さえる錬。間一髪助けられたようだ。
「危ないのだぷー! 後ろだぷー!」
ぷーすけの叫び声に大河は後ろを振り返る。そこには、よだれが垂れる大口があった。
「っ!」
右手には燃える刀がある。しかし、恐怖に身体が硬直して、刀で斬りつけようだなんて思考は出てこない。
――やられる。
しかし、その大口がピタリと止まった。
「うおおおおッ!」
後ろから豪志が燃える槍を構えて走って来たのだ。その声に気づいたように緑怪は背後を振り返り、繰り出された槍をすいと避けた。
「何やて!?」
豪志の攻撃は決して遅いものではない。それでも、素早く横にスライドして槍を避け、続けざまにツルのような手を豪志にぶつけて来た。鞭のようにしなる、ツルが豪志の腹を直撃する。
「ぐはっ!」
豪志は吹き飛ばされ、後ろの樹木に激突した。
「な、なんだよ。これ……」
たった一体の緑怪に簡単にやられてしまった。緑怪がこちらを振り返り、また口を開ける。その口には鋭い牙がぎっしりと生えていた。
「戦うんだぷー!!」
ぷーすけが叫ぶ。
「もう三人はこの緑怪に補足されてしまったぷー! さっき錬が捕まったぷー。緑怪は半径五メートルは根を既に這わせているだぷー。逃げることは不可能だぷー!」
逃げられない。その言葉が効いたのかもしれない。
錬が膝をついて立ちあがり、鎌を手にする。
「うわあああああ!」
めちゃくちゃな攻撃だった。炎を燃え上がらせて、右に左に鎌を振るう。しかし、それが功を奏したようだ。
「炎に怯んだぷー! 総攻撃するんだぷー!」
「わかった、うわッ!」
大河も刀を片手に緑怪に近づこうとする。しかし、根が大河の足を捕えていた。前のめりに転ぶ大河。これでは格好がつかない。地面の土を握りしめる。
「くそっ!」
錬の体力もそれほど長く続くとは思えない。足に絡みついた根を炎で焼き斬る。
「うをぉぉおおお!」
大河は低い姿勢のまま、緑怪に突撃していった。剣道をしていたとか、斬りつけるとか。そんな考えは浮かばなかった。ただ炎の塊を押し付けるように、口の中に刀を押し込んだ。最後には手まで離してしまう。
ぐぎゃあああああ!
緑怪は断殺魔を上げて、青く燃え上がる。全てを焼き尽くし、残ったのは黒い炭と刀だけだった。
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