外へ
大河たちは三百五十年ぶりに食事をとる。食べ物があるのかと思ったが、テーブルに並んだ食事にそれは杞憂だったことがすぐに分かった。
調理された骨付き肉や果物、野菜も並んでいる。外には野生の鹿や牛などが生息していて、それを専門のマシンが狩りに行くらしい。シェルター内で冷凍保管していた種で、野菜も育てている。食材が余ったら缶詰にして保管するそうだ。
豪志はガツガツ食べていたが、錬は二口、三口と口を付けると箸をおいてしまった。
「どうしたんだぷー?」
「なんか、野性味が強くて……」
確かに独特の臭みがあるとは言わざるを得ない。
「なんや。そないな調子じゃ、戦えないんやないか?」
豪志の言う通り、錬はわら人形相手でもへっぴり腰で構えていた。大河には簡単に斬れたが、錬は何度か斬りつけなければ倒れない。
自分でも分かっているのだろう。錬は俯いて黙ってしまう。
「大丈夫だぷー。ぷーすけたちがアシストするし、慣れるまで果物と野菜でスムージーを作るだぷー」
錬はこくりと頷く。
大河は錬こそ、どうして戦いに赴こうとするのだろうと不思議に思う。ぷーすけは断ってもいいと言っていた。何か理由があるのだろうか。
食事したあと、少しの休憩を挟んで服を着替える。
「おお! 二人ともええやん!」
談話室に集まると、開口一番豪志が大河と錬の肩を叩いた。
「ちょっと派手だけど、この服動きやすいな」
大河は赤いダウンのベストを着ている。黒いズボンはかなり丈夫そうだ。
「そうやな。腕を回すのにも邪魔にならないで」
豪志は同じく黒いズボンに黄色いダウンのベストだ。錬は白いパーカーで、それぞれ色を変えているようだった。
「耐久性も耐火性も高い服だぷー。武器の火が燃え移ったりしないから安心するだぷー。じゃあ、外へ案内するだぷー」
大河たちはまずは外に出てみることにした。念のために武器を持ち、外に続く扉の前で耳にインカムのような機械を付ける。すると、目の前にぷーすけが現れた。
「「「うわっ!」」」
三人同時に後ろへのけ反る。
「驚いたかぷー? 拡張現実の技術を使っているのだぷー。これでいつでも、ぷーすけと一緒だぷー」
いつでも一緒にいる必要はないが、外にいく以上ぷーすけのナビゲートは必要だろう。なにせ、外は緑の怪物がさ迷っていると言う。
「じゃあ、行くで」
豪志がドアを開けて、続いている階段を上っていく。人がすれ違えるかどうかといった狭い階段で何度も踊り場を通った。
「はぁはぁ」
「錬、大丈夫か?」
呼び掛けても返事はない。大河でさえ、きつい階段だ。錬が音を上げてもしょうがないと思った。けれど、何度も顔を上げて、再び階段を上がり始める。
先を行っていた豪志が足を止めた。近づいてみると、そこには短い鉄のはしごと丸いハンドルが天井に着いている。
大河はごくりと息を飲んだ。間違いなく外に繋がっているだろう。
「じゃあ、開けるで」
ハンドルを回し始める豪志。ガコンと音が鳴って、丸い蓋が開いた。大河は差し込んでくる光に目を細める。
「よっと」
豪志が最初に外に出た。続いて大河、錬も地面から這い出てくる。
そこは森だった。
「なんや。何もあらへんな」
確かにこれでは外の世界が本当に滅んでしまったか分からない。まだ、実はさっき見せたのはCGでしたと言われても、頷けるだろう。
それでも錬は小刻みに震えている。確かにいつ緑怪という化け物が出てくるか分からない。それを気遣ってか、ぷーすけが言う。
「ここら辺は、ぷーすけたちのマシンが定期的に見回っているから緑怪は出てこないだぷー」
それならば出てすぐに戦闘ということは起こりにくいということだ。
「そこから後ろに百メートルほど行くと、目印になるものがあるぷー」
大河たちは後ろを振り向いた。そこも木々が茂っているだけに見えるが。
「行ってみよう」
目印とは何なのか。三人はそれぞれ武器に手を触れて、歩き出した。
歩いて三分ほどで景色が変わった。それを見あげて、大河はあんぐりと口を開ける。見覚えのある建物が建っていた。
「国会議事堂……」
間違いない。石造りの建物は所々、欠けていて草木が生えていた。それでも独特の屋根の形にずらずらと並んだ大きな柱は、元の姿を彷彿とさせる。
「なんや、これの下にシェルターがあったんやな。らしいっちゃらしいわ」
豪志が国会議事堂を睨みながら、頭をかいた。
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