武器

 当然の疑問だった。だが、ぷーすけはあっさりと言う。


「大河もそういう約束だったのだぷー」

「約束? そんなのした覚えないけど」


 大河は目が覚めるまで、普通の日常を送っていたのだ。


「……そういうこともあると思う。親が勝手に契約書のサインしたとか」


 視線をそらして錬が口を開いた。


「勝手にサイン……。ありうるかも」


 大河の父親はとにかく自分が言うことが絶対という親だった。逆らうことは許されない。そういえば、前の日、珍しく大河に食卓で話しかけて来た。いつも黙々と食事をする赤星家では珍しい。しかし、大河は何も答えなかった。

 あれが、まさか最後の会話になるだなんて思いもしなかったのだ。父親が何を言っていたかも覚えていない。

 父親は五十歳を超えている。コールドスリープで寝むってはいないだろう。

 ――いや、あるいは。


「なぁ、武器はどこにあるんや?」

「そうなのだぷー。こっちだぷー」


 大画面にいた、ぷーすけは台座の水晶の中に移動したように映し出す。カラカラと音を立てて、ドアに向かう。ぷーすけは振り返る。


「大河は来ても来なくてもいいだぷー。本人のやる気がなくてはとても戦えないのだぷー」


 大河一人残して、三人は部屋を出て行った。大河は俯く。


「どういうつもりなんだよ、親父……!」


 説明もせずに眠りにつかせたのも、戦う契約もしたことも。父親の考えが分からない。だけど、また眠るのは恐ろしい気もした。何も知らないならまだしも、いつここも怪物に攻め込まれるか分かったものではない。知らない内に化け物に潰されていたなんて笑えない。なにより自分の運命を人の手に委ねるなんて冗談じゃなかった。


「待ってくれ! 俺も行く!」


 大河は三人の後を追いかけた。





 案内されたのは、コンクリートの壁ではなく鉄の壁で囲まれた大きな部屋だった。


「ここは武器の保管庫兼訓練室だぷー」

「おお! すごいやん!!」「すご……」「これは壮観だな」


 そこには壁一面に様々な武器が並んでいた。かなり種類が多い。剣に弓に槍、矛に斧。ライフル銃やモーニングスターなんてものも飾られている。いや、飾りではなく実際に使うのだ。


「おお、まるでRPGの世界やんか!」


 興奮した様子で豪志が武器に近づく。錬も後に続いて、興味深そうにしげしげと眺めていた。


「大河はこれじゃないかぷー?」


 ぷーすけが手を伸ばして、壁にかけられている武器を指す。そこには一振りの刀があった。黒い鞘に納められている。


「どうして……」


 どうしてこれを選んだのかというより、どうして刀が合うと分かったのか。大河は中学まで剣道をしていた。全国大会にも出場していて、かなりの腕前だ。


「簡単な経歴データは保存してあるのだぷー。それとも違う武器にするぷー?」

「いや」


 大河は壁に掛けられている刀の鞘を掴む。


「これにする」

「なんや、大河が真っ先に決めてしもうたんか。じゃあ、俺はこれやな」


 意気揚々と豪志が手に取ったものは一振りの槍だ。


「俺、実は陸上のやり投げの選手やったんやで。東京の大学に通っていたんや」


 武器を投げちゃいけないだろうとは思いつつも、大河は口をつぐんでおいた。


「……うわ。軽い」


 錬が手に取ったのは銀色に光る切っ先が尖った鎌だ。


「それは特製のセラミック製の鎌だぷー。この部屋の中で一番軽い武器だぷー」


 すると、錬は鎌をブンブン振り回し始めた。


「うわっ」「危ないやんか!」


 身体のすぐそばを刃を通過する。慌てて大河と豪志は避けた。確かに錬の細い腕でも扱えるぐらい軽い武器のようだ。


「三人とも武器を決めたぷー。なら次はこのわら人形相手に武器を振ってみるだぷー」


 いつの間にか大きなわらで出来た人形が三体並んでいた。刀を使うのは初めてだ。そのうえ、しばらく竹刀も握っていなかった。果たして一回で両断できるだろうか。

 大河は人形の前に出て柄を握る。


「あ、ちなみに――」


 ぷーすけが何かを言おうとしたが、その前に大河は刀をスラリと抜く。


「な……」


 ボッ。低い微かな音が大河の耳だけに届いた。

 刀からは青い炎が出ていたのだ。よく見たら刀身に小さな穴が開いていて、そこからガスの炎のように出ている。手を近づけてみると本当に熱い。


「ここに置いている武器は全部炎が出る設計なのだぷー。これで緑怪に対抗できるのだぷー。普通の武器じゃ効かないのだぷー」


 ぷーすけの言うことに、豪志もこれかと言って、槍の柄にあるリングを回した。すると、槍からも青い炎が出てくる。


「さぁ、斬ってみるのだぷー」

「あ、ああ」


 大河は再びわら人形に向き直る。一度深呼吸して、燃える切っ先を構えた。


「はあッ!」


 斜めに一刀両断。切れ味は抜群。切り口も燃えている。

 これならば、どんな化け物にも対抗できる。大河はそう思った。

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