世界は滅んだ
「何言ってんんだ、このクラゲ。なぁ?」
大河はぷーすけの方を指さして、豪志と錬に同意を求める。しかし、次に豪志が言うことに目を瞬かせた。
「まあ、そんなことやろうと思っとったで」
「……ヤバイ状況なの?」
二人は大河よりもずっと状況を飲み込んでいる様子だ。大河は立ち上がる。
「ま、待てよ! なんで、朝目が覚めていきなり人類を救えなんて言われないといけないんだ! これゲームか何かなのか!?」
「何って。なんや、知らんのか?」
「何を?」
「大河は第一期募集で眠りについたのだぷー。知らないのも当然だぷー」
「第一期か……。じゃあ、親はかなり金持ちなんやな。息子に何の説明もせんで」
なにの第一期だと言うのだろう。しかし、親のことを言われると首を横には振れなかった。
「手っ取り早く外の状況を見せるのが、早いのだぷー」
ぷーすけが小さくなり、画面が切り替わる。錬がずいと前に出る気配を感じた。
映像は不鮮明で荒い。そこは緑で溢れていた。しかし、ただの山野ではない。ビルの窓を突き破って樹木が反り立っている。そんな荒廃したビルが大量に並んでいた。
どこの映像だか大河にはさっぱりだ。長崎にある軍艦島がこんな感じなのだろうか。いや、それよりももっと規模が大きい。
錬がつぶやく。
「これが、今の東京……」
「え!」
錬の顔を見るが、その眼は真剣に画面を見つめている。
「ま、まさか。ゲームの映像だろ?」
「あ! スカイツリー、折れてしもうてるやん!」
豪志が指さす右端を見ると、確かにスカイツリーらしき霞んだ青い鉄柱の残骸がぽっきり真ん中から折れていた。その残骸にも緑が茂っている。それもきっとCGだと、大河は思い込もうとした。
「東京タワーは無事なんやな。なんや、こうしてみると本当に緑に侵略されてしもうたんやな」
「侵略?」
「せや。緑の怪物って書いて
緑怪と言われても、全くイメージができない。
「これだぷー」
「うわ!」
いきなり大きく画面に映し出されて大河はのけ反る。緑の怪物と言うだけあって、全身が緑だ。食虫植物のように大きな口を開けている。まるでゲームに出てくる怪物だ。
「……こんなん冗談じゃない。これもCGで」
大河の口からは狼狽しつつも、否定する言葉しか出てこない。
「でも、本当だぷー。外に出てみてもいいだぷー。行くかぷー?」
「いや……、というか、ここは? 外はあんな状態なんだろう」
「ここは地下にあるシェルターだぷー」
「シェルター? じゃあ、東京の人はみんな隠れることが出来たんだな」
大河がそう言うと、空気がシンと静まる。その気まずい空気に大河は二人の顔色をうかがうことしか出来ない。二人とも俯いて神妙な顔をしていた。
「……全員は無理だっただぷー」
やがて、ぷーすけが静かに言う。
「入ることが出来たのは五十歳以下の、しかもシェルターへの物資を用意出来た人だけだぷー。これを見るだぷー」
画面が切り替わる。そこには大河も寝ていたコールドスリープの装置のような機械がずらずらと並んでいた。その中には人影が見える。
「みんな、眠りについているだぷー。緑怪を全滅させた未来に生きるために」
「東京都民越冬計画」
豪志がつぶやいた。豪志の方を見ると、指を組んで、じっと大河の方を向いている。
「コールドスリープみたいだって思ったやろ。その通りや。みんな、冬眠しているんや」
「種を残すために一部の東京都民は眠りについただぷー。ぷーすけたち機械に戦いを任せて、全てが終わったら目が覚めるのだぷー。いまは計画から三百五十年経っているだぷー」
「え、でも……」
三百五十年も経っていることにも驚いたが、大河たち三人はどうして目覚めさせれたのか。
「戦いは続いているだぷー。でも、ぷーすけたちでは対処できないトラブルが起きたのだぷー」
「何が起きたんだ、ぷーすけ」
豪志が身を乗り出し、錬も顔を上げた。大河だけが、未だにポカンとしている。
「司令塔の一つを占拠されただぷー」
画面が切り替わり、一つのビルが映し出された。
「ぷーすけはお助けAIだけど、対緑怪の戦闘マシンがいるのだぷー」
戦闘マシンが映し出される。足がたくさん生えたクラゲのような姿をしていた。もちろんボディは鋼鉄だろう。
「司令を送るのは、ぷーすけの役目なんだけどそれには電波を飛ばす必要があるのだぷー。だけど、電波塔は当然壊滅しているから、自前で司令塔として立てて電波を確保していたのだぷー」
「その、戦闘マシンで司令塔を取り戻せないのか?」
「何度もチャレンジしたけどダメだったぷー。しかも、あそこを拠点に緑怪は勢力を強めようとしているんだぷー。このままじゃ、他の司令塔も取られてしまうのだぷー! 頼むのだぷー! 占拠している緑怪を倒して欲しいのだぷー! 武器はあるのだぷー!」
ぷーすけは懇願するように涙を飛ばす。
「よっしゃ! 俺たちに任せるんや!」
「そういう、約束だったし」
豪志と錬は立ち上がる。二人はどうやら眠りにつく前から、何かあったら戦うつもりだったのだろう。しかし――。
「なんで、俺が……、選ばれたんだ?」
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