第七話 パワーアシストスーツなんて使うんですか?

「次に取材を受けるのは黒木くんですね。トレーニングルームで待っているはずです」


「待ってるっていうか隙あらばトレーニングルームにいるんだよ、アイツは。鍛えても鍛えても筋肉がつかないって言ってさ。紫村さんと違って愛想の悪いやつだから、取材する佐藤くんは大変かも!」


 赤間さんがケラケラと笑うのを聞いて、愛想の悪いだーいたい三十才の男を思い浮かべてみた。猫背で、人と目を合わせないようにうつむいて、ぼそぼそと喋る男。


 ここまでに出会った魔法使いは赤間さん、緑川さん、銀さんに白瀧さんに紫村さん。クセの強い人もいるけど、イケメンだったり、爽やかだったり、不器用だけど優しかったり。思っていた童貞魔法使いとは全然違う雰囲気の人たちばっかりだった。

 そんな中では一番、ドテマっぽい人が出てきそうかな……なんて思ってたのだけど。


「こちら、黒木 智也くん」


「……ども」


 緑川さんに紹介された青年と言ってもよさそうな男性は仏頂面で軽く頭を下げた。俺と目を合わせようとしない黒木……さん? くん? を見て、俺は思い出した。


 愛想の悪いただの人は根暗で気持ち悪いと表現されるけど、愛想の悪いイケメンはクールでカッコいいと表現されることを!


 黒木さん? くん? も多分、きっと、魔法使いで童貞なんだろうけど、別にモテなかったわけじゃないのだろう。どーせ、モテなかったわけじゃないのだろう!

 だってモデルみたいにすらりとした体型といい、切れ長の目や整った顔立ちといい、黒猫みたいなさらっさらの髪といい、愛想が悪くてもクールでカッコいいと表現される要素満載だから。


「世の中、不公平だー……」


 なんて、こっそりぼやいていると、


「ちなみにぴっちぴちの二十六!」


 赤間さんが元気一杯、大声で言った。


「赤間さん、その言い方はやめてください」


 黒木さん……くんが眉間に皺を寄せて言った。顔をしかめてもイッケメーン! と思ったのは一瞬のこと。


「ぴっちぴちの二十六!?」


 思わず大声で聞き返していた。

 んでもって――。


「……記者さんもやめてください」


「ご、ごめん!」


 黒木くんの低い声に慌ててあやまるなり黒木くんの眉間にできた皺がさらに深くなった。年下相手に顔色をうかがう俺を軽蔑したのかもしれない。情けなくなって、俺はヘラヘラ笑いながら逃げるように赤間さんと緑川さんに顔を向けた。


「に、二十六才でも魔法使いになれるんですね」


「いえ、妖精災害対策課魔法室には魔法が使える魔法使いだけでなく、魔法は使えないけれど妖精を見ることができる魔法使い見習い……三十才未満の魔法使い候補も所属してるんです」


「黒木はその魔法使い見習いなんだよな!」


 魔法使い見習いなんてものがあるのか。そこもちゃんと記事にしないとな、なんて考えていると――。


「赤間と緑川と……今日、来るって言ってた記者さん?」


「……」


 黒いウェットスーツみたいな格好をしたイケメン二人がやってきた。

 それともう一人――。


「黒木、これから取材か? がんばれよ!」


「……黄倉先輩に言われなくてもがんばります」


「素直にがんばりますって言えよーーー!!」


 黒木くんに塩対応されて半泣きになっているフツメン・黄倉くんも、イケメン二人の後ろからひょっこり顔を出した。

 その扱いの軽さ……ものすごーーーく黄倉くんに親近感を覚えてしまう。半泣きの黄倉くんにつられて俺も半泣きになりそうになった。


「魔法使いの青柳さん、桃瀬さん。それから黒木くんと同じ魔法使い見習いの黄倉です」


 黒木くんは黒木くん・・なのに黄倉くんは呼び捨てなんですね、緑川さん! と、ツッコミたいのをグッと堪えて俺は青柳さん、桃瀬さんに目を向けた。


 背が高くて男らしい外見の青柳さんと、小柄で一見すると女の子みたいに見える桃瀬さん。王子様っぽい優し気な微笑みを浮かべる青柳さんと小悪魔的な微笑みを浮かべる桃瀬さんが並んでいるとアイドルユニットみたいだ。

 そんな二人と黄倉くんが着ているウェットスーツ的なのを指さして俺は首を傾げた。ケーブルっぽい物が見えているからただのウェットスーツではないと思うのだけれど。


「あの、その格好は……」


「パワーアシストスーツだよ。ほら、空気圧や油圧、人工筋肉とかで人間の身体機能を補助する装置。工場や農作業で重い荷物を運んだり、介護の現場で使われたりしてるのがあるでしょ? あれ、あれ!」


 桃瀬さんの説明に俺はまた首をかしげた。


「魔法使いは妖精に触れたり魔法を使うことができるし、ちょっとだけなら身体能力もあがるんだけど……本当にちょっとでね。だから、このスーツを着ることで補助してるってわけ」


「……」


 桃瀬さんに同意するように青柳さんが王子様スマイルでうなずいた。無言でうなずいた。


 パワーアシストスーツ、生体強化スーツ、ロボットスーツ……。

 いろんな呼ばれ方をするけど、魔法使いとは縁遠い機械工学系の技術だ。なんでそんなものが警察庁妖精災害対策課魔法室ここに? と、思ったけど……なるほど。


「妖精と戦うためにいろいろと取り入れてるんですね」


「紅野さんや紫村さん、他の先輩たちが妖精との戦いを手探りで模索してきてくれたおかげです」


「偉大な先輩たちの恩恵を俺たちは受けている!」


 緑川さんの言葉に笑顔でうなずいた赤間さんだったけど、


「でも、このスーツ。窮屈で苦手なんだよなぁ」


 すぐに渋い顔になった。そんな赤間さんに、


「そう? 俺は気に入ってるよ。ヒーロースーツみたいでかっこいいし」


 桃瀬さんは目をキラキラ輝かせてそう言ったのだった。

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