第八話 青柳 拓也(33)/桃瀬 良太(33)の場合

「そう? 俺は気に入ってるよ。ヒーロースーツみたいでかっこいいし。な、拓也!」


 桃瀬さんは目をキラキラ輝かせてそう言った。妖精や魔法使いの話をするときの銀さんと同じ。子供みたいにキラッキラした目だ。


「……」


「ヒーロースーツ、ですか」


 キラッキラアイドルスマイルの桃瀬さんと無言でうなずく青柳さんを見て、俺はオウム返しにつぶやいていた。言われてみれば見えないこともなくもない。

 だけど、その発想は……。


「ヒーローだなんて子供っぽいって思ってる?」


 意地の悪い笑みを浮かべて桃瀬さんが俺の顔を下からのぞきこんだ。


「い、いえ……!」


「いいよ、いいよ。昔から散々、言われてきたことだから」


「……」


 そう言う桃瀬さんの隣で青柳さんもにっこりと王子様スマイルをしている。


「俺と拓也は中学の頃からの付き合いなんだけど、仲良くなったきっかけが魔銃戦隊ガンレンジャーなんだ。ガンレンジャー、知ってる?」


「……一応は」


 俺が小学校中学年か高学年のときにやっていた戦隊ヒーロー物だ。毎週日曜、弟たちが食い入るように見ているのをお子ちゃまめーと思いながら眺めていた。

 小学生の俺がお子ちゃまめーと思っていたのだ。中学生だった桃瀬さん、青柳さんの同級生なら――。


「クラスの連中にガンレンジャーが好きだ、将来はガンレンジャーみたいなヒーローになりたいんだって言ったら大笑いされて。お子ちゃま扱い、オタク扱いされて!」


「……」


 まぁ、そういう反応になるだろう。苦笑いで肩をすくめる桃瀬さんと、黙ーってうなずく青柳さんに俺も苦笑いした。

 でも――。


「あのときは笑われて恥ずかしかったけど……」


 すぐに苦笑いしたことを反省した。


「好きなものは好き、憧れのヒーローになりたいって言ってよかったって、今は思ってる。だって、たった一人、笑わないで真剣に話を聞いてくれるやつに出会えた。ガンレンジャーみたいなヒーローになりたいって夢をいっしょに目指してくれるやつに出会えた」


「……」


 だって、同級生たちに笑われても二人はヒーローに憧れて、ヒーローを目指して魔法使いになったのだから。


 互いを見つめて微笑み合う桃瀬さんと青柳さんに俺は首からかけていたカメラのレンズを向けた。白瀧さんに掛けられた魔法・箝口令かんこうれいで二人の顔は写真に映らないかもしれない。それでも、二人の笑顔を撮っておきたいと思った。


 シャッター音に気が付いた桃瀬さんは照れくさそうに頬をかいた。


「記者さん……佐藤くんだっけ? 銀さんからちらっと聞いたんだけど、レベル1の妖精が見えるんだって? ほら、トカゲ型の……」


 銀さんの指を食い千切った、あのトカゲ型妖精のことだろう。俺がコクリとうなずくと赤間さんと黄倉くんが驚いた声をあげた。黒木くんも目を見開いている。

 そんなにびっくりするようなこと……なのだろうか?


「レベル1の妖精って魔法使いか、もうすぐ魔法使いになれる魔法使い見習いにしか見えないんだよ」


「二十九才の黄倉は見えるけど、二十六才の黒木くんはまだ見えないんです」


 緑川さんの補足説明に満足げにうなずいて桃瀬さんはダンスのステップを踏むように軽やかな足取りで俺の目の前までやってきた。

 そして、つま先立ちで俺の耳に顔を寄せると――。


「ここにいる人たちは色んなモノを背負ってる人たちが多い。でも、そうじゃない俺らみたいなのもいるから……」


 まわりに聞かれないよう小さな、小さな声で囁いて一歩下がった。 


「だから、もし魔法使いになりたいって思ったら気負わずに来てよね。俺たちは大歓迎だから!」


 後ろ手に組んでキラッキラなアイドルスマイルを見せる桃瀬さんと、桃瀬さんが何を囁いたかわかっているかのように王子様スマイルでうなずく青柳さんを見て思った。


 そんな風に言うけど二人が魔法使いになった理由だってカッコいい。十分すぎるくらいカッコいい。

 俺には――本当に記者なのか? と白瀧さんに尋ねられて、いまだになんて答えたらよかったのかわからない俺には痛くてまぶしいほど。

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