第13話 ツンデレ男子・ライト(1)

「あははははははっ!!!!」

 同期の頏河明日那は涙目になりながら、私・名川松子を指差して笑っている。

 この状況、デジャヴじゃないかと私は首をかしげる。

「まさか、ここもゲームの世界かな??」

 私がそう言うと、明日那は腹筋が崩壊したようだ。笑いが止まらなくなり、死にそうになっていた。

 前回はラーメン屋、今回は休憩室、次回は……こんな爆笑イベントが起こるのなんて考えたくない。


「……へっヘヘっ。でも、そのモブって人は良い人だね」

 やっと明日那の笑いが治まってきたようだ。まだ、完全ではないが。

「はぁ??何処どこが??」

「いやー、他人はそこまで言ってくれないよ??自称以外は」

 まさか……モブはあぁ見えて毒舌キャラなんだろうか。そんなやつと一緒に旅なんて……私は耐えられるのだろうか。

「でも、そんだけいろんな情報を持ってるとさ、アレだよね??」

「……アレだよね??」

 明日那が何を言いたいのかが分からず、私はオウム返しをしてしまった。

「よく主人公の側にいるじゃん。えっと……なんて言うんだっけ……お助けキャラ……だっけ??主人公の親友ポジションのやつ」

 その言葉を聞いた私は、納得してしまった。

 確かにモブは攻略対象キャラについて、無駄に詳しかった。私の行動にもこうすれば良かったとか改善案を出していた。さらに、無駄に世界の知識が豊富だった。それが、主人公のお助けキャラなら話は別だ。この混沌とした世界で、私を導いてくれる神のような存在となるのだ。

「まぁ、でも……」

 そう言うと、明日那はうーんっと悩み始めた。

「えっ??何??」

 疑問に思う私に対して、明日那はニヤリと笑いながら答えた。

「そのモブ……顔立ちがまぁまぁ良いって言うんなら、ひょっとして攻略対象かもよ??」


 あの後、私が大泣きした話は、社内で噂になっていた。課長は言い過ぎたと思ったのだろう。私が会社でバリバリ食べている塩飴を、大量に買ってきたのだ。そして、私の机にそっと置いて席に戻ったのだ。


 私は子どもか!?


……と思いつつ、課長のせいじゃないけど有り難く貰った。その日は定時上がりでも、課長が嫌味を言うことなくスムーズに帰れた。


 そう。飴をボリボリ食べながら歩いて帰っていた……のだが、その道中にまたも異世界召喚されたようだ。

 私の目の前に、またもモブが現れたのだ。

 私の姿を見た瞬間、モブはスライディング土下座でもするのかと言うくらいの勢いで走ってきて、平謝りしてきたのだ。

「本当にごめん!!」

 そう言うモブを見ながら、私はボリボリと飴を食べていた。

 お助けキャラなら、私に駄目出し評価をすることだってある。

 ゲームによっては、主人公を勝手にライバル視して馬鹿にしてくるようなヤツや、主人公を無駄に追いかけまわすヤツ、バトル中に殴り倒したくなるようなヤツだっているのだ。そう考えると、モブは殴り倒す程ではない。

 もし、明日那が言っていたように攻略対象ならば……彼は何とも可哀想な存在だろうとあわれんでしまう。

 だって現時点でモブと言うことは、ゲーム自体から攻略対象外にされたということだ。予算の都合なのか、このキャラに似た男に女を取られた男の逆恨みによるキャラ抹消まっしょうかもしれない。

 そんな可哀想な背景を思うと、今までの言動は水に流してやろうと思えるくらいだ。

「俺、バカ正直に物を言うから、それでよくリヒトに怒られてんだ……そんなんだからモテねぇんだって」

「そうだろうね」

 頭を下げたまま、モブはぐっと声を上げた。ふふっ、私のようにするどいナイフが刺さったのだろう……痛かろうに。

「松が泣きそうな顔で消えるのを見てさ、俺……取り返しつかないことしたって後悔したんだよ。もう二度と松がこっちの世界に来ないんじゃないかって……」

 私の意思でここに来ている訳ではないが、飛ばなくなったらそれはそれでいいやと思ってた。

「だから俺!!松が戻ってくるまでずっと待ってようと思ってたんだ」

 その言葉を聞いて、私は見渡した。

 どうやらここは、モブと一緒に入った大衆食堂の入り口の横にある細道のようだ。それよりも、さっさと次のクリスタルの場所まで行ってくれてれば楽だったのに。


 ふと、私は手を止めた。ゆっくりと手のある方向を見た。

 そこには、課長から貰った飴玉袋があったのだ。これはまさか……

「モブ……許してほしい??」

 モブは顔を上げて、驚いた顔をしていた。

「……許してくれるの??」

 私は頷きながら、にこりと微笑んだ。

「一つだけ、条件があるの」

「……おう!!何でもやるぜ!!」

 知識量が豊富なモブならば、きっと探し当てるはずだ。私が求めている情報を……私はニコニコと笑いながら言った。

「異世界に持って帰れて、これはだってわかるもの。それを見つけてほしいのよ」

 それさえあれば、明日那を信じさせることができる。そうしたら、本当に私が異世界に召喚されたことを証明できるのだ。

「あぁーっ、それならあるぜ??」

「えっ!?あんの!!??」

 私は驚いて、モブの肩をつかんだ。はよはよと急かしていると、モブは顔を横に反らしながら答えた。

「えっと……王族の持つ装飾品なら、確か神の加護が付いているんだ。それなら、時空を超えて松の世界へ飛べるはず……」

「ほぅ!!」

 つまり、王様かリクルンの装飾品を奪えばいいということか。王様は課長だし……後が怖そうだから、リクルンにしよう。

「さぁ!!そうなったら、善は急げ!!行くわよ、モブ!!」

 次に手に入れる予定の怒りのクリスタルを手に入れたら、再度城へ行くことになる。その時、リクルンの執務室へ行けばいい。リクルンなら、装飾品を奪われたくらいじゃ何もしてこないだろう。それにリクルンは明日那の推しだから、そんな装飾品を私が持って帰ればきっと泣いて喜ぶはずだ。


「んっ……モブ??」

 私が走り出したというのにモブは着いてきている様子がないのだ。振り返ると、申し訳なさそうな顔をしたまま、その場に立ち尽くしている。

「……モブ⁇……まっ……まさか、あんたも!?」

 今までの攻略対象達と同じ展開を感じた私は、身体が勝手に震え始めた。モブは頭をきながら、私に向かって声を発した。

「いや……俺、一緒に行ってもいいの??」

 その言葉に、私は拍子ひょうし抜けしてしまった。まったく、モブと言うやつは……

「当たり前でしょ!!私達、なんだから!!」

 そう私が言うと、モブはまた驚いた表情をした。そして、満面の笑みを浮かべた。

「おう!!……松、行こうぜ!!!!」

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