第12話 モブの恋愛講座(2)

「じゃあ……リーくんは⁇」

 私の言葉を待ってましたと言わんばかりの顔をするモブに、若干じゃっかんいら立ちを覚えた。


「まず、今までのおさらいをしよう」

「はぁ……」

 そう言うとモブは私の方に手を向けて人差し指を立てた。

「一、自分勝手な行動は、相手を不快にする」

 言い終わると、次は中指を立てた。

「二、相手を思いやらない行動は、千年の恋をも冷めさせる」

 そして、次に薬指を立てた。

「三、仲間を見捨てるやつは、仲間にも見捨てられる」

 次に小指を立てた。

「四、傷を負った人間は、それを助けた人に想いが動いてしまう」

 そして、最後はパーの手になった。

「五、心からの思いとおどして思わせる思いは、全ッ然異なる」

「……まだあんの⁇」

 モブの言葉に図星をさされた私は、まるで刃物が全身に刺さっているような気がするのだ。

「まぁ、俺が見た感じだとここら辺かな⁇この五つを気を付けていたら、盲目もうもくな男性陣を手玉に取れたと思うよ⁇松、なんだかんだ可愛いからさ」

 そう言ってモブはニシシッとでも言うかのように笑った。散々人をおとしめておいて、ここにきて自分上げの褒め落としかと。そんなモブに、私はムカついた。

「でも、別に私はリーくんが良かったんだし、他なんて……ねぇ⁇」


「さて、本題だ。リヒトの場合、上記の問題なんて関係ない」

「ほら!!」

 私はモブに勝ちほこった顔をした。すると、モブはやれやれと首を振りにこりと笑った。

「ただ、リヒトは恋愛より仕事が大事なんだよ」

「はぁっ⁇」

 あのナンパ師であるリーくんが⁇誰彼構わず口説いていたあのリーくんが⁇コイツは何を言っているんだとしか言いようがない。

「リヒトはな、今回の遠征で部隊長に任命されていたんだよ」

「部隊長⁇」

「あぁ。なんだ、松はそこは知らないのか⁇俺とリヒトは傭兵ようへい部隊に所属しているんだ。今回、どちらが遠征の隊長として行くかきそわされてたんだ」

 そんな話、ゲームには一ミリも出てこなかった。確かにリーくんは、仲間に入った当初からレベルが強いのだ。チャラ男なのに、陰ながら努力する人だと思っていたが、そう言う設定だったのか……知らなかった。

「んで、松が出会った日は隊長がリヒトに決まった日なんだ」

「おぉっ!!おめでたい!!リーくんおめでとー!!!!!!」

 私は笑顔で拍手はくしゅをすると、モブは苦笑いをしながら言ってきた。

「ただ、あの時……松がリヒトと出会った路地裏を覚えているか⁇」

 モブは何が言いたいのだろうかと思いつつ、私はうなずいた。私とリーくんの出会いは、すべて覚えている。

「あの時、俺も松の後について路地裏にいたから気づいたけど、リヒトを襲っていた魔族……アイツは只者ただものではなかった。俺は瞬殺だろうけど、リヒトだってやられていたと思うんだよね」

「まぁ……そうだね!!でも、私が助けたし!!」

 すると、モブは手をたたいて、私の方に指を差してきた。ムカついたので、はたいたが。

「いてっ……まぁ、それよ。もしその時にリヒトがやられていたら、次の日からの遠征へ行けずに、泣く泣く俺が隊長として行かされることになるはずだった……わけよ」

「はっ⁇」

「あの時、松がリヒトを助けなければ、リヒトは遠征に参加ができない。そしたらリヒトはまたやさぐれて、その……色んな子に声かけ回ってたと思うんだよね」

 つまり、私はゲームのシナリオを改変したと言うことか。最悪な方向に……

「でも……恩人になら、リーくんだって心揺れるはずよね⁇」

 私は腹の底から声を出した。だが、まるでミュートをかけられそうになっているのか、か細い声しか出ない。

「いや、それは無理だ」

「なんで⁇」

 食い気味に私は問いかけた。今なら、ホラー映画に出るお化けが人間を呪い殺す気持ちが分かるかもしれない。私は今、目の前のモブが余計なことを言ったら呪い殺せる気がするのだ。

「リヒトはさ……恋愛がしたいタイプなんだよね」

「……私もだけど⁇」

 コイツは何を言っているんだと私はジトッとした目でにらんだ。モブはハハッと弱弱しい笑いの後に言った。

「松がやってるのって、恋愛って言うよりは恋……なんだよね⁇」

「恋⁇」

 私は首をかしげけると、モブは申し訳なさそうな顔をしながら答えた。

「一方通行で、相手のことを考えない。自分の思った通りに動かないのはおかしいって考えるの……相手は自分の為に生きているって思っているような感じ……」

 恋と恋愛……何が違うのだ。モブは私に何を言いたいのだ。


「でも、私は……」

「恋愛って二人でするものだからね。独りよがりだと、それは恋でしかないよ⁇」

 その言葉に、私は言葉を失った。

 私は一人で恋愛をしているとでも思っているのだろうか。それとも、私が作った土俵に乗っていない相手を、引っ張りこもうとしているとでも言いたいのだろうか。口をパクパクとさせながらも、なんとか反論をしようとした。

「あっ……愛ならどうよ⁉」

「残念だけど、愛も同じ。それも一方通行だろ⁇想い想われるのが恋愛ってもんだ」

 モブに……モブなんかに論破されるなんて……どうだと言わんばかりのモブの顔が、ドヤ顔に見えてしょうがない。

「はっ……母の愛!!!!」

「それは家族愛でしょ。家族と他人を比べたら、話にならなくなっちゃうよ」

 何故なぜだろうか。今、目の前にいるモブは、まるで入社当初の私を言い負かしてきた会社の先輩みたいだ。勝てないことに悲しくなってきた私は今にも泣きだしそうな顔をしていた。そんな私に対して、モブは非常に申し訳なさそうな顔で追い打ちをかけてきた。

「後は……その……リヒトは大人の女性が好きなんだよね」

「……あっ⁇私、リーくんより年上だけど⁇」

 そんくらい知ってるけど、何が言いたいんだと切れそうな私とは目を合わせないようにモブは顔を逸らした。

「その……豊満な女性……のこと……なんだよね」

 その言葉に、私はゆっくりと胸に視線を下ろした。ぺったんとは言わないけど、ふくよかな男性には確実に負ける程度のふくらみしか、そこには無かった。

 私はゆっくりと顔を上げて、モブの顔を見た。私が一言も言葉を発さなかったので、気になってこちらを見たようだ。目が合うと、苦笑いをしていた。

「まぁ、もしそれが無くても、松は無理だと思うんだよね」

「……なぜ⁇」

 私は震えながらもモブの顔を見た。

「リヒト怖いの苦手なんだよ。松の……あんな鬼気迫るような行動は、確実にアウト……なんだよね」

 何故だろうか。


 段々と視界が白くなっていく気がした……


 ……


「……松⁇」

 突然、目の前に同期の頏河明日那が現れた。またも異世界から戻ったようだ。私は突然現れた明日那に、驚く気力すらなかったのだ。

「明日那……」

「いやー、大変だったね。あんなに言わなくてもいいのにね」

 私は明日那の言葉に、涙が滝のように出てきた。明日那は……わかってくれたのだと。

「えっ⁉松!!⁇」

 私の涙に驚いた明日那は、必死になだめようとするも逆効果だった。大声で泣き出したのだ。

「明日那ー!!!!だよね⁉だよね⁉モブってやつは冷凍庫のような心の持ち主だよね⁉ねっ⁉」

「はぁっ⁇モブ!!⁇……はぁっ!!⁇」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る