第13話 ツンデレ男子・ライト(2)

 怒りのクリスタル……それは、島の南海岸の近くにあるほこらに飾られている。

 昔は誰でも触れるような観光所みたいな扱いだったが、今では魔物が溢れ返っていて誰も近寄らない場所となっていた。


「はい」

「えっ⁇」

 魔物が溢れる祠に辿り着く直前に、私はモブに盾を渡した。困惑するモブに、私は笑顔で言ったのだ。

「これ、魔力耐性のある盾だから、これを装備していればモブも戦えるよ」

 これから行く場所は魔物が沢山いるような場所だ。

 魔力耐性の無いモブは瞬殺されてしまう。だから、モブが大衆食堂でまたもご飯を食べている間に、私は防具屋へ行って有り金をはたいてこの盾を買ったのだ。王様のおかげで良い盾が買えたのだ。感謝するしかない。

「ありがとう!!だけど……俺、双剣なんだよね」


 ……


 沈黙が流れた後、私は祠の方へ向かって歩き始めた。

「えっ⁇ちょっと待って!!」

 あわてて着いてくるモブを無視しながら歩いていると、岩の陰から人がスッと出てきた。

「!!……誰だ!!⁇」

 モブが私を守るように前へ立った。こういうところは確かに攻略対象と同じだ。

「……君達、この先に行くの⁇」

 淡いピンク色の髪のショートヘアー、瞳はそれよりも濃いピンクの猫目をしている少年だ。ローブを羽織はおり、杖を持っている。

「そうだけど……あんたは⁇」

 なんかモブが勝手にかじを切っている。だが、そんなモブを無視するように、少年は私の顔を見ようとのぞいてくる。

「ねぇ⁇僕も一緒に行ってあげてもいいけど、どうする⁇」

 コイツはゲーム通りに出てきやがった……面倒くさい。

「誰かもわからねぇヤツなんか、連れて行けるわけ……」

「お願いします」

 モブの背中に張り付きながら、私は無表情に答えた。驚いたモブが私に何か言ってきているが、無視をした。

「ふぅん。まぁ、当然だよね。俺は大魔導士のライト・ノインフェス。よろしくね、異界から来た……」

 そう言いながら、ライトは私の顔を見つめる。本来ならここで、主人公が名を名乗るのだが、お前に名乗る名は無いとにらみ返した。

「なっ、なんで松が異界から来たって知ってるんだよ⁉」

「へぇ⁇松って言うんだ。よろしくね」

 モブが慌てて口をすべらしやがった。ライトはモブの顔を見ながら、鼻で笑っていた。

「救世主様で」

「えっ⁇」

「あんたは私をと呼んでちょうだい」

 そう言いながら、私はモブの背中に張り付きつつモブを押し始めた。

「さぁ、さっさと行くよ」

「えっ、あっおう⁇」

 何が起きたのかわからないモブは困惑しながらも歩き始めた。ライトはポカンと口を開けていたが、置いて行かれたと気づいたのだろう。慌てて走ってきた。


 そう、ライトも攻略対象だ。

 登場した時は、とても可愛らしいツンデレ男子が来たと喜んだのだ。だが、すぐに始まる戦闘でその想いは消し去られたのだ。


「おっ!!魔物の群れが見えてきたぞ!!」

 モブの言葉を聞いた私は、モブの陰からスッと顔を出した。こちらに気付いた魔物が仲間を引き連れて襲い掛かってきたのだ。

「よし!!いく……ぐぇっ!!⁇」

 今にも走りだそうとするモブの首根っこをつかんだまま、私はしゃがんだ。こんなことになると思っていなかったモブは、そのまま倒れ込んで尻もちをついた。

「いってぇぇぇっ!!ちょっと、松⁉」

「モブ!!!!盾を構えて!!!!」

「えっ⁉はい!!!!」


 モブが盾を構えた瞬間、目の前が光った。

「うえっ!!⁇」

 モブは驚きつつ、盾を頑張って構えていた。多分、今モブの手はビリビリと震えているに違いない。これは雷魔法だ。

「うぉっ!!⁇」

 次に氷柱が飛んできた。盾にぶつかるとドガンッッッと大きな音を立てた。辺り一面に氷柱がグサグサと刺さり始めた。これは氷魔法だ。

「なっ!!⁇」

 最後に、辺り一面を炎が包み込んだ。だが、盾の魔力耐性の効果により、私まで包むように守ってくれたので、火に当たることは無かった。


「な……なんなんだよ!!⁇」

 炎が落ち着いたところで、モブは盾から顔を出し騒ぎ始めた。

「……なんだ、生きてたんだ⁇」

 先ほど魔物が向かってきていた場所に、いつの間にかライトが立っていた。そして、その周りには数々の魔物が倒れていた。

「これが、俺の魔法。最強の魔法使いさ」

 そう言うと、ライトはえらそうな笑みを浮かべた。

 私がライトを嫌う理由、それは登場してから十秒しないで起こす、この事件があるからだ。ここで、ライトの魔法の強さと他の味方を敵視する姿が見られるのだ。そして、主人公にこんな弱い奴らより俺と二人で行こうよとささやいてくるのだ。

 そこまでなら、ぶっちゃけ許せるのだ。リーくんを連れていたら、リーくんだけ無傷だったりするので、リーくんのカッコよさが際立つシーンなので全然良かった。

 だが、リーくんがいない場合、その後が問題なのだ。


 ――ギャオォォォォォォォォォッッッ


「えっ⁉なんだ!!⁇」

 そう、ここにいた魔物が全滅すると、ボス戦に入るのだ。

 そいつは海にむ魔物だ。クジラのような大きさに、サーベルタイガーのような牙を持つアンコウだ。

「やべぇな……ライト!!協力して倒すぞ!!」

 モブは盾を構えながら、ライトに声をかけた。

「……無理」

「へっ⁇」

「もう、魔力……切れ」

 そう言って、ライトは倒れた。コイツは仲間を瀕死ひんし状態にさせておきながら、自分はここで魔力切れになって倒れるのだ。本当にクズ過ぎるキャラだ。

「えっ⁉松、どうしよう!!⁇」

 モブは戦闘要員のライトが倒れたことにより、かなりあせっている。そりゃあ、そうだ。目の前には巨大な魔物がいる。魔力耐性の無いモブが戦うとするなら、自殺行為だろう。だが、問題ない。

「……大丈夫、モブ」

 そう言うと、私はモブに視線を向けた。何を言っているんだと思っていそうな顔で私を見つめるモブに、私はニヤリと笑いながら魔物を指差した。

「あれ魔物だけど、魔力耐性しか無いからモブでも倒せるよ」

「えっ⁉本当に!!⁇」

 モブは少し悩んだようだが、決意して盾を地面に置いた。そして、双剣を取り出して魔物に向かって行った。お互いに魔法が使えないので、物理攻撃で戦うしかない。そうなると、勝敗は見えている。


 ズシャッ――


 良い音を立てながら、モブは魔物を切り裂いたのだ。切り裂かれた魔物は奇声を上げながら、泡となって消えたのだ。

「はぁっ……はぁっ……倒した⁇……俺、初めて魔物を倒した!!!!」

 モブは大きな叫び声を上げて喜んでいた。そんなモブを見ながら、私は拍手はくしゅした。そんなに喜ぶとは思わなかったが、あの最弱スライムに負けるのだ。だからこそ、こんなに強い魔物を倒せたら嬉しいのだろう。

「松、松ー!!!!」

 私の方へ振り返ったモブは、両手をブンブンと振りながら走ってきた。

 モブが右手を構えているので、きっとハイタッチをしようとしているのだろう。私も右手を構えて、ハイタッチをしたのだ。


 バチンッ――


 良い音がした。

 とても……良い音がした。手のひらがビリビリと痛くなってきたのだ。

 私は目の前を見ると、壁があった。恐る恐る右手を見ると、私の右手は電柱とハイタッチをしていたのだ。

「……ぃいったぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!⁇⁇」

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